第4話 脱出を願う少年 2
「こっちだっ!! 」
突然現れた少年。
金色の短い髪――この暗闇で瞳などの容姿まではわからないが。
ディルたちがついてこないので、一度は踵を返した少年が――振り返った。
「そうか。俺の名前だったな……リアンだ。リアン・リン。
詳しいことはあとで話す。
まだ兵士たちはあの先の街道に溢れているから……こちらに行こう」
リアンと名乗った少年は、そう言って――微笑んだ。
◆◆◆
罠かもしれなかったが、リアンの言ったことが嘘ではないことも、ディルたちには理解出来たので――リアンの指し示す路地裏へと向かい、そのままついていくことにした。
リアンはこの街の地理に詳しいらしく――迷路のような路地裏の道を、戸惑うことなくスルスルと抜けていく。
おかげでディルたちは、リアンについていくことが精一杯だった。
「ここで少し待っていてくれ」
と、リアンがディルたちを奥まった路地に残し――どこかへと姿を消した。
「あいつは本当に大丈夫なのか? 」
少し苛立った様子でルゥがディルに話した。
「まぁ……なにやかんやと、随分街の中心から、俺たちが行きたかった街堺まで来ているように思うぞ。
街道からも離れているし。相当この街には詳しいと見える。
心強い仲間が増えたと考えよう……」
「まったく……いつもお前は呑気だな」
また。ハヤトはルゥがディルの本当の弟ではない――と考え始めていた。
どうもこいつらも――何か深い事情があって、自分を必要としている。
そしてその目的のために、こんな危険を冒している。と考えていた。
だが何故――こうも自分のために、人が集まってくるのだろうか?
それが不思議でたまらない。
「……待たせた」
しばらくしてリアンが息を切らせて戻ってきた。
「少しまずい状況になった……この先の街堺に、兵士が集まり始めている。
そこを突っ切ることが出来れば、森へと逃げ込めるのだが……戦闘は避けられないかもしれないな。
あんたたちの腕は……? 」
途中から合流したリアンには、ディルの馬鹿力と、ルゥの不可思議な力のことはわからない。
「人並み程度には……だが、ハヤトにこれ以上無理はさせたくないなぁ。
だいぶ痛めつけられているのでね……」
と言って、ディルは右肩に担いだハヤトの尻を軽く叩く。
「ぐぅ……」
痛みではないが、恥かしさからハヤトが声を上げた。
「ディル。ハヤトが可哀想だ」
「悪い、悪い」
ルゥに窘められ――だが、少しも悪びれた様子のないディルに、ハヤトはため息をついた。
本当に緊張感の欠片もない男だ。こんな時でさえ笑っていられるなんて。
「ディルがすごいのはわかったよ。だが……これからどうするか……」
『ならば……』
苦笑いのリアンに続いて――第五の声が――四人の耳に響いた。
慌ててディル、ルゥ、リアンが声の主を求めて――路地のさらに奥へと視線を向けた。
『驚かせて申し訳ありません。
この街を抜けるなら……この壁をぶち壊して行かれることが最短となりましょう。
それをお教えしようと思ったのですよ』
そこには――黒猫が一匹。
暗闇にも関わらず――右が金、左が銀色の瞳がらんらんと輝いて見える。
「……ぐ……あ……らん……」
ディルの肩に担がれたハヤトは――急に何やら反応し始めた。
「どうしたハヤト」
『やはりハヤ……そこにいられたのですね。
探しましたよ、まったく』
愚痴る黒猫は――仄かな純白の輝きに身を包んだ。
そして唖然とするハヤトを抜いた三人の目の前で――七、八歳の子供程度の大きさまで光が大きくなった。
その輝きが消えると――そこに立っていたのは。
『私の名前はランスロット。誇り高きケット・シー(猫の精霊)の一族であり……そのこいるハヤトの忠実な従者です』
と、二本足で立つ――礼儀正しい黒猫の姿があった。