第一話
すみませんっ!ブログの関係でやむを得ずアップします。
ブログ上では、一応の終了を見た作品ですが、この機会に大幅修正をかけますっ!
完成の暁に「完」をつけますので、それまでお待ち下さいっ!
明光学園校内新聞より
『日本に来てから1ヶ月が過ぎようとしている。
先生方・友人にも恵まれ、楽しい日々を送ることが出来ることに深く感謝したい。
今回、「日本に来て困ったこと」について書いてくれと、未亜さんから頼まれたので、こんな記事を書くことになったが、私は報告書と日記以外、あまり文章を作成したことがないため、読んでいて不快に思う箇所もあるだろう。どうかあらかじめ許して頂きたい。
私が周囲に一番聞かれるのは、紅茶についてだ。
現在、友人約一名以外で困ったことといえば、これだ。
申し訳ないが、私は紅茶を美味と感じたことはない。
「英国の紅茶って、美味しいんでしょう?」とか、「本場の紅茶のいれ方教えて」と頼みに来る生徒もいるが、英国での一般的な紅茶のいれ方が、かなり雑なことが、意外と知られていないのには驚いた。
少なくとも、私が過ごした環境では、ほとんどティーバックをヤカンに放り込んで色が出たら終わり。という方が圧倒的に多いし、何より石灰岩台地が原因で水がよくない。
そのせいか、単に周りがそうだったのかわからないが、とにかく「お茶」は「飲む」ことが大切なのであって、「美味しくいれる」などということにほとんど頓着しないのだ。
私は紅茶派ではなく、緑茶派だ。というのも原因かもしれない。
リーフの銘柄にこだわるより、静岡茶と宇治茶を飲み比べたいし、スコーンより、羽二重を味わう方が、絶対いいに決まっている。
幸い、私生活では頭痛の種でしかない友人約一名も、緑茶の方がいいらしい(……彼の場合、出されれば何でもいいともいうが)ので、普段は茶飲み友達には事欠かないし、特に彼の場合、ちょっと撫でてあげた上でお願いすれば茶菓子の使いっ走り兼財布にもなってくれるので大変重宝している。
彼は実にすばらしい友人だ。
いくら感謝してもしたりない。
今後は、やはり緑茶好きとして本格的に茶の湯をやってみたいと思っている。
この友人という財布を活用すれば、道具は何とか揃えられるだろう。
しかし、この計画を打ち明けた所が、このすばらしき友人は、「足がしびれるからヤダ」と辞退してしまったので一緒にやってくれる友人がいない。
これが、私にとって目下、最大の悩みかもしれない。
文 1年A組 ルシフェル・ナナリ』
「……へぇ」
校内新聞をたたみながら、博雅は感心したように言った。
「ルシフェルさん、緑茶派だったのか」
「玉露とか、濃い方が好きみたいよ」と美奈子。
「それにしても、何?水瀬君、正座、きらいなの?」
「だって面倒くさいよぉ。あれ、儀式ばっていて、味が云々じゃないもん」
「で、それを勘弁してもらうために」
「そ。ルシフェに着物、買ってあげることになったの。といっても、実際に買うのはお母さんで、お財布はお父さんだけど」
「似合うだろうなぁ……」とため息をつく博雅。
「ただねぇ」博雅とは別なため息をつく水瀬。
「?」
「ルシフェの場合、胸がねぇ……」
「?」
「大きすぎて、すぐに着崩れるんだ。僕、着付けてあげたことあるけど、もうサラシきつく巻くしかないもん」
「そんなに?」
「すぐに帯の上に胸がのっちゃうんだよね。でも、あんまりに圧迫するとルシフェが大変だし」
「……そんなにデかいんか?」口をはさんできたのは品田だ。
「たしか97……ううん。98だったかな?」
「き、きゅうじゅうはち!?」
「うん。パーティ用のドレスがそうなっていた」
「双葉よりデかいんか!?」
「それはよくわかんない」
「つーか、ルシフェルさん。最大の悩みって、胸の方じゃないのか?そんなにデカくちゃ」
ちらりと美奈子を見る品田。
「よかったなぁ。桜井、そんな悩みなくて」
「うるさい!たった10センチの違いじゃない!」
「……」
品田がびっくりした顔で、何度も美奈子の体を見てから言った。
「お前、意外とあるんやなぁ」
「悪かったわね!」
「っーか、綾乃ちゃんと比較すると……」
「それ、禁句」と、小声で警告する美奈子。
「知らないから」
品田は一人で呟いた。
「アイドルという立場からすれば、あれは究極のペッタンコやからなぁ。同じ才色兼備なのに……うーん。綾乃ちゃん、育つ栄養が足りんかったんかなぁ……」
放課後、焼却炉の中からボコボコにされた品田が発見されたというのは、本編とは関係のない、別な話だ。
●日曜日 銀座某着物店
「おい、いい加減にしろ」
うんざりという声をあげたのは、由忠だ。
開店時間に入ったのに、もう日が暮れる。
それでも妻のお眼鏡にかなうものがないらしく、倉庫から出された反物はすでに山になっている。
妻の買い物時間の長さは、夫として身にしみてわかっていたが、今日は酷すぎる。
なにより、金額が最初の頃と比較して、優に3ケタ上がっているのはマズい。
「何を言うのですか?」
反物の山をバックに不満そうに答えるのは遥香だ。
「娘の初着物ですよ?親として、念には念を入れておかないと」
「だからといって、モノには限度というものがある!」
「そんなに不満でしたら、言っているじゃないですか。クレジットカードだけおいていってくれればいいって」
「俺を破産させる気か!?」
「妻の私がいいと言うのです。それに、不満ならもっと稼いでいらっしゃいな」
●月曜日 夕方 喫茶店
萌子があんみつを食べながらルシフェルに言った。
「お姉様がお茶に興味があったなんて知らなかった」
「好きだから」
対するルシフェルはお茶に白玉団子。
ルシフェルに言わせると、「お茶=団子」は黄金律だ。
「へぇ。私なんてお稽古事にしか考えてないから、お姉様はやっぱりスゴイです」
「お茶、おいしくない?」
「苦いだけです」
きっぱりと言い切る萌子は薄い桃色の着物姿。対するルシフェルは制服姿。
学校の帰り道で茶道教室の張り紙を見つけたルシフェルが、どうしたものかと教室の中をうかがっていた所を、この教室に通う萌子により、中に連れ込まれた帰りだ。
「足、痺れるとか?」
「普段から正座には慣れてるから、それは平気」
「水瀬君は、それがイヤだから茶道はしたくないって」
「お兄ちゃん、そういうところズボラだから」
「言えてる」
「そういえば、お兄ちゃんは?」
「普段通り。ヒマそうに見えてヒマがない」
「また、訓練ですか?」
「どこかに呼び出されてるみたいだよ?詳しくは知らないけど」
「学校で居眠りばっかりって、その辺が原因かなぁ」
「多分ね」
萌子は、ため息混じりに言った。
「あーあ。お兄ちゃんの面白い話もそれじゃ聞けないし。何か面白い事件、起きないかなぁ」
●京都府内
別に、萌子が望んだからというわけでもないが、事件は1週間後に起きた。
犠牲者は芸術品収蔵で有名な、武田という女性。
事件の時、武田は一人で部屋に入り、10分ほどして弟子の一人が、部屋からの悲鳴を聞きつけ、現場に出くわした。
「―――何をどうやったら、ここまでのことが出来るんや?」
京都府警の堀警部は、赤く染まった室内を眺めながら呆れたような口調で言った。
関係者の話だと、元が茶室のため、部屋はかなり狭い。
「この狭い中で人間を粉々にするやと?」
「切り刻んだ。と言う方が正しいです」と部下の飯田が言った。
「死体には生前に切断された痕が」
「じゃ、どうやってや?刀で切り刻んだとでもいうんか?」
「それが、ヘンなんですよ」
「だろうが」
「いえね?検死医の神田センセが言うには、切断の痕は、みんな生前につけられたものだっていうんです」
「それがどうした?」
「生きたままの人間を、短時間に、生きたまま粉々にするなんて、不可能ですよ」
「騎士なら出来るやろが」
「この狭い部屋で、どうやってですか?」
確かに天井が低く、これでは刀は振るうことは出来ない。
「何やろな……」
●葉月市内
「で、どういうこと?」
鑑識の合間を縫って現場入りした理沙は、血まみれの台所を一瞥した後、部下に聞いた。
「何?近頃、この辺じゃこういう事件が流行なの?」
「知りませんよ。―――ああ、犠牲者は台所で何かしようとして、そこを殺されたというところですな」
「台所で切り刻まれた理由と方法は?」
「不明です。―――あ、犠牲者は池田里奈子25歳。職業は美容師。モデルのメイクを手がける事務所に所属しています」
「交友範囲を洗って。第一発見者は?」
●葉月市内
「羽山君、騎士でしょう!?」
「だからって、おいちょっと待て!」
アーケード街から少し離れた路地を、羽山が奇妙な方法で歩いていた。
何のことはない。
バイト仲間の女の子に押されているのだ。
「神林、妹がヘンなオトコに絡まれているってなら、警察を呼べ警察を!」
「警察より騎士の方が力は強いでしょう!?」
緑のロングヘアをお団子に束ねた独特のヘアスタイルの女の子が、羽山めがけて、そう断言した。
「その騎士を力押しでここまで引きずっているのは誰だ!?」
「あーっ!もう!うるさいうるさい!」
「お前の方がうるさいって」
「黙って女の子の危機を助ける!これ、オトコの任務!OK!?」
「……高いぞ?」
羽山が連れてこられたのは、古い屋敷が立ち並ぶ山の手地区。
その一角で、女の子の悲鳴がした。
「羽山君!」
「っ!行くぞ!」
羽山が女の子を抱えて走り出すと、女の子は、口の中で拍手しながら言った。
「さっすがお人好し!」
「―――心証損ねるぞ?」
公園。というのはヘンだ。
単に樹木が多い一角が、公園のように扱われているだけ。
多分、そんな所だ。
「いやぁぁぁっ!」
そこに響き渡った女の子の悲鳴が羽山の耳にも届いた。
「ふわっはっはっはっ!」
ついでにオトコの下品な笑い声も。
「こっち来ないでぇ!」
何か、嫌がっているようだ。
「ばぁか。来るなといって行かないバカがいるか?ほぉら近づくぞぉ?」
「やだぁ!誰か助けてぇ!」
「ばぁか。そんなに都合良く現れる奴がいるもんか」
「テレビならそろそろよ!」
「もう一度いうぞ?ばぁか。ここは現実の世界だ。げ・ん・じ・つ・の」
「テレビであれば現実でもあるのよぉ!」
「……だそうだ」
「うっわー。偶然って、あるんだねぇ」
羽山と女の子は、思わず顔を見合ってしまった。
「なんか、照れくさいというか、このまま行くのも、バカみたいというか……」
「少し、様子見る?」
「そうだな」
少女の抵抗は続いているようだ。
「やだやだやだぁ!」
「こんな藪に誘ったのはお前のほうだぞぉ?お兄さん、遊ばない?って感じで」
「してないもん!」
「そんなヘソだし下着出しの格好は、そういう意味なんだぞ?しらなかったのか?」
「ファッションに決まってるでしょう!?このエロオヤジ!」
「エロ?エロで結構!俺様のエロスのすさまじさを、お前が快楽と共に味わうまでの距離があと数歩」
「うわーん!やだぁ!」
「泣け、わめけ!その方が俺も萌える!ほぉら、あと3歩」
「こないでぇ!この潰れ饅頭!」
「つぶ?」
「近づくなっていってんでしょう!?このゴミ!汚物!わーんっ!誰かぁ!」
「きっ、貴様……(怒)」
「いやぁだぁ!」
「良い度胸だ!すべての登録を抹消される程の、公表できないレベルぶっちぎりのプレイでお前を俺様の肉●●にしてやる!」
「絶対やだぁ!」
「ふふっ。無駄無駄無駄ぁ!さぁ、覚悟しろ!見ろ!たぎる俺様の●●●●を!」
「いやぁ!」
オトコが諭すように優しく言った。
「恥ずかしがることはないぞ?娘。これがお前にとって初めての――」
女の子は当然だが、そんなことにお構いなしでわめいた。
「いやぁ!こんなブオトコはいやぁ!」
「ぶ!?」
「ついでにこんな粗●●はもっといやぁ!」
「そ!」
「……」
「……」
そのころ、助けに入ろうとした体勢のまま、羽山と女の子は凍り付いていた。
「来ないでっていってるでしょう!?このウンコ!」
「う……?」
「う?」
ピタッ。
羽山の足も止まる。
「う、ウンコとは、誰のことだ!?」
「キョロキョロすんな!あんた以外にいないでしょう!?いやぁ!こんなのが初めての相手なんて!こんな●●●●で●●●●な粗●●なんて挿れられるくらいなら、ウンコ突っ込まれた方がマシよぉ!」
「き、貴様、そこまで言うか!?っていうか、言い切りやがったな!?」
「泣きながら近づくな!このフンコロガシ!ミミズ!便所コウロギ!」
「ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「……」
「ち、ちょっと羽山君!何してるの!?」
「え?」
「早く助けてあげて!」
「……オトコの方を?」
「何バカいってんの!?女の子の方よ!」
「つってもなぁ……」
羽山は正直、困惑していた。
確かに、襲っているのはオトコだ。
うん。これは間違いない。
だが、傷つけられているのはどっちだ?
俺には、これもオトコの方としか思えないんだが……。
「もうっ!羽山君っ!―――えいっ!」
「こ、こら!いきなり押すな!」
女の子に押される形で羽山は藪の中へ入り込んだ。
入り込んだ先。
そこでは、ズボンを下げたまま、刀を抜いたオトコが泣き叫んでいた。
筋肉質のいわゆる醜オトコ。
かなりモテないだろうことは容易に想像がついた。
(こういうの、変態っていうんだろうが……)
羽山は、少し悩んだ。
(この前、涼子さんと公園でヤったのって、端から見てたらこうなのか?)
「あ、お兄さん!ラッキー!」
へたり込んで叫いていた女の子が羽山の足にすがりつく。
「助けて下さい!」
「悪い。俺は今忙しい」
手刀で挨拶した羽山だったが、女の子は手を放そうとはしなかった。
「そんなぁ!お兄さん、顔もそこそこだし、背は高いけど全体的には平凡レベルだし、普段ならノーサンキューゴーホームですけど、今だけ、特別に私の王子様にしてあげますからぁ!」
「―――余所を当たってくれ」
無理矢理に踵を返そうとする羽山に女の子は叫いた。
「ああっ!冗談ですぅ!ご希望なら、私のバージンあげますからぁ」
「―――おいこら」
いつの間にか、ズボンをはき直したらしいオトコが声をかけてくる。
「なんだ?それは俺の獲物だぞ!?」
「あっ、そうなんスか?どうぞご自由に。俺、単なる通りすがりですから」
「だからぁ!」
「羽山君、騎士でしょう!この前、チンピラたたきのめしたみたいにはぱっとやっちゃってよぉ!」
物陰から声援を送る女の子。
「あ、お姉ちゃん?」
「すみか、大丈夫だった?」
「うん。すみれお姉ちゃん。でも、よくここが!」
「そりゃ、同じ産道を旅した仲ですもの!」
「そうよねぇ!」
「ねーっ!」
「ま、そういうことで」
振り返ろうとした羽山の首筋に、冷たいものが当たった。
「―――まぁ、待て」
「……何スか?」
なるたけ平静を保とうとする羽山。
「貴様、騎士だと?」
「―――まぁ、そうっス」
「面白い」
20秒後
どかばきぐしゃぁっ!!
「ぐぉぉぉぉぉっ!」
高い塀を飛び越し、オトコが吹き飛んでいった。
「すっごぉい!羽山君!」
「すごいすごぉい!」
「―――ったく」
刀をもった騎士を素手でたたきのめした羽山は、軽く息を整えて無責任に拍手を送る二人を見た。
「一体、何の騒ぎだ?こりゃ」
「え?だってさぁ。ちょっと触らせてあげればお金くれるかなぁと思って」しれっと言う妹を、姉は叱った。
「ダメよ。もっと高く売りつけなくちゃ!」
「―――帰る」
羽山は、今度こそ振り返らずに現場を後にした。
(人をバカにするのもいい加減にしろ)
羽山は内心、毒づきながら古びた塀の間を歩き、笛の音にぶつかった。
(秋篠か?)
それは幻想的で不思議な音色の笛。
よく聴くと、博雅のそれとは趣を異としてはいるが、それでも心を捉えて放さない音だ。
羽山は音の元を探した。
音は、榊の生け垣の向こうからだ。
音に誘われるように、羽山は音の元へと近づいた。
咎められたら咎められたで何とかなる。
羽山は、そう割り切って近づいた。
生け垣を越えた先、竹で出来た塀からのぞき込んだ先。
そこは、神楽殿になっていた。
(神社?)
羽山は首をかしげた。
神楽殿のある神社が山の手にあったとは知らなかったが……。
音は、神楽殿からだ。
巫女の舞。
官能的にも見えるし、野趣あふれるようにも見える、そして、何より、美しくも悲しく見える。
そんな舞だ。
だが、羽山はその巫女の姿に、一瞬だが驚きを隠せなかった。
問題は、巫女の顔だ。
何故そうなのか?
それは、羽山にはわからない。
ただ、羽山にわかること。
神楽を舞う巫女の顔には、狐の面がある。
ただ、それだけだった。