第11話 偽りの「少年」 1
ハヤトは意識のないルゥの体を抱き上げ、しばらく森の中を歩いた。
あれほど疲れきっていた体が――何故か動く。
不思議――というより不気味に感じながら、それでも今はルゥを安全に休ませられる場所を見つけることが先決だった。
そこは下草が生い茂った空間になっていた。
淡く月明かりがそっと差し込んでいる――場所。
ハヤトは柔らかい草かを確かめ――そこへルゥを寝かせた。
でも――なんてルゥの体は軽いのだろう。しかもとても――細い。
ローブを羽織っていたせいで身長は自分と同じぐらいだと思っていたが。
体の線の細さは――自分以上だ。
「無理をさせてしまったかな……」
先程から――呼吸が苦しそうに感じる。
ハヤトは胸元のボタンを外し、少し呼吸を楽にしてやろうと考えた。
そして首から下に――ルゥは胸を――白い綿の布で巻いていた。
「これじゃ呼吸も苦しいはずだ。
怪我でもしていたのかっ!? 」
包帯のように――衣服を広げ、胸元を開くとまるで胸を覆い隠すようにその布を巻いている。
「ちょっとごめんよ、ルゥ。君のためだから……」
意識はないが、罪悪感は感じるので――ハヤトはルゥに謝った。
そして胸に巻かれた布を取り始めて――。
「それを見た」ハヤトの顔が――耳まで真っ赤になる。
そして慌てて、もう一度布を胸に巻き直した。
◆◆◆
「……う……」
ルゥはゆっくりと目を覚ました。
「大丈夫か? 」
ハヤトの声が聞こえた。
「僕は……? ハヤトは怪我はないのかっ!? 」
ボンヤリとしていた思考が急に鮮明になり――ルゥは上半身を起こした。
「……あ……? 」
胸が――きつくない?
胸元に違和感を感じて――ルゥは手を当てる。
そして――顔を真っ赤にして――右隣にいたハヤトを睨みつけた。
「ごめん……落ちた衝撃で呼吸が苦しそうだったから……
でも見ないようにやろうとしたら……うまくいかなくて。本当にごめん」
そう言うハヤトも――今だ顔が赤い。
「そうか……わかってしまったんだな」
ルゥは不貞腐れたように、再び――今度はハヤトを避けるように背を向け、体を横たえた。
「ルゥ。君は「女の子」なんだろう? どうして「男」のフリなんかしているんだ? 」
隠していても仕方がないことだ。
ハヤトは思い切って――ルゥに尋ねた。
「……これがハヤトに僕たちから「頼みたいこと」なんだよ。
僕が「女」だからこそ、ハヤトには僕の代わりになってほしんだ」
「……ルゥの? でもルゥは……」
ハヤトが呆然としていると、ルゥは小さいため息をついた後。
ハヤトを見るため、体の位置を変えた。
「僕の本当の名前は「フィン・マグナール」。
このアヴァロン国とグルシー山脈を隔てた向こうある国……「マーグメルド」の「第一王子」なんだ……。
ハヤトになって欲しい人物とは……その「フィン・マグナール」なんだよ」
ハヤトはただじっと――ルゥから視線を逸らすことはなかった。
「正気か?
「マーグメルド」は「アヴァロン」とは肩を並べる大国だぞ。
どうしてそこの王子に俺がなるんだ?
どうしてそんな話になるんだっ!?
俺が「フィン・マグナール」になったところで、すぐにバレてしまうだろう? 」
ルゥの話した意味が理解出来ず――ハヤトは責めるようにルゥにそんな質問をぶつけてしまう。
「説明するよ。
ハヤトには知る権利があるからね。
とてもバカバカしい話だ。でも……時間がないんだよ」
ルゥのどこか呆れていて――それでもどこか焦りを感じさせる表情に、ハヤトはそれが嘘でもなんでもないことを悟る。
「訊かせてくれ……というより是非知りたい。
俺の「誓い」にも大きく関係のあることなんだ」
「わかった……」
ルゥが体を起こし、ハヤトへと向き直る。
そして――口を開いた。