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夢の中の彼女  作者: ぐみ
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始まりの夢

 俺は今悩んでいた。

その理由というのは、ここ最近毎日俺の彼女が夢の中に登場するのだ。

これだけ言うと、単純に彼女思いのいい彼氏と思われてしまいそうなものなのだが、問題なのはその彼女と5年前に死別していることだった。

確かに、死別した当初はよく夢に彼女が出てきていた。

それだけ俺は彼女を愛していた。

しばらくすると俺も落ち着いてきたのか、そんなこともなくなっていた。

それが今更・・・。

 始まりは1カ月ほど前。

最初の夢は鮮明に思い出せる。

俺は、彼女と一度だけ来たことのある海岸にいた。

時間的には夕方だったと思う。

"思う"というのは、はっきり時計などで時間を確認した訳ではなくて、海が夕日のような橙色に染まっていたからだ。

 しばらくすると、後ろから足音が聞こえてきた。

「足に砂が付いて気持ち悪いー」

紛れもなく彼女の声だった。

しかし夢の中で俺はそのことに何も疑問を持つことはなかった。

「だからサンダル履いてこいって言ったのに」

笑いながら振り返るとそこには、Tシャツを着た彼女の姿があった。

自分の不手際を指摘され、少しふくれっ面になりながらうるさいなぁ・・・おまたせ、という彼女に、俺は待たされた、と冗談交じりに返事しながら立ち上がる。

「今日は連れてきてくれてありがとう」

「いやいやお安い御用ですよ」

彼女の嬉しそうな横顔に、俺もなんとも言えず幸せな気持ちになった。

しかし、彼女は突然暗い表情をして口を開いた。

「でも、ここももう来れないんだよね」

夢の中の俺にはさっぱり意味がわからなかった。

「え、なに言ってるの?またいつでも連れてきてやるよ」

「無理だよ・・・」

「いやいや意味がわからない」

「来れないんだよ」

「いやだかr「来れないんだってばっ」

なぜか泣きそうになっているうえに、なぜか妙に機嫌の悪い彼女に、俺は段々イライラしてきていた。

「じゃあ来なけりゃいいんじゃねぇの」

ついに俺は突き放すように言ってしまった。

途端に悲しそうな顔で俯く彼女。

無言で立ち上がり、彼女に背を向けて歩き出す俺。

どうせ彼女のほうから謝ってくるだろうと考えていた。

しかし、いつまでたっても彼女が駆け寄ってくる気配はない。

後ろを向いたら彼女はいなかった。

彼女がいないことに驚いたが、彼女は先に帰ったということで、その時はなぜか普通に納得して俺も帰ることにした。

 夢から覚めると、俺はものすごく悲しくなった。

そして、夢の中で今の俺よりも悲しそうにしていた彼女のことを思い出して、益々悲しくなって、泣きそうになったが必死で耐えた。

今ここで泣いたらダメな気がして。

その日は、まぁ疲れてたのかなとか、久しぶりに彼女の夢みたな、とかで深くは考えなかった。

 そういうこともあるさ、と割り切っていた俺だったが、次の日もその次の日も彼女が出てくる夢を見た。

毎回毎回なぜか軽い喧嘩のようなことになる。

俺は彼女に対して、甘やかし過ぎなくらい優しく接していたはずだった。

そんな俺が、夢の中では異常なほど冷たい態度を取っていた。

そして夢から覚めると必ずどうしようもなく悲しい気持ちになった。

 数日後。

いよいよ気持ちの安定を失いつつあった俺は、家の中にある彼女を思い起こしそうなものを片っぱしからしまいこんでいた。

毎朝元気をもらっていた写真立てもすべて。

俺は目に見えて精気を失っていった。

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