スーパーにて 1
「今日はいつもより寒いな……」
手を摩りながら、ストーブの前でしゃがみ込む。
もう2月も半ばだというのに、一向に暖かくなろうとしないこの頃。
むしろ寒くなったと感じる。
今日はある物を買いにスーパーまで行かなければならない。
それを買うのに問題が一つある。
まず、スーパーまで無事に辿り着けるか、だ。
今日のご近所さんの機嫌によるかもしれないが……。
今まで邪魔をされなかった事などない。
今日邪魔をされないという保障すらできない状況だ。
「さて、と……」
手袋とマフラーを忘れずに装着し、憂鬱になりながらも自宅を出た。
頬に突き刺さるような寒さを感じる。
道路は雪解け水が水溜りと化し、あたりは水浸しだ。
「これだから都会は……」
田舎なら、雪は溶けずに残る。
しかし都会では田舎より気温や道路の温度が高いせいか、雪がはやく溶ける。
しかもこんな寒さの中だ、水溜りの水が冷やされて足元が冷える。
「……ったく、長靴でも履いてこればよかったのか……ってあれ?」
愚痴を漏らしながら歩き続けていると、すんなりとスーパーに着いてしまった。
いや、いい事なんだけども。
あの、隣家に何もされなかったのが不思議でならなかった。
「ま、まあ……いいか……」
もしかしたら寝てたのかもしれない、だったらラッキーだ。
むしろこれからもそうであって欲しい。
というか、頼む。お願いします。
スーパーの入り口で一人佇む男、何やら両手を合わせお辞儀している。
「……ん?」
背後に人影を感じ、そこを退こうと身を引く。
同時に顔をそちらに向けると、そこには若い女性が突っ立っていた。
長い黒髪。なぜか背筋に寒気を感じるその黒い瞳。
俺は自然と、その人を凝視していた。
女性も、俺から目を離そうとしない。
二人の間に、変な空気が漂いつつあった。
「あの、何か……?」
俺はかろうじて動じず、そのままの姿勢で女性に尋ねた。
女性はうんともすんとも言わず、俺から目を離さない。
「…………」
なんなんだこの人は?
何か嫌な予感がする。直感だが……感じる。
この人はやばい。
俺は女性と反対方向ーースーパーの中へと歩き始めた。
その女性から逃げるようにして。
その刹那。
「……グフッ‼︎」
背中に何かが刺さった。
貫通はしていないようだが……痛みが並じゃない。
そこで始めて俺は気づく。
そこに居た女性の髪が……あの隣家の住人の髪に似ていることを。
その女性は不敵な笑みを浮かべて、嘲笑うように俺を見ている。
やられた……!
まさかここまで来て、俺の邪魔をするだなんて思いもつかなかった。
背中に感じる痛みが段々と引いて行く一方、俺は急激に瞼が重くなるのを感じていた。
「お前……一体何を……」
ついに俺は、意識を保つことができなくなり、気絶してしまった。