第3話 脱出を願う少年 1
「こっちだっ!! 」
閑散としていた夜の街が――騒然となる。
アヴァロン国――モナの街は、一段と警備兵の数が増していた。
「何があったんですか? 」
ひとりの少年が警備の兵士に問うた。
「明日に処刑予定になっていた罪人がひとり、仲間と一緒に逃亡したのだ。
晒し者になっていたからな。そいつ自体は怪我を負っていて逃げられる状態ではなかったらしいのだが……まったく。手を焼かせやがって」
ちっと舌打ちをする兵士に、「ありがとうございます」と少年が軽く頭を下げた。
そして兵士たちから距離を置くと、少年は小声で呟いた。
「先を越されたな」――と。
◆◆◆
「思ったより、兵士の数が多かったようだな」
相変わらずディルの口調に緊張感というものはない。
「呑気なことを言っている場合じゃないぞ」
ルゥは少し落ち着きをなくしているように――ハヤトには見えた。
「慌てても仕方がない。とにかく手薄になっている場所を探すぞ」
「わかっている」
本当に兄弟なのだろうか? 少しの違和感を感じる。
二人のやり取りが――どこか距離があるように思うのは――自分の思いすごしだろうか?
ハヤトはそんなことを呆然と思いながら、口に詰められた布を取り出す力もないまま、素直にディルに担がれていた。
「もう少し我慢しててくれな」
「……うぅ……」
ディルに笑顔でそう言われても――返事もまともに返せない。
ハヤトは小さく――ため息をついた。
◆◆◆
建物の間をすり抜け――脱出経路を探す三人は――暗闇に乗じていたとしても、手負いのハヤトを担いだ姿では、ひどく目立ってしまう。
「いたぞっ!! 」
ここでもルゥの「催眠の術」とやらが役にたったが――ルゥにも疲れが目立ち始める。
すでに二十を超える兵士を眠らせているのだ。
「……そろそろ本気を出さんとなぁ……こんなところで疲れたくはなかったのだが……」
さすがのディルにも、少しの焦りが見え始めた。
しかし目の前の通りには、十人以上の兵士の姿がある。
先ほど逃げてきた場所も、同じ程度の兵士の姿を見かけた。
「……ディル。もう限界かもしれないぞ……」
ルゥは戦うことを覚悟しているようにも見える。
「いや。ここで戦うことは避けたいな。なによりハヤトの身が危ない」
ディルとしては、ここは戦うことなく――無事に逃げおうせることを考えているようだった。
「さてと……どうしたもんかな? 」
ディルが通りの兵士たちに気を取られていた時だった。
「いたぞぉっ!! 」
裏通りから駆けつけた兵士の一団に見つかり――「くそ」とディルから言葉が漏れ、ルゥが腰に下げた剣を抜いた――その瞬間。
「……ぐわっ!! 」
兵士のひとりが悲鳴をあげて突然倒れた。
「ぎゃっ!! 」
そしてもう一人。
次々に兵士たちが倒れていく。
何事が起こったかわからず――ハヤトたち三人は――ただ呆然と見ていると、倒れた兵士たちには急所に寸分違わず矢が突き刺さっていた。
「この暗闇で……これほど見事に急所を狙えるものなのか? 」
ディルが呟く。それはハヤトにも同様の感想だった。
「……間に合ったか」
ハヤトたちが隠れていた建物の上から、突如声が降ってくる。
そしてそのまま――ひとりの少年が――飛び降りてきた。
その少年は手にはロングボウを持ち、ハヤトたちを見て――にこりと笑うと。
「探したよ。さぁ……早く逃げるぞ」と言った。