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第15話 正体のわからぬ敵 1

「ハヤトとルゥは何故そこで恥ずかしがるのだ?

 仲良くなることは良いことだろう?」


 リアンが、剥きになってランスロットに言い返していたハヤトに尋ねた。


「そ……そうだとも。

 仲良くなることはいいことだ。それをランスロが変な風に訊いてくるから……」


『おや。私のせいですか?』


 ランスロットのやつ。おそらくルゥの本当にことを知っているに違いない。


 [ケット・シー(猫の精霊)]であるランスロットならば、[匂い]などで性別など簡単にわかってしまうはずなのだ。


 ルゥのことを知っていて、何らかの理由でルゥの正体を知ったであろう自分をからかったに違いない。とハヤトは考えている。


 しかしリアンはルゥの正体を知らない。


 ルゥが今だにリアンを信用していないせいでもある。


 ルゥを説得して、リアンにも本当のことを話したいとハヤトは思っているが。


 その前に、リアンは[マーグメルド]に一緒に行く気はあるのだろうか?


 そんな疑問がハヤトの中で生まれた。


「リアン。君はこのままこの[アヴァロン]の国を離れてしまうことは大丈夫なのか?」


「……いまさらのことを訊くのだな、君は。もう覚悟は出来ている。

 僕はまったく構わないぞ」


「そ……それなら俺も安心した。

 すまない、変なことを訊いて……」


「そうだ。気にしなくていい。言っただろう?君の傍についていれば退屈しないですむから、僕は君についていくと」


 リアンは笑みひとつ浮かべず、そんな言葉を真顔で答えた。こいつも変わっている。

 ハヤトの素直な感想だった。


 そして。その[答え]もどうなのか?ハヤトは複雑な思いのまま「ありがとう」とだけ言った。


「少年。君の名は何という?」


 ハヤトは突然あの老人、プーカに名を問われた。


「あ……はい。ハヤトと言います」


「ほう。不思議な響きがある。

 だがハヤトとやら。君は良き仲間に巡り会えた。

 精霊もそう言ってきておるよ……」


「本当ですか……」


 嬉しそうにハヤトがプーカに尋ねると、老人は微笑みながら、大きく頷いた。


「そうだとしたら……俺は本当についている」


「その縁。大事にせねばなるまいな」


「はい」


 今度はハヤトが笑顔を浮かべ、プーカにしっかりと頷いた。


 

◆◆◆



 まもなく青年が一人。テントが組みあがったとプーカのところへ報告にやって来た。


 ハヤトたちはプーカのテントを出て、その青年に案内され組みあがったばかりにテントへと向かった。



 真新しい麻の布の匂いが漂うテントの中。


 大人の五人では少々手狭だが、ディル以外はそれほど体躯に恵まれている者はおらず、五人で入っても窮屈な思いはしないですみそうであった。


 ここでハヤトがそわそわとしている。


「どうしたハヤト?」


「あ……いや」


 ルゥに聞かれ、ハヤトが答えにくそうにしている。


 そこへルゥがハヤトの右腕はぐいと引っ張り、テントの奥へと行くと、他の三人には聞かれないよう小声で尋ねた。


「まさか僕が女とわかったから、一緒ではまずいと思っているのか?」


「……」


 ハヤトは図星だったために、ルゥに答えなかった。


「大丈夫だっ。僕は男であることの方が長かったんだからな。女の中にいるより、こうしてハヤトたちと一緒にいる方が落ち着くくらいなんだよ。

 変な気を回さないでくれ」


「……ごめん」


 ルゥに怒られ、ハヤトは申し訳なさそうに頭を小さく下げた。


「本当だ。二人とも仲が良くなった途端に見せつける。

 こちらが困ってしまうなぁ……」


 空々しくディルがハヤトとルゥに言ってくる。


 ディルは間違いなくルゥの立場を知っているので、これはからかい以外の何者でもない。


「何でもない。気にするなっ」


 突っけんどんにルゥがディルに声を上げる。


 リアンはきょとんとしており――ランスロットは笑っていた。



 厚手の麻の布を数枚重ね、まずは疲れの取れないルゥを寝かせる。


 横になった途端、ルゥの寝息が聞こえてきた。


 今までよほど気を張っていたのだろう。


 ハヤトはその寝顔を見つめながら、「ごめん」と心の中で謝っていた。




『ハヤト。話があるのですが……良いですか?』


「ああ。構わない。俺は疲れていないから……」

 

 ランスロットに答え、ハヤトは彼に向かい合った。


『それです、ハヤト。何がありました?

 あれ程疲労していたはずなのに……ルゥもとても癒せる状態ではなかったはず。

 それが崖から落ちて、再会したあなたはまるであの疲れが嘘のように元気だ』


 ランスロットの疑問はもっともだ。


 が、ハヤト自身も答えようがない。どうして自分でもこう動けるようになったのかがわからないのだ。


 ハヤトは再度――今度は細かい部分まで、あの崖から転落した後の話をランスロットだけではない。


 興味を示したリアン、そしてディルにも話して聞かせた。


「不思議なことがあるもんだ……」


 ディルは首を傾げる。


『あの時ディルにも話ましたが、森で襲われたこと。私には何者かの罠のように思えてならない。そしてハヤトとルゥが崖下へ落ちた途端に、クー・シーの姿が消えた。

 なにやら関係があると見て間違いはないでしょう……。

 だがハヤトが何故突如元気になったのか?』


 ランスロットはそう言って、右手を顎に当てる。


「では……俺たちを襲ってきた何者かは、ハヤトが目的だったと?」


『ハヤトはそれほどの[能力ちから]と立場を持っている。

 これから私たちと行動をともにするなら、それは知っておいた方が互いのためでしょう』


 ランスロットの視線がハヤトに向かう。


 ハヤトは小さく頷いた。


『ルゥには起きたら改めて話すとして。

 ディル、リアン。あなた方にハヤトのことをお話いたしましょう』


 ランスロットは真剣な面持ちで見つめるディルとリアンにそう言った。


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