第二話「衣装部屋で出しなよ」
公爵領を発ったのは、日の出の前後だった。
ごねるティエスを引きずり出したり、途中で騎獣を休ませたり、食事を摂ったり。
そうして王都に着いたころには、日はとっくに傾いていた。
青空の下で影が大きく伸びている。
王都、公爵所有の別邸。
ティエスは、いやいや門をくぐった。
館の扉を開けた瞬間、埃がふわりと舞う。
「……これを今から片付けるのかぁ」
「ティーのことだから、大所帯では来ないと思っていたけれど。まさか、二人だけで来るとはね」
トーリは、いつもの胡散臭い笑みのまま、広いエントランスホールを見回した。
状態こそ整理されているが、長らく人の手が入っていないと見て取れる。
「まぁ。他の者について来られても……困りますし」
ジルは、しれっと言う。
「私もアレだけど、こいつも大概だからな」
ティエスの揶揄。
ジルは何も言わない。否定もしない。
他の人員を連れて行かないのは、ジルの希望であり、ティエスの希望でもあった。
ジルは淡々と袖をまくった。
「始めましょうか。日が暮れます」
「私は荷物少ないからマシだなぁ」
ティエスは大きめの鞄をどすんと置いた。中身は、日用品と筆記具と、枕。必要最低限。
「着替えはあるの?」
「あ」
トーリの疑問。
ティエスの表情がかたまった。
「ありますよ」
ジルが、どこからともなく衣類をどさどさと取り出した。
トーリはスッと背を向けた。
「よく、あの貨物室にこんなに詰められたな」
ティエスはメイドの収納術に感心した。
「まぁ」
「じゃあ、ぼくは水回りの確認でもしようかな。『水』は得意だし」
手持ち無沙汰のトーリは、身体を反転させたまま提案した。
「私は風魔法が得意なので掃除ですか」
「……あのさ、わざと言ってる?」
トーリとジルの言葉に、ティエスは、むすっと答える。
貴族なら、魔法が使えるのが当たり前だ。
魔法を使い熟し、外敵から領民を守れるからこそ、貴族は貴族たり得る。
しかしティエスには魔法が使えない。
「お嬢様は脳筋なので力仕事でもしててください」
「上等だオラァ!」
ティエスは、床にぶちまけられた衣類を、両手に山ほど抱えた。
「え、重……」
腕がぷるぷると震えた。
精一杯の力で持ち上げると、よたよたと廊下を進んだ。
口では文句こそ言うが、ティエスにとって、自分のことを自分でするのは当たり前だった。
邪魔だから何もしないでじっとしていろ。
なんて言われるよりも居心地がよかった。
「あはは。手伝いが必要なら言ってね」
トーリは声だけかけると歩いていった。
そうこう片付けをしているうちに。
気づけば、窓の外はすっかり暗くなっている。
腹の虫が館の中で鳴いた。
「お腹すいた」
「外で済ませるよね。いいところ知ってる」
トーリはウィンクした。
王都におすすめの食事処があるとか。
ティエスもジルも反対しなかった。




