第10話 不可思議な力 2
「……くそっ!! 」
「ハヤトぉ!! 」
ハヤトはきつくルゥの手を握り――自分へと引き寄せて、抱きしめる。
今は――なんとしても生き延びる。
崖下が見えない夜。
ハヤトは無我夢中で――「能力」を振るった。
ハヤトとルゥの体を、あの「風」が包む。
しかし、少し「遅かった」。
崖下の「地面」はすぐそこまで迫っており、ハヤトの起こした「風」は、落下の衝撃を受け止めきれずに――二人の体に相当のダメージが伝わっていた。
「……がっ……」
ハヤトはとっさにルゥを庇ったが――衝撃に耐え切れずルゥを手放してしまい、自分は地面を何度も転がった。
そして木の幹に体を激しくぶつけ――そのまま気を失ってしまった。
◆◆◆
その木の枝から。一羽の鳥が――ハヤトへと舞い降りる。
このような暗闇に。ふくろうのような体はしていない。
同じ「闇の色」。両方の「目」だけが赤く光る。
その姿は――「ワタリガラス」だった。
『みツけた……でんセつの王子。
さがシたぞ』
闇に――意識のないハヤトへと、ワタリガラスは――独り言を呟きながら近づいていく。
『てマをかけさセて。こんナとこロまでにゲたのか』
ワタリガラスの独り言は――止む気配がない。
『だガ、やっと「見ツけた」……おまエにいいモのをやロう』
ワタリガラスは赤い瞳を――嬉しそうに細める。
そしてハヤトの胸元へ、ばさばさと羽音を響かせ飛び移った。
いつの間にか、その嘴には――何かの小さな「実」のようなものがくわえられている。
それを――ハヤトの胸へ。ポトンと落とした。
『これハ……「狂ノ実」。
「願イ」を「狂気」ニ。「希望」を「絶望」ニかえル「実」。
この「実」の力をおまエにやろウ……「希望の王子」ヨ。
おまエの旅は、オまえ自身の「奈落」への旅立チだ……くクク』
赤子の小指の先ほどの大きさの「実」は――赤黒い輝きを放ちながら――ハヤトの体へと消えていった。
『さァ……王子ヨ。目覚メるがヨい。
そしテこの世界を……狂気が支配すル世界へト変えるがよイ』
そして――ワタリガラスは――そのまま「暗闇」の森へと翼を広げ、飛び去っていった。
◆◆◆
ハヤトはゆっくりと目を覚ました。
体中が――不思議と痛みはない。
落ちた瞬間、あれほどの痛みが襲ったのに――。
よほど運がよかったと見える。
そして勢いよく上半身を起こし、辺りを見回した。
「ルゥっ!! 」
ルゥはさほど離れていない場所で、倒れていた。
体は嘘のように――軽い。
ハヤトはルゥに駆け寄った。
「……怪我は……大丈夫か」
確認出来る範囲でルゥの体を見たが――大きな怪我はなさそうだ。
そしてハヤトは安堵から――ほぅとため息をついた。