第五話「家柄だけの小娘でしたわね」
国王夫妻との面会後、ティエスとジルは別館の講義室へと向かって移動していた。
本館から抜けた、屋外の渡り廊下に差し掛かる。
室内の照明に慣れた瞳に、青空の光が眩しく差し込んだ。
━━いい天気だな。
中庭からは小鳥の囀りが聞こえ、花々がそよ風に揺れている。
ティエスは、軽く伸びをしてから渡り廊下を歩き始めた。
「ごきげんよう。ワールウィンド公爵令嬢様」
あくびを噛み殺しているティエスの肩に、明朗な女性の声が投げかけられた。
ティエスは振り向いた。
中庭の一角に置かれた、円形のガーデンテーブル。卓上には三段のケーキスタンドが据えられ、焼き菓子が小さく塔を作っている。
三つの椅子に、三人の令嬢たち。
一人が立ち上がり、こちらの方へと歩み出た。
「良き時にお会いいたしました。焼き菓子が少々、多すぎて困っていたところでしたの。是非、お茶会にご同席してくださらないかしら」
令嬢は小首を傾げ、揃えた指先で口元を隠した。
綿毛のように柔らかな白髪を、ふんわりと縦に巻いている。
蜂蜜色の瞳が甘く輝く。
年の頃はティエスよりも下、トーリと同じくらいと見える。背丈はティエスよりも頭ひとつ分低かった。
「誰?」
ティエスはジルに視線を向けた。
「さぁ。知りません」
ジルは答えた。
令嬢の片眉が少し動いた。
「カマッセ侯爵家の者とお見受けしますが」
ジルは、令嬢の纏う家紋に視線をやる。
「お嬢様は先約があります。しかるべき段取りをふまえてもらえますか」
ジルはまっすぐに令嬢を見据えた。
令嬢は視線を受け止めて、逸らした。
「これは大変な失礼をしてしまいましたわ。私ったら、噂の公爵令嬢様をお見かけして、つい舞い上がってしまいました」
令嬢は、半歩下がってカーテシーの礼をとった。
「カマッセ侯爵家が娘。マルケーヌ・カマッセと申します。以後、お見知りおきくださいませ」
ジルは無視した。
構わず先に進もうとするジルを見て、ティエスは、
「私はティエス」
片手をあげて名乗ると、ジルの後に続いて歩き出した。
マルケーヌは顔を伏せたまま、カーテシーを続けた。
ティエスとジルの後ろ姿が完全に見えなくなった頃。
マルケーヌは顔を上げた。蜂蜜色の瞳が、強気に光を放っていた。
・・・・・・
ティエスは、先導するジルの背中を眺めながらぼやいた。
「王宮のやつってさぁ。みんな、ああなの?」
「ああ、とは?」
「やたらお茶飲みたがる。好きでもない、嫌いな相手にわざわざ笑顔で声をかける」
━━悪意が隠せてないっつーの。
ティエスはため息を吐いた。
「今から会う、ローデット・マイエル夫人ですが」
ジルは、ティエスに振り向いた。
「彼女の話はちゃんと聞くように。後が面倒です」
「えぇ……?」
ティエスは再びため息を吐いた。




