第18話 正体のわからぬ敵 4
ハヤトはルゥとランスロットと共に、テントを出てカエールの地を見て回ることにした。
「……ディルはリアンに付き合っているのか?」
ハヤトがルゥに尋ねた。
「少なくなってしまった矢の調達をしたいのだそうだ。
ディルも興味があるので、それに付き合うらしい」
そう言ったルゥは少し、機嫌が悪い様子に見えた。
『リアンが信じられませんか?』
「……そういうわけではない。ただ……あの男の目的がわからんだけだ。
ランスロットはよくわかるんだけど……」
ルゥはランスロットの問いに、ばつの悪さを感じていたのか、言葉の歯切れが悪かった。
「リアンはいいやつだ。俺が保証するよ」
「ほしょう……?」
「あ……だから、俺がそう思ったからってことだ」
「……ふぅん」
ハヤトから出た不思議な言葉に、ルゥは納得というより、呆然と聞いていたという様子だった。
「……ランスロ。ここら辺はハーブでも取れるんじゃないか?」
誤魔化しついでのように、ハヤトは少々慌てながらランスロットに訊いた。
どこまでも深い森の中。
ランスロットは、魔術だけでなく、薬草やハーブにも詳しい知識を持っている。
『まったく……。
この森なら、色々とありそうですね。
ですがあまり深く入り込むのは危険でしょう。
村人の誰かについて来てもらうべきでしたね……』
「そうかもしれないな。迷子にでもなったら、大変なことになる」
『ハヤトならありえますけどね』
「うるさいなぁ……」
猫の精霊と少年の会話に、ルゥは思わず吹き出してしまう。
「……なんだよ……ルゥ」
「ごめん」
怒るハヤトに、ルゥは素直に謝った。
その時。
ガサガサガサとハヤトたちの後ろの茂みが不可解に揺れた。
びくりと三人が振り返る。
「……ぷっはっ!!」
姿を見せたのは、一人の少年。
カエールにいる民と同じ衣装を着込んでいるため、あの遊牧の民の少年だとすぐにわかった。
「見つけた!!
長老様が、あんたたちから目を離すなってさ。
大事な客人に何かあっては困るからって。
あ、俺の名前はミルディンね」
ハヤトたちを見つけては一方的に話す少年――ミルディンに、呆然としていたハヤトたちは返す言葉を失っていた。
「どうしたの?驚いた?」
「あ……ああ。少し」
「ごめん。あんたたちの匂いを追っていたんだ。
俺、そういうの得意だから……」
ハヤトの答えを待たず、ミルディンはにこにこと得意げに話していた。
ハヤトはルゥとランスロットと顔を見合わせながら、先ほどの会話を思い出していた。
「ミルディン。俺たちは、この森に薬草とかハーブが生えてないか探して……」
「なぁんだ。そういうことなら、俺に訊いてくれればよかったのに。
俺、そういうことも詳しいぜ」
話好きの少年なのか?
人の話を最後まで聞かずに、言ってくるので、ハヤトは少し辟易していた。
『そういうことなら、ミルディンの力を借りましょう。
今朝ハヤトがあれだけたいらげてしまった食料の確保もしたいと思っていたところですから……』
ランスロットに言われて、ハヤトは今の今まで忘れていた事実を思い出した。
「そ……そうだった……」
「ああ、そんなこと。母ちゃんたちがすごく喜んでいたよ。
あんなに嬉しそうにたくさん食べてくれるということは、俺たちの歓迎を喜んでくれている証拠だってな。
減った分の食料は父ちゃんたちが狩りに行っているから心配しなくていい。
でも、もし気になるってんだったら、薬草をとる手伝いをしてくれると嬉しいぜ。
ちょうど、長老様にも頼まれていたもんもあるからさ」
屈託なく話すミルディンに、ハヤトは
「そういうことなら協力させてほしい」
と、願い出た。
「おお。じゃ、案内するよ。ついてきな」
そこまでも人懐こい少年なのだろうか。
昨日来たばかりのハヤトたちにも、ミルディンは怪しむことなく接してくれる。
「こういう相手だと助かるな」
ハヤトがルゥに話しかける。
「なんだよ。それは僕に対する嫌味か?」
リアンのことを根に持っているのだろうか。
ルゥの態度に驚きながら、ハヤトは苦笑いになる。
「……嫌味じゃないが……リアンを信じてもいいと思うぜ」
「考えとくよ……」
不機嫌に答えるルゥに、ハヤトは「うん」と小さく頷いた。