第四話「謁見」
ティエスは、王宮に来ていた。
応接間にて。
広すぎも狭すぎもしない空間だった。
落ち着いた見た目の調度品が、ゆったりとした空間を演出している。
部屋の中央には、長方形のローテーブルが置かれている。
卓を挟んで、向かい合うソファが二組。
下座にはティエスが腰掛け、ジルが後ろに控えている。
流石のティエスも正装だった。
赤褐色の長髪はジルの手により、耳から上までがまとめられ、後ろに流されている。
日焼けた肌の境目はドレスが隠す。生来の白い肌は覆われ、健康的な褐色のみが露わとなっていた。
首元まで立てた襟、二の腕半ばまで覆う袖。足元でふわりと広がる裾は、気を抜けば踵で踏みつけて転びそうだ。
新月の夜を纏うような、限りなく黒に近い紺。ドレスの左胸には、アイスブルーのブローチが瞬いている。
「遠路、ご苦労だったね。ティエス嬢」
国王夫妻が入室し、労いの声をかける。
ティエスが振り向こうとすると、ジルがティエスの肩に手を置いた。
ティエスは一瞬考え、立ち上がって一礼した。
「よい、よい」
国王は鷹揚然とした笑みを浮かべ、蓄えた白い髭と、恰幅の良いお腹を揺らした。
白髪の頭に豪奢な王冠を戴き、赤地に金糸の刺繍がびっしりと施された、重厚なマントを羽織っている。
隣を歩く王妃もまた、ふくよかである。
透き通った白い肌は、胸元にかかるネックレスの真珠の無機質さと大差ない。
結い上げられた白金の長髪は、白髪の一本も残さないほど完全に染め上げられていた。
薔薇色のシルクドレスは、幾重にも折り重なるフリルがあしらわれている。
足を運ぶたび、甘い香水の匂いを漂わせた。
国王夫妻は上座に腰を下ろした。
「お疲れではありませんこと?」
王妃が、ぱんぱんと手を叩く。二の腕が波打つ。
侍女が進み出て、テーブルに三杯のお茶が用意される。
薄い磁器が卓に触れると、小さく澄んだ音がした。
「━━あなたは?」
王妃がジルに問うた。
「要りません」
「そう」
ジルはにべもなく答えた。
ティエスは、ジルが普段通りであることに感動した。
「王都で流行りのお茶なの。お口に合うといいのだけれど」
王妃は琥珀色の小瓶からジャムをすくった。
砂糖壺にも指を伸ばす。銀の匙がきらりと光った。
国王も同じようにカップに砂糖を落とし、匙でくるくるとかき混ぜる。
ティエスはカップを手に取り、口元に近付けた。匂いが鼻腔を直撃した。
━━香り、きっつ。
ティエスは顔を顰めながら、カップに口をつけた。
━━まっず。
ティエスはカップをソーサーに戻した。
「はっはっはっ。お気に召さなかったようで残念だ」
「あまり口にしたことがない味だったので」
ティエスは口元を手で抑えつつ答えた。
「王都の暮らしにも、少しずつ慣れていけるといいわね」
王妃は心配そうに声をかけた。
「トーリとは仲良くやれているか」
「ああ、はい。いつも助けてもらってます」
「それは何よりだ。なにせ婚約者なのだから」
国王は笑みを浮かべた。
ティエスの胸元でブローチが冷たく光った。
「礼法について学ぶと聞いて、王宮内に場所を用意してある。講師は、かのローデット女史をお招きしたと聞く。励むといい」
「…………はい」
国王の笑みはわずかに深くなった。
執事が進み出て、国王になにやら耳打ちをした。
「残念だが、ゆっくりと話す時間もないらしい。ではな」
国王夫妻は退室していった。
音もなく扉が閉まった。
余韻がしばらく残った。
ティエスは、はぁ、と息を吐いた。
「時間ないなら会わなくてよくない?」
ティエスはジルに振り返った。
ジルは肩をすくめた。




