第七話 自負
276号室
蒼はベッドに腰掛け、説明書を開いた。
《国家特務防衛隊 東京課における説明書》
・本施設は政府管理下であるが、一般法は適用されない。以下、禁止事項を述べる。また、規律違反は即処分対象とする。
……
19外部任務中のマスクの取り外し
……
・以下、留意事項を述べる
……
外部へ出る時は必ずマスクをすること
マスクが外部で破損または外れた場合、マスク共に所持者は爆破される。
……
「……っ」
胸を押さえ、数回静かに咳き込んだ。
「説明書…まだ途中なのに…」
文字を追おうとするが、視界が少し揺れる。
「みんな…ごめん…」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。 そのまま説明書を胸に抱え、目を閉じる。
――その夜、蒼は一度も目を覚まさなかった。
地下は、時間の感覚が曖昧になる。一定間隔の白い照明が並ぶ廊下を、ひとり、静かに歩く。 足音は鳴らない。 ヒールの中の仕掛けが音を立てないよう潜んでいる。数歩進んだところで、ふと立ち止まった。
――276号室。
扉の前で、わずかに視線を落とした。
中は見えない。
しかし、ほんの一瞬、呼吸が乱れている気配がした。
浅く、弱い。
ただ、数秒、扉の前に立って小さな息を吐いた。それ以上考えるのをやめ、私は再び廊下を進んだ。




