第9話 不可思議な力 1
それはハヤトの放った「能力」。
ルゥはただ呆然とそれを見つめていた。
しかし――ハヤトとて、体力が戻っているわけではない。
それはすぐに――潰えてしまう。
「は……はぁ……はぁ、っはぁ……」
ガクリと左膝をつき、荒い呼吸で肩を揺らした。
「大丈夫か……無理をするなっ!! 」
「ごめん……情けないな……」
自分を助けようと、ハヤトは無理を承知で今の「能力」を使ってくれたのか。
その「力」の存在より――そんなハヤトの気持ちが嬉しい。
ルゥの心に湧き上がる――熱い想いがあった。
だが、ハヤトのそんな「力」も劣勢の戦況を大きく変えることにはならない。
「こっちだ」
ハヤトはルゥを庇いながら、クー・シーの攻撃が手薄な場所へと移動する。
「僕は本当に大丈夫だから……」
「うん。わかっている」
それでもハヤトはルゥを庇うことを止めない。
ディル、ランスロットの攻撃で、クー・シーは数を減らしつつある。
数少ない矢を見捨てて、リアンは腰に下げた細身の剣を抜き放ち、直接クー・シーを切り伏せる攻撃に切り替えた。
「……しつこい。一体どのぐらいの数がいるというんだ……」
ハヤトが止まないクー・シーたちの攻撃を忌々しそうに見ていた。
「……これだけの数のクー・シーを操るやつがいるとしたら。
それは相当の「ドルイド(魔法使い)」だ。
ランスロットもすごいが、それ以上かもしれない……」
ルゥが冷静にハヤトの言葉に答える。
「そうか。ではやはり俺を狙っているのだろうな。
処刑前に逃げ出したから……」
「いや。それは違うと思う……たぶん」
ルゥが顔を俯け――悲しそうにハヤトに――答えた。
「……でも俺はこんなところで死ぬつもりはない。
せっかくルゥやディルたちに助けてもらったんだ……生き延びてみせる」
「ああ。そうしてくれ……」
ハヤトの笑みに、ルゥも同じ微笑みを浮かべながら頷いた。
その時――。
『ハヤトっ!! 』
ランスロットの声が聞こえた。
そして慌てて振り返る。
ルゥの背後の草の影から――クー・シーが飛び出してきた。
「ルゥっ!! 」
ハヤトがルゥの手を無理矢理引っ張り――自分へと抱き寄せた。
そしてハヤトは――大きく後ろへとバランスを崩した。
まるで吸い寄せられるかのように。
ルゥを抱きしめたハヤトは――後ろへと「落下」する。
ハヤトたちの背後は崖になっていたのだが――。
それが暗闇で確認することが出来なかった。
「くっ!!」
ハヤトはルゥだけでもと、自分の胸から、ルゥを「落下」する自分から引き離す。
しかしルゥはハヤトの右手を離さず。ハヤトを救おうと足掻いた。
無情にも、ルゥを支えていた地面が崩れ――ルゥも支えを失い。
それでもハヤトの右手を握った手を離すことなく、二人の体は崖下へと落ちていく。
『ハヤト――っ!! 』
「ルゥっ!!」
ランスロットと――ディルの声が聞こえたが、二人にはどうする事も出来ない。
ハヤトとルゥの姿は――漆黒の闇へと吸い込まれ――消えていった。