回覧板
僕はどこにでも居る、ただの大学生。
地方に来て一人暮らししながら大学へ通っている。
僕の家のお隣さんは、とても面白い人です。
あ、いえ。これは嘘です。
ほんとうは、微塵も面白くありません。はい。
「……また来たよ、コレ」
寝起きドッキリか何かなのか、それとも、天のイタズラなのか。
僕が最も嫌いなモノ……は、納豆だが、その次に嫌いなモノは『回覧板』だ。
ただ隣の家に回せばいいもんじゃない。
こっちには命がけなんだ。
「今日が命日でありませんように」
回覧板を手に、僕は外へと飛び出した。
辺りはどうか……、いや、何ともないな。至って普通だ。
問題は……
「んん〜」
唸り声を垂らしながら、僕の目はただ一軒の家を睨んでいる。
おぞましい。この家は、とてもおぞましい。
恐る恐る、ポストへ足を運ぶ……
回覧板の、端っこがポストに入るのを目で確認したので、勢いつけて一気に放り込んだ。
ーーそれが仇となった。
回覧板がポストに入りきった後、目に止まらぬ速さで玄関が開き中からどでかい「こぶし」が飛びててきて、僕の顔面にクリーンヒットさせた。
「ブフォッ!!」
背後の電柱に叩きつけられ、軽い脳震盪を起こした。
これは夢ではない。
頭に響く痛みが、そう語っていた。
「いってぇ……」
どんな仕組みなんだ一体。
というか、何で僕が居ると分かったんだ。
そこで、「……はっ!」と僕は気づいた。
「ポスト、か!!」
一見、何の変哲もなく見えるポストに、何かしらの仕掛けが施されていて、僕が回覧板を入れたことによってあの装置が起動したのか!
くそっ! やられた!
「〜っ!!」
言葉にならない怒りが頭に上って、何か言い返してやろうとその家のインターホンを何度も繰り返し押した。
一回、二回、三回、四回……
これでもか、と僕はインターホンを押した。
「んんん!!」
なかばヤケクソになって、昔流行ってたボタン連打の式で押してやった。
これは相手も困るだろう。
しかし、これもまた仇となったーー。
その家の屋根ーー正確にはアンテナの部分が、何やら奇妙な光を点滅させているではないか。
ーーやばい。
僕は直感で分かった。
そして次の瞬間には、その場から離れようと足を動かそうとして、動作に入った。
だが、少し遅かった。
みるみるうちに、アンテナが変形し変形し、ついには……『銃』になった。
「な、なんでアンテナが銃になるんだーー」
ババババババ!!
何の躊躇もなく、銃口から弾が僕めがけて飛びだした。
僕はかろうじて避けて避けて、銃の死角になる自分の家の中へと飛び込んだ。
あれはアカン。当たったら死ぬレベル。
冷や汗なんてもんじゃない、変な汁を垂らしながら、僕はただ未だにヒリヒリする顔を手でさすっていた。
あれが隣家。
今回でよく分かっただろう、隣の家には、関わらない方がいいよ、って。
「……学校行かないと」
そして僕は、何事も起こらなかった事にして、大学へ行く準備を進めた……