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第14話 復讐を誓う少年 2

 「村」なのだろうが。だがそれは大きな麻の布に防水の加工を施し、丸太で骨組を組立て、その布で囲んだテントが並んでいるに過ぎなかった。


『ここは遊牧の民の村になるのでしょう』


 ランスロットが長老の住む家に案内される道すがら、そんな説明をハヤトたちにした。


「ここは「村」というより、夏場の食料を得るための土地です。

 秋になればまた別の土地へと移動するのですよ……」


 ハヤトたちを案内する女性がそんな話をしてくれる。


「……おかしい。「カエールの村」は遊牧の民の村じゃないはずだ……」


 ディルがそんな独り言を口にする。


「それでしたら「カエールの村」ではなく、「コゥエールの村」ではないでしょうか?

 我々の部族で、その土地に長きに渡る住みことを決め、「村」としたところです……。

 確かにここは「カエール」という土地ですが。勘違いをされてしまわれたようですね」


 穏やかに話す女性の話を聞いて。ディルへと一斉に非難の視線が集中した。


「ま……その場所を聞いて……行ってみりゃわかることだ」


「そのためにこんな危険に何度も合いたくはないな……」


 ディルの「言い訳」にハヤトが間髪入れずに反論をする。


「面目ない」

 

 仕方なくディルは素直に謝った。


「嘘だよ。助けてもらったんだ。

 文句なんか言えるはずないさ」


 ハヤトの笑顔に


「でも今言っただろうが……」


 と、ディルが小声で「文句」を言っていた。



◆◆◆



 とあるテントの前で立ち止まる。


「プーカ様。旅の方々をお連れいたしました」


「入ってもらいなさい」


「はい」


 嗄れた――老人の声が聞こえ、女性がそれに答えた。


「どうぞ」


 女性は垂れ幕を上げ、ハヤトたちに中へ入るよう誘った。


「すまない」

 

 まずディルが中に入る。


 そしてルゥ、ハヤト、ランスロット、リアンの順番でテントの中へと入っていった。




「……これは。面白い組み合わせだ……「偉大な猫」の精霊まで一緒とは」 


 炎が焚かれたその奥に、白髪の小柄な老人が一人。


 白い歯を覗かせ、ハヤトたちの姿を見るなり、そう呟いた。


「無理を言い、申し訳ない。

 どうやら俺の勘違いで、あなたたちの村へと来てしまったようなのですが。

 一晩の宿をお借りしたい。

 連れが体調を壊し、ゆっくりと休む場所が必要なのです……」


 ディルが簡単にプーカという老人に顛末を説明した。


「それはお困りだろう……何日でも我らは構わない。

 精霊を連れた客など初めてだが……あなたたちは「聖なる魂」を持つものたちと感じる。

 それが精霊を呼び寄せるのだ。

 このような客を迎えられたことに、我らは精霊たちに感謝をしなければならない」


 長老はハヤトたちを歓迎してくれていた。


「感謝するのはこちらの方です。本当にありがとうございます」


「今新たなテントを作らせておる。

 狭いとは思うが、そこでゆるりと休まれるが良い。

 どうもあなたたちからは、「血の匂い」がする。

 「戦い」を終え、この場にたどり着いて来られたようだ」


 何気ない老人の言葉。


 だが、ハヤトたちを一気に緊張させるには十分な――言葉。


「そのように固くなることはない。

 それらは全て精霊が教えてくれる。

 あなたたちから「血の匂い」は感じられても、精霊たちはあなたたちを歓迎しているのだから、私たちも家族のように歓迎する。だから安心してほしい」


 老人の屈託のない笑顔に、ハヤトたちの緊張は少し解された。


 しかし。本当に不思議な老人だ。


「姿を見ただけで、それほどわかるものなのですか? 」


 リアンが尋ねる。


「精霊が教えてくれるのじゃよ。

 実はあなたたちが来ることは、少し前に精霊たちが教えてくれていたのだ。

 「変わった客人たちが来る」と。

 そうしてあなたたちが来た。けして悪いようにはしない」


「申し訳ない……だが、本当に助かった」


「礼には及ばない。あなたたちは私たちの家族なのだから」


 老人のそんな言葉と笑顔に、ハヤトたちの緊張は完全に消え去っている。


『時に長老殿。

この近くに「コゥエール」という村はありませんか?

連れの知り合いがその村で待っているようなのですが……』


 ランスロットが代表して老人に尋ねた。


「コゥエールならば、このまま西に、ここから半日もあれば行かれる距離にある。

 焦ることもあるまい……」


「そんなに近いのですか? 」


 この声はディル。方向は間違っていなかったようだ。悔しさが募る。

 

「いずれにしても、今はあなたたちには休息が必要と精霊たちも言っている。

 焦らず、とにかく休まれれば良い」


「……そうですね」


 ハヤトが老人に微笑んだ。


「ではテントが組み上がるまで、ここで茶でも振舞おう」


 そう言って老人は木製の小ぶりの器に、炎で温めた陶器に入った白い液体を杓ですくい器にいれていく。


 そうしてなみなみと液体の入った器がハヤトたちに配られた。


「これは……? 」


 ほんのりとミルクの匂いが感じられる。


「ヤギのミルクに、この辺りで取れる木の葉を燻して作った茶葉を入れて作った飲み物じゃよ。普段我らもこれを飲んでいる。

 少しは疲れが取れるだろう」


 ハヤトたちがそれぞれこの民が飲んでいるという飲み物――ミルクの茶を口にする。


「……うまい……」


 ハヤトが思わずルゥを見た。


 恐る恐る器に口をつけたハヤトを見ていたルゥも、続けて茶を口にした。


「本当だ。美味しい」


 笑うルゥに「だろ? 」とハヤトもつられてわらった。


『おや、ハヤト。急にルゥと仲良くなりましたが……何かありましたか? 』


「……な、なんだよ、ランスロっ。な、何もないよ」


 ランスロットにからかわれ。ハヤトが恥ずかしそうにランスロットに言うと、ディルたちから笑いが起こる。


「なんだよ、みんなまでっ!! 」


 ムキになるハヤトに対し。ルゥは恥ずかしそうに俯いていた。


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