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テンプレなざまぁ男子のテンプレな後悔と自分のための謝罪  作者: 章槻雅希


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迷惑な押しかけ客

 その日デュラフォア侯爵家の王都別邸(タウンハウス)には招かれざる客が訪れていた。


 本来、高位貴族の家に爵位が下の貴族(しかも当主ではない準貴族)が先触れもなく押しかけてくるなど有り得ないことだ。門前払いされて当然なのだ。


 しかし、その押しかけ客は門前で騒ぎ、偶々王立学院から帰ってきたこの家の長女エヴリーヌ・コラリー・ド・デュラフォア──華も恥じらう17歳の乙女。但し、家族の男性陣に言わせれば中身は食虫花──と出くわした。結果、押しかけ客は屋敷に招き入れられ、一番格式の低い応接間へと通された。


 そうして小半時ほど待たされた押しかけ客の前に現れたのは彼が望んだシャンタル・ミレイユ・ド・デュラフォア侯爵夫人ではなく、己を屋敷に招き入れたエヴリーヌだった。


(参ったな、こんな小娘には興味ないんだけど。やっぱり僕の美貌は罪作りだな。さっさとシャンタルと仲直りして連れて帰らなきゃ)


 爵位が上の令嬢に対して無礼で頓珍漢で的外れなことを考えながら、押しかけ客は立ち上がって礼を取ることもしなかった。一応まだ貴族であるとはいえ、廃嫡され社交界からも遠ざかって礼節を忘れたらしいとエヴリーヌは顔には出さないものの内心では呆れていた。


(きっとお継母(かあ)様もご苦労なさったでしょうね。こんなド阿呆の非常識自己陶酔男が婚約者だったなんて。まぁ、今はお父様と結婚なさってわたくしたちのお継母様になってくださっているから、こんな盆暗とは永遠に無関係ですけれど)


 エヴリーヌは淑女の笑みを崩さぬまま、押しかけ客の対面に腰を下ろす。給仕係(パーラーメイド)が二人の前に茶を供して部屋の隅に下がると、エヴリーヌは漸く口を開いた。


「はじめてお目にかかりますわね。わたくしデュラフォア侯爵家の第一子エヴリーヌ・コラリーでございます。貴方はラガルド伯爵家の元嫡男ナルシス・ロジェ様ですわね」


 『元嫡男』に力を入れてエヴリーヌは目の前の男に確認する。この男は敬愛する継母を衆人環視の下冤罪で貶めて婚約破棄しようとした愚か者なのだ。その結果廃嫡され、弟が爵位を継いだら平民になることが決まっているらしい。継母を溺愛している父が何かあってはいけないと定期的に調べているからナルシスの状況は家族全員把握している。尤も3歳の弟と1歳の妹は除外されているが。


「令嬢に話があるのではない。僕が話したいのはシャンタルだ。さっさとシャンタルをここに連れてきてくれ」


 伯爵家の冷や飯食いが侯爵令嬢に対しての無礼、更には侯爵夫人を呼び捨てにする無礼と不敬にエヴリーヌの蟀谷に青筋が立つ。室内に控えている給仕係と護衛騎士も剣呑な空気を纏う。しかし、鈍感なナルシスはそれに気付かなかった。


「お継母様は今大事なお体ですの。礼儀も弁えず貴族の作法も慣習も守れないような慮外者に簡単に会わせるわけには参りませんわ」


 継母にはナルシスが押しかけてきたこともエヴリーヌの判断で最下位の格式の応接間に通したことも告げてある。今は隣の控えの間(という名の盗み聞き部屋)にリュシアン・クロード(腹黒弟)と共に話を聞いているだろう。弟は美しく聡明な継母を崇拝するかの如く慕っているから、今頃自分以上に怒り狂っているに違いない。


「君じゃ話にならないんだよ、ご令嬢。シャンタルを呼んでくれ」


「無礼者。何の権利があってお継母様の名を呼ぶのです。元婚約者の平民モドキが!」


 先ほどの嫌味が全く通じていないことにエヴリーヌは呆れた。どうやら屋敷の離れに再教育という名の半幽閉をされている間にすっかり貴族としての常識を失ってしまったようだ。いや、真実の愛に出会ったと男爵令嬢と浮気して冤罪をかけるような愚か者だ。浮気に現を抜かしている間に貴族常識も脳内から抜け出てしまったのだろう。


 然程大きな声ではないものの、高位貴族令嬢として命じることに慣れたエヴリーヌの覇気のある(どすのきいた)声にナルシスは震えあがる。6歳も年下の令嬢に圧倒され怯えるナルシスにエヴリーヌも隣室に控えているシャンタルもリュシアンも呆れて溜息をついた。


 エヴリーヌは継母であるシャンタルのことを実母以上に敬愛している。まぁ、実母はろくでもない阿婆擦れで自分がお姫様なお花畑だったので、尊敬するところが全くなかったのだが。それでもシャンタルが母となってくれたことが嬉しくて仕方がない。年齢が6つしか離れていないものの確りとした母娘関係を構築している。


 エヴリーヌがシャンタルと出会ったのは12歳の王立学院入学前の茶会である。王立学院は13歳から3年間を中等科、16歳から18歳を高等科で学ぶ。入学前の茶会は中等科に入学する前に行われるが、そこには高等科の最高学年からも数名がホスト役として参加するのだ。


 エヴリーヌは一目でシャンタルのファンになった。見目の麗しさだけではなく立ち居振る舞いが雅やかで品に溢れ、入学前の令嬢令息に対して柔らかな物腰と笑顔で緊張を解きほぐしてくれた。近寄りがたさもなく適度な気さくさで、エヴリーヌたちを楽しませてくれたのだ。同じ侯爵令嬢とはいえ、6つの年の差は大きい。エヴリーヌの憧れる理想の貴族令嬢の姿がシャンタルだった。


 それからはシャンタルが参加するという茶会には可能な限り参加した。王立学院高等科の卒業祝賀会も父が来賓として呼ばれたのに同行したほどだ。まさかその場でシャンタルの冤罪・婚約破棄茶番劇に遭遇するとは思いもしなかったが。


 第二王子やその婚約者の公爵令嬢と共に凛として立ち己の無実を晴らすシャンタルは美しかった。エヴリーヌが見惚れる横で父も見蕩れていた。そこでエヴリーヌはチャンスだと思った。父は5年前に離婚している。母が不貞を働いたからだ。それからは女っ気はなし。その父がシャンタルに見蕩れている。幸いといってはなんだが、今シャンタルは婚約破棄したばかりだ。つまり、婚約者はいないのだ。


「お父様、シャンタル様をお慰めしたいです」


 積極的に茶会に顔を出したおかげでシャンタルとはそれなりの交流がある。卒業の祝いを告げるつもりでいたが、合わせて茶番に巻き込まれたことを労わっても問題ないだろう。


 そうして、エヴリーヌは父を連れてシャンタルに声をかけ、それを契機として父とシャンタルは出会い、半年後には婚姻を結んだのだ。流石に15歳の年の差があり、シャンタルの家族は反対していたが、愛娘(愛妹)の懇請には逆らえず無事シャンタルは嫁いだのである。


 それからは父はシャンタルを溺愛し、自分も弟も彼女を母と慕い、2人の異母弟妹も産まれて、家族6人で幸せに、平和に過ごしていたのだ。


 この、どうしようもない愚かな押しかけ客がやってくるまでは。


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