第7話 生真面目な少年 1
ルゥの体力が少し回復した頃を見計らって、泉の前から出発をする。
怪我が治ったとはいえ、ハヤトはまだ自力で歩けるようになったわけではない。
ディルに背負われたままだ。
ルゥを背負うとリアンが申し出てくれたが、ルゥはそれを断った。
理由はいざという時にリアンが戦えないということだった――が。
まだリアンのことを疑っているルゥの気持ちに配慮して、ランスロットがルゥの体力の回復を行う魔術を施した。
ランスロットは「ケット・シー」でも「魔術」を駆使できる「ドゥルイット(魔法使い)」の資格を持っているらしい。
それはハヤトも認めたが、「ケット・シー」という精霊自体が希少な存在ゆえに、詳細はほとんど伝えられていない。
だがそんなことに拘っている余裕などもなく。
ハヤトたちは足早に森を抜けていく。
時より、辛そうな顔をしているルゥのために何度かの休憩を挟みながら、なんとか森を抜けることが出来た。
その頃には夜はあけていた。
すでに森を抜けたことでモナの街から遠く離れたが、安心することは出来ない。
「ディル。グルシー山脈の麓って……相当広いぞ? 」
リアンが尋ねた。
「ここからまっすぐ東に「カエール」という小さな村がある。
そこで仲間たちと合流することになっている。
本当に小さい村だからな。
アヴァロンの連中も気づくことは出来ないだろう」
『随分と用意周到だ。
まるでハヤトという存在を知っていたように』
ランスロットの言葉にはどこか「刺」が感じられる。
「ハヤトのことを知ったのは、ここにいるリアンと同じ一週間前さ。
ただし俺たちはポロン王子の誕生日を祝うパレードの見物をしていたから、間近にはいなかったがね。
リアンはよほど、王族に近い地位にいる血族なんだな」
リアンの素性を探るようなディルの言葉だったが、リアンはそれをわかっていた様子で笑みで応えた。
「ああ。僕の父はドウン王の従兄弟に当たるから。
近いっちゃ近いね。
僕は王子の護衛で傍にいたんだ……ただ、王族には色々思うところはあったから。
だからここにいると言ってもいい」
リアンの言葉に、しばしの沈黙が訪れる。
「もういいじゃないか。
今はみんなで協力するしか方法がない。
こんな俺を助けてくれただけでも、本当に嬉しいんだから……」
そんな沈黙に耐え切れず、ハヤトが皆に言った。
「ハヤトの言う通りだ。
カエールの村についたら全てを話すよ。
とにかく今は先を急ごう。
ここからなら、ゆっくり歩いても夕方までにはつけるはずだ」
ディルが苦笑いで結論を述べた。
◆◆◆
街道を避け、山道を進む中――ルゥは隠してはいるが、かなり辛いはずだろう。
荒い呼吸を続け、休みの回数は多くなっていった。
ハヤトは自分が歩いて、ディルがルゥを背負って欲しいを何度も願い出たが、その都度ルゥは頑なに断り続けた。
そんなルゥやハヤトを抱えて、一行の進みは遅く――結局は夕方になっても「カエールの村」へは着くことが出来なかった。
暗闇が迫ってくる。
山道を急ぐハヤトたちは、どこかで野宿出来る場所を探す必要があった。
『お待ちください……どうも変な感じがいたします』
そう言ったのはランスロットだった。
「どうした? 」
ディルが振り向いた時。
ガサガサガサと周囲の草が不穏な音を奏で始める。
『……まずい。これは……人の気配ではない。
闇の生き物の気配が……取り囲まれたようです』
「ルゥ……どうやらまずいことになった。
ハヤトとここにいてくれ。
ここは俺たちが何とかする……」
「わかった。気をつけてくれ」
「ああ、任せろ」
背中からハヤトを降ろし、ディルはルゥにハヤトを共に、奥まった岩陰に隠れているよう指示を出し――ルゥもそれに従った。
すでにそんなハヤトとルゥを護るように、リアンとランスロットもそれぞれの武器を手にしている。
「……さて。始めようか……」
ディルが呟くと同時に――。
草陰から姿を現したのは。複数の――人の大きさもある犬たちだった。