第八話 始まりの朝
朝なのか夜なのか、照明は昨日と全く同じように無機質な廊下を照らしている。 陽が先に手を振った。 やけに明るい声が、この場所では少し浮いて聞こえる。
「おはよう!」
「おはよう、説明書、読んだか?」
「うん!ざっと目を通したよ」
俺は思わず眉をひそめた。
「ざっとって……!お前……」
「わかってるよ。わかってる。でも…」
陽は言葉を切って、視線を逸らした。
「とりあえず、嬉しいんだ!」
その一言で、俺はそれ以上言えなくなる。 そこへ、少し遅れて蒼が来た。 小さく息を整えながら、微笑む。
「2人とも、おはよう」
「おはよう!」
「おはよう」
一瞬、言葉を探したが、結局何も言えなかった。 陽が蒼の様子を伺うように聞く。
「朝飯、食えるか?」
「うん。お腹、ちゃんと空いてるよ」
その言葉に、なぜか胸が詰まる。 しばらく歩いて食堂に着くと壁際に機械が並んでいた。 『チケット制』 説明書に書いてあった。 チケットを入れると、機械が低い音を立てて食事を吐き出す。 時間は自由。チケットがあれば、いつでも食べれるらしい。 だが、一ヶ月ごとに消費量は確認される。
―――毒、か
俺は無意識にチケットを握りしめ、トレーを受け取る。食べなければ、死ぬ。 食べても、いずれ死ぬ。 それでも。 蒼がトレーを受け取って、少し嬉しそうに目を細めた。
「……あったかい」
その一言で、俺は全部飲み込んだ。
「ほら、席行くぞ」
陽はもう、ただご飯を楽しみに歩き出す。 これが救いなのか、絶望なのか、俺にはまだ分からなかった。 ただ一つだけ、はっきりしている。
―――もう、戻れない。
蒼が隣で小さく
「いただきます」
とつぶやいた。 そのとき、食堂の入口が開き、俺は視線が自然と上に吸い寄せられた。 黒髪で長髪の女性と、黒髪短髪の男性が立っていた。一瞬、女性と目が合った。 その女性はほんの僅かに微笑んでいるように感じた。胸の奥が、わずかにざわつく。 二人が食堂を見渡している。 陽も蒼も気づいていない。 だが俺は、気づいてしまった。
―――この人たちが、あの「特殊戦闘員」だ。




