ほっぺ
学校へ向かう道の上で、僕は必ずやることがある。
ぷに。
僕は彼女のほっぺに人差し指でぷにっとした。
彼女は僕が突いた赤いほっぺを膨らませて僕の方を見る。
「この野郎!」
と叫んで、彼女は人差し指で僕のほっぺを突く。
彼女の指の爪は鋭いからとても痛い。
けど、僕は気にせずに…というより、痛みを消すように「アハハッ!」と大笑いしながら彼女から逃げた。
彼女は「待てー!」と叫び、指を振りまわして僕を追いかけた。
彼女は滅茶苦茶怒っていた。
けど、何故か笑っていた。
彼女の赤い顔に浮かぶ笑顔。僕はそれが好きだった。
……好きで、またぷにっとしたくなった。
何度も、何度も。
彼女が白いベッドの上で寝ている時も、僕は彼女のほっぺをいつも通りぷにっとした。
彼女はただ静かに笑顔を浮かんでいるだけだった。
ほっぺも膨らまないし、怒鳴りもしない。
彼女の指も動かないからだ。
そのままほっぺを突いているうちに、なんだか僕の指先が冷たく感じた。
気づけば、僕の眼から涙がポロポロと落ちていた。
―――どうしたんだろ、僕。泣くつもりなんてないのに。……そっか。
彼女の白い顔に浮かぶ笑顔。僕はそれが嫌いだったんだ。
……嫌いで、二度とぷにっとしたくなかった。
マジで。絶対に。
あれから数日。
僕は一度もぷにっとしていない。
学校へ向かう道の上で、僕はひとり歩いている。
ぷに。
僕のほっぺに、誰かが突いてきた。
「なに?」
と僕は不機嫌そうに後ろへ振り向いた。
すると、その眼の前には――。
見たことがあるような、僕と同い年の女の子だった。
気づけば、僕の眼から涙がポロポロと落ちていた。
―――どうしたんだろ、僕。泣くつもりなんてないのに。……そっか。
彼女の赤い顔に浮かぶ笑顔。僕はそれが好きだったんだ。
僕は、その赤いほっぺに人差し指で軽く突いた。
いつもの感覚だった。
彼女の柔らかくて暖かいほっぺ。僕はそれが好きだったんだ。
ええと…初めまして、糸子龍と申します。
今回は初めての小説というわけで自分が思ったままに書いてみました。
「ほっぺぷにぷに」は私の最近の楽しみの一つです。