帳簿のない世界
「おい、お前。なんだその恰好は。旅人か」
筋肉がごつごつした、ぼろぼろのタンクトップのような服を着た大男に声をかけられた。
名前はゴルバというらしい。
「あ、すいません。最近この辺りに来たものでして。ここってなんという国でしょうか」
琉架はとっさに嘘をついた。
「そんなことも知らんのか。ここはリベルタ王国。商業が盛んな街だ。見てみろ。そこかしこで様々な品のやり取りをしている」
「そうなんですね。リベルタ王国ですか。素敵な街ですね」
「そうだろう。俺の生まれた国だ。まあゆっくりしていってくれ。俺もここで商品を扱っていてな。どうだ。買っていくか」
ゴルバは豪快に腕組をしながら言った。
「せっかくですが、今手持ちのお金がなく。すいません」
琉架はその場をなんとかやり過ごそうとした。
「そうか、では我が国を楽しんでくれ」
笑いながらゴルバは去っていった。
「ふぅー、なんとか切り抜けた。さて、どうしたものか。とりあえず市場を見てみよう」
市場を散策していると声が聞こえた。
「今日の売上、金貨30枚!今日は盛大に飲むぞー」
「あんた、よしとくれよ。明日ゴルバさんへ商品の代金を支払わなければならないんだろ」
「こんだけあれば足りるだろう。たまに店が繁盛したときぐらいけちけちすんな」
「有り金全部使っちまうから言ってるんだろ。さっさと金貨をよこしな」
どうやらご夫婦で仕入れた商品を販売しているようだ。会話を聞く限り奥さんのほうが立場は上らしい。
「たまにぐらいいいじゃねーか。最近いい酒ができたって酒場のリュースが言ってたんだ。それを飲むのを楽しみにしてたのにあんまりじゃねーか」
「あのー、商品の代金分だけ先に奥さんが管理しておけばよいのではないでしょうか」
琉架はご主人が居た堪れなくなり、つい会話に入ってしまった。
「あんた誰だい。変な恰好だね。商品の代金だけじゃだめなんだよ。支払わなきゃならないものがたくさんあんだから」
「といいますと?」
奥さんは口から濁流のごとく、店主への不満を言い始めた。
「この人がこんなんだから、お金をたくさん借りてんのさ。その支払のために金を必要なのさ。本来なら酒なんて飲む余裕はないんだよ」
なるほど、これは相当収支がわるそうだ。
「ちなみにどれくらい借金があるんでしょうか」
「次から次へ借りてくるんだからわかりゃしないよ。店の商品だってかわいい子が来るとすぐサービスしちゃうんだから」
「帳簿を見せていただければ、お役に立てるかもなんですが」
琉架はとっさにそう言った。
「帳簿ってなんだい」
え?
仕入れは?
在庫は?
利益は?
負債の残高は?
何も分からない。
琉架は店の店主に聞いた。
「帳簿がなくて儲かってるか分かるんですか?」
店主は笑った。
「そんなの勘だよ」
終わってる。
完全に勘経営だ。
「私を雇っていただければ現在の借金すべて返済できますよ」
琉架はようやく自分がこの国で生きていく道を見つけた気がした。
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