第23話 揃い始めるパーツ 2
「あああっ!!なんだ、ここはっ!!まるで道ではないではないかっ!!」
森の中の獣道へと入ったことで、ドゥレンは怒りを顕わにしていた。
森を徘徊する小さな動物たちなら、その道は重宝するだろうが。
人のような大型な生き物では、生い茂る草や木の枝が行く手を遮り歩きにくいことこの上ない。
そしてドゥレンの体躯は大柄で、余計に苛立ちを募らせる結果を招いていた。
「うるさい。少し黙れ、ドゥレン。お前といると唯でさえ苛立つのに、そう叫ばれてはこちらまでますます苛立ってくる」
ドゥレンに容赦ない言葉を浴びせているのはイウハル。
この列の最後尾にいるのだが、大柄のドゥレンの体が邪魔となり前方が見えず、こちらも機嫌が悪かった。
「こんな時に仲間割れは止めてくれ。
我々は夕暮れまでになんとか遊牧の民が暮らすという〔カエール〕という地にたどり着かねばならないのだから」
「それも頭にくる!!恐らくはディルのバカが道を間違えたのだろう。
ルゥ様の御身に何かあったら、俺は生きておれんぞ」
興奮した様子でドゥレンが叫んでいる。
「ディルもそうバカではあるまい。
問題はルゥ様の代わりが見つかったかどうかだが……」
イウハルが一番の気がかりを口にした。
「ダメなら他を探さねばなるまい。
とにかく時間がない。はやく合流しなければな」
先頭を歩くブリアンは他の二人に比べ、体の線は細く、着込んでいるとはいえ華奢な体格に見えるが、口にしていることは、他の二人より冷静でリーダー格のようにも思える人物だった。
「ああ。早く進みたいのに……じれったい!!
ブリアン。この道であっているのであろうな?」
「またその質問か……大丈夫だろう。
カエールの地までは、獣道を通って半日程度の距離だと。
村の人たちは私たちにこと細かく教えてくれたではないか。
方向も道もこれで間違いはないだろう……」
焦るドゥレンに呆れと苛立ちを覗かせながらも、ブリアンは冷静に受け答えを行った。
「二十歩歩く間だけでいいから少し黙れないのか、ドゥレン」
こちらは完全に怒りが篭っている、イウハルの言葉。
「なんだとっ!!俺が騒音のように言うなっ!!」
完全な騒音だろう。
それはブリアンとイウハルの感想なのだが、この男にそれを言ったところで通じるはずもなく。
二人は沈黙することで、ドゥレンに答えることにした。
「二人とも、黙っているとはどういうことだっ!!」
またドゥレンが叫んでいた。
◆◆◆
リアンの言葉。
ハヤトを狙っているのは、〔アヴァロン〕国の王ドウンの母であるエーレの可能性がある。ということ。
それはハヤトの疑問をますます大きくしていた。
それは何故?相手は肉親の仇ではある。
だが、自分のことは知らないはずなのだ――それが何故?
命を狙ったポロンという王子に何か秘密でもあるのか?
客人用にと自分たちのために、この村の人たちが建ててくれたテントの傍で、ひとりハヤトは木の根の上に座りずっと考え込んでいた。
そんなハヤトの傍に、ルゥがやってきた。
「……どうした、ハヤト」
「ルゥ……」
考え込んでいたせいか、ルゥが近くまで来た事に気がつくことが遅れた。
そんなルゥは右手に果物を乾燥させた、この村の人々がよく口にしている保存食を手にしていた。
「食べるか?とても甘いんだ、これ」
「へぇ……もらうよ」
ハヤトはルゥからその食べ物を手渡された。
「甘い。これはうまい」
「だろ?ランスロがハヤトは甘い物が好きだと聞いたから」
「……子供だって言いたいんだろう?ルゥよりも歳下だし……」
「ただの子供が、あんな傷を負っても我慢出来るなんてぼくは思わない。
ハヤトはとても我慢強いし、すごいと思うぞ」
ルゥが手放しに自分を褒めるので、ハヤトは恥ずかしい思いから、ルゥから視線を逸らし気味に「ありがと」と答えた。
「リアンから聞いたよ。あの〔クー・シー〕どもを操っているのが、〔アヴァロン〕のエーレかもしれないって」
今まさに自分が悩んでいたことをルゥに言われて。
ハヤトはそのまま黙るしか方法がなかった。
「ハヤトはぼくが護る。何度も同じことを言ってしまうけど。
だからハヤトは心配しなくていい」
「……それ。仲間なんだから助け合おうということにならなかったっけ?」
確かに。一度そんな話になったとき、そういう結論になっていたはずだ。
ハヤトはルゥに微笑み、ルゥも思い出したように「……うん」と小さく頷いた。
「でも返って好都合かもしれない。
俺にとってもエーレは仇だ。これは利用出来るかもしれない……」
「……ハヤト。ハヤトにはやはり復讐なんて似合わない……」
これもルゥには何度も言われている。
自分は真面目すぎるから、復讐なんて似合わない、と。
「……ルゥだって決意したことをやり抜くつもりでここにいるんだろう?
俺も同じだ。これは俺の決めたことだ。そしてみんなの無念を晴らしたい。
絶対に……」
ハヤトはぎゅっと右手の拳を握る。
「……そんなハヤトが似合わない。ぼくはそう思う。
それはぼくの思い込みなんだろうけど……そう思うんだ……」
悲しそうな瞳でルゥは呟いた。
翠緑色の瞳はまっすぐにハヤトへと向けられる。
「……考えとくよ」
曲げる事はないが、ハヤトはルゥにはそう言う他に、言葉が浮かばなかった。
「そうしてくれ」
少し嬉しそうに見えるルゥの笑み。
ハヤトは困った様子で頷いていた。




