第13話 復讐を誓う少年 1
ルゥが思わず起き上がった。
「二ヶ月前に……このアヴァロン国に滅ぼされた国さ。
「イ・ブラセル」の王オインガスは俺の祖父だ。
俺がランスロットと国を留守にしていた間に、攻め込まれたんだ。
あっという間だったらしい。
母なる女神「ダヌ」が降り立った聖なる場所である「イ・ブラセル」は血で汚してはいけない「聖地」だったはずなんだ。
それをドウンは自分の母親エーレのための保養地として欲しがったんだ。
俺の祖父も仲間も……皆殺して。
エーレは平気で……血で汚した城に住み続けている。
俺は必ずお爺様と仲間たちの仇を討つ。
ドウンの次はエーレ。この二人は必ずその血で罪を償わせる。
ドウンの血筋の連中は関係ない。俺が殺したいのはこの二人だ。
そしてこいつらは、俺の父さんと母さんも殺したかもしれないんだ……」
「ハヤトは……「イ・ブラセル」の王子だったのか……」
「もうそんな国は、この世界にはない……」
驚くルゥに、ハヤトは悲しそうに呟いた。
「ごめん……そんなつもりじゃ」
「いいんだ。いつかは話さないといけないことだ。
それが今だっただけだからな。
ルゥは色々話してくれた。俺だけ話さないなんて、それは不公平じゃないか」
ルゥは、笑うハヤトに苦笑いを作り――見つめた。
「ハヤトは……復讐なんて似合わない。真面目すぎる……」
「それはお互い様だ。俺はルゥ程、融通がきかない頑固者じゃない」
「ちょっと待て。それじゃまるで、僕が「石頭」のような言い方じゃないか」
「……そうなるかな」
「ひどいな、君はっ!! 僕の……いや……いいや」
ルゥがそこまで反論しかけて、口を閉ざしてしまう。
ハヤトも気がつき、改めて頬を赤らめた。
「そ、それは本当にごめん。謝るよ。
それに君たちには命を助けてもらってる。
俺は「誓い(ゲッシュ)」は嫌いだが……それでも君たちとの約束は命をかけて守る。
これが俺の「誓い(ゲッシュ)」だ」
「……それは僕の方だ。引き受けてくれてありがとう。
君の命は僕が護るから……それは僕から君への「誓い(ゲッシュ)」だ」
「いいよ。自分のことは自分で護れる。
もうあんなヘマはしないから……約束するよ」
「どうだかな。僕らは仲間になったんだ。
皆で助け合うのだって大事だろう? 」
「……違いない」
ハヤトは思う。本当に不思議なことだ。
こうして仲間がいるなんて。
そして自分は――別の自分になろうとしているのだから。
でもハヤトには譲れない思いがある。その「思い」のためになら、どんなこともすると誓ったのだから。
◆◆◆
『ハヤトぉっ!! 』
ランスロットの声が聞こえた。
「ルゥぅ――っ!! 」
これはディルの声。
「二人共無事かっ!? 返事をしてくれっ!! 」
リアンの声も聞こえてきた。
「皆来てくれたんだ……」
ルゥの声に――嬉しさからくる高揚感が感じられる。
「たぶんランスロの魔法で、崖を直接降りたんだ。
後で怒られるな……」
ハヤトも嬉しそうだが、どこか複雑そうにもしている。
「皆ぁぁっ!! 僕たちはここにいるっ!! ハヤトも僕も無事だっ!! 」
あれだけ疲れていたルゥはそんなことを感じさせない、元気な声で、ディルたちに答えた。
◆◆◆
大変な一夜になってしまった。
だが罠の可能性が強い以上、こんな森に長居することは危険以外何者でもない。
皆はそれぞれに疲れていたが、夜は交代で皆が仮眠を取り。
日が昇るとすぐに出発をした。
信じられないほどハヤトが体力を回復させたので、そのまま皆で歩いて「カエールの村」へと向かった。
昼過ぎに、ようやく目的の村が見えてきた。
グルシー山脈はすぐ目の前に迫り――雄大な姿をハヤトたちに晒している。
その麓に「カエールの村」があった。
村人は皆、肌が浅黒い。そして髪は黒く、背は小柄な者が多かった。
「そんな者たちは来ていないっ!? 」
ディルが村人たちから、ここで仲間たちと合流する予定になっていたことを告げると、誰もそんな者たちは来ていないし、そんなことは知らないと言われてしまった。
「一体どうなっているんだ……? 」
リアンがディルに問うた。
「嵌められた……ということか。それとも……」
『とにかく、しばしこの村で休ませてもらいましょう。
ルゥの体力も回復しきっているわけではないのですから……』
悩んでいるディルに、ランスロットがそんな言葉をかける。
「そうだな……出来るかどうか聞いてみよう……」
ディルが村人に、自分たちがこの村に留まることが出来るか尋ねると。
しばらく待たされた後、ハヤトたちはこの村の長老の家へと案内されたのだった。