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第16話 正体のわからぬ敵 2

 ランスロットは、ハヤトの生い立ちをディルとリアンに話し始めた。


「ハヤトはあの[聖国イ・ブラセル]の王子だというのか……」


 ディルの言葉に、ハヤトが顔を顰めた。


『いかにも。二ヶ月前、私はハヤトを連れ、この世界の見聞を広めようと旅をしておりましたが……。

 その旅すがらに[イ・ブラセル]滅亡の話を聞いたのです。

 ハヤトは今だ[イ・ブラセル]へ戻ってはおりませんが、ハヤトを置いて今どうなっているか探りに行っている間に、ハヤトの行方がわからなくなってしまいました。

 そうしてようやく会えたときは……』


「俺たちが助けた後だった……と」


『ええ。そういうことです。

 くれぐれも浅はかなマネは慎むよう言い聞かせていたのですが……』


 ランスロットだけではない。


 ディルやリアンからまで、ハヤトは非難の視線を浴びせかけられた。


「……ドウン王が[モナ]の街にいると訊いて好機チャンスだと思ったんだ。

 第五王子のポロンだったけど……」


「ハヤトは酷い目にあったけど、そのおかげで僕はハヤトに会うことが出来たわけだな」


 フォローのつもりだろうが、そう言ったリアンの表情はどこか呆れ気味だ。


「ま。それは俺たちも一緒だ。ハヤトの勘違いには感謝だな」


「……嬉しくない」


 ディルの口調はハヤトの行動をからかっているところがある。


 ハヤトは皆から視線を逸らして呟いた。

「それだったら、俺たちの正体も明かさないとな……」


 ディルが笑顔でハヤトに言った。



◆◆◆



 ディルの話は、ハヤトがルゥから聞いたこととあまり変わりない。


 ルゥの性別もリアンに知らされた。


「ああ。だから、ランスロットはあんなことを君に話したのか」


 と、リアンに変な納得のされ方をしたのが気に食わなかったが。


 ハヤトが[マーグメルド]のフィン王子の代わりになることを、あまり快くは思っていない様子に見えた。


『確かにフィン王子の別称は[仮面の王子]でしたね。

 幼い頃に病で顔には酷いあざがあるのだとか……色々噂は絶えませんでしたが。

 そういうことがあったとは』


「[アヴァロン]にとっては[マーグメルド]は目の上のタンコブさ。

 だがグルシー山脈のおかげで大きな戦にはなったことはない。

 しかしいずれは合間見えなければならん相手だろう。

 最近の[アヴァロン]の所業は目に余る。

 [イ・ブラセル]もその煽りを食らったんだ。

 放っておけば、近いうちに[マーグメルド]にもその魔の手を伸ばすだろう。

 ハヤトにとっては、またとない好機チャンスになるだろうが……」


 ディルはそう言っては嘆息した。


『[誓い(ゲッシュ)]と言ってしまった以上、その約束を違えることは出来ない。

 私もハヤトについていきますよ』


「すまない、ランスロ」


 ハヤトが呆れながらも、自分の従者としての役割を果たそうとしてくれるランスロットに頭を下げた。


「詳しい話はこれぐらいにして。

 とにかく今は俺たちも休もう。

 昨日からろくに寝ていないからな……」


 確かに、皆それぞれに疲労の色が見え隠れしている。


『私はルゥに再度[回復]の魔法をかけておきましょう。

 少しでも回復の助けにはなりましょうが……』


「申し訳ない。よろしく頼む」


 ディルはそう言って、ランスロットに頭を下げた。



◆◆◆



 皆がそれぞれ体を横たえ、眠りに入った頃。


 ハヤトは目が冴えてしまい、テントから抜け出た。


 まだ日は地平線より上にある。夕方には時間がある頃だった。



 ハヤトはテントからほど近い木に寄りかかるように座り、幹に背を預けた。


 本当に不思議な縁だ。


 そう思わずにはいられない……。


「ここにいたのか」


 ふいに話しかけられ、ハヤトは顔を上げた。


 そこには笑顔のリアンが立っていた。


「……寝ないでいいのか?」


「興奮していてね。眠れなんだ。隣……座っていいか?」


「ああ、どうぞ」


 リアンがハヤトの隣に座る。


「でも君たちの話には驚いた。

 いろいろあるものなのだな……」


 リアンが呟くように、ハヤトに話しかけた。


「なぁ、リアン。君はこのまま俺に付き合うと、俺の復讐に付き合わせることになる。

 君は[アヴァロン]に対して、何の恨みもないのだろう?」


「そんなことはない。今の王家のやり方には僕も酷いと感じている。

 でもいくらそんなことを言っても、ドウン王はそんなことは聞きやしない。

 母親のエーレの言いなりだ……[イ・ブラセル]もだからこそ攻め落とされた。

 僕もそれは許せない……」


「……いいところだったんだ。緑が美しくて、人は優しくて……」


 ハヤトはリアンの話に、ぼそりとほとんど無意識にそんなことを口にしていた。


「そうだろうな……[聖地]とまで言われていた……」


 リアンが隣の元気のないハヤトを見て……言葉を紡ぐことを止めた。


「……許せない……俺は[アヴァロン]が……ドウンが、エーレが許せない……」


 目は釣り上がり、歯を食いしばって……握り締めた右手の指は、手のひらに食い込んでいる。

 そこには、纏う空気まで変化してしまうほど[別人]となったハヤトの異様な姿があった。

 復讐とは言え。ここまでその思いでハヤトは変わってしまうほど、酷く憎んでいるということなのか?



「ハヤトっ!!」


 突然リアンが声を荒げる。


 ハヤトはびくりと体を震わせた。


「な……なんだよ。驚くじゃないかっ」


「ごめん……ハヤトがすごく変わってしまったように見えたから……」


「俺が?何言っているんだ、リアン……」


 そこには今まで話していたハヤトがいる。


 では……あの[ハヤト]は何だったのか?


「ハヤト……君も少し休もう。

 ここを出たら、こんなゆっくり休める場所はそうそうないかもしれないからな。

 横になっていれば、眠れるだろう」


「そう……かな。そうだな……うん。リアンの言葉に従うよ」


「ああ、そうしてくれ」


 疲れなのかもしれない。


 リアンはそう思いながら、ハヤトを連れテントに戻ることにした。


 が、あのハヤトの変化がどうしても、リアンの脳裏から離れることはなかった。


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