第四十七話 小刀
起きると、午後五時をすぎていた。昨日寝たのが確か午前六時だったから随分長く寝てたらしい。
―――お腹すいたな…
師匠に連れられてそのまま寝たから何も食べていない。すると、扉を叩く音がした。開けると陽がいた。
「おはよ!湊、飯行こうぜ。」
昨日よりも少し声に覇気があった。
「おはよう。俺もお腹すいた。」
廊下を歩いていると、陽がポケットから何かを取り出した。
「湊、これ持つ?」
―――これは…
取り出したのは蒼が前に持ってた小刀だった。
「持ってきたの?」
「うん。体はほぼ残ってなかったし弔う時間もなかったけど、なんか気づいたらこれだけ持ってきてた。」
陽の声は淡々としていた。小刀には血もついていないし、汚れもない。きっとさっき拭いたんだろう。陽にしては珍しいことだ。
「俺はいいよ。陽が持ってて。その方が役に立つ気がする。」
「なんだそれ。」
俺たちの笑い声が廊下に響いた。食堂に着き、席へ座ると龍さんと伊代さんがいた。
「あっ!おはようございます!」
「おはようございます。お二人が食べてるの珍しいですね。」
「おはよう。いつもはみんなと時間が被らないだけで食べてはいるわよ。」
「逆にお前らの食べる時間が変なんだよ。調子崩すぞ。」
「へへ…起きれなくて…」
陽が少し笑いながら言った。
「あと、まだおはようって挨拶使ってるのか?感覚おかしくならねぇの?」
「癖で使っちゃうんですよね。太陽見てるわけじゃないのでいいかなって思っちゃって。」
俺も少し笑いながら言った。
「まあ、好きにしろ。しばらく任務はないだろうから、適度に休んどけよ。またな。」
「後でね。」
そう言って二人は言ってしまった。
―――また…?後…?
「俺も両手剣がいいなぁ。」
陽が龍さんを見ながら言った。
「なんで?重そうだよ。」
「でもさ、かっこよくね!?」
「竜也隊長は片手剣じゃん。」
「確かに…」
「もう少し筋肉ついたらできるかも。」
「よし、筋トレしよう!そういえば、師匠のとこ行かなきゃじゃね!?」
「あっそうだね。食べたら急いで行こう。」
俺たちは急いで食事を終え、訓練場へ走った。
「師匠、お待たせぇぇええ?」
師匠の横にはさっきまで話していた二人が並んでいた。陽が驚くのも無理はない。
「来たか。ちゃんと休めたか?」
「休めましたよ。それより、えっと、龍さんと伊代さん?さっきぶりです。」
「さっきぶりだな。食べてすぐ走ると吐くぞ。」
「お二人も訓練ですか?」
「今日からこいつらに稽古をつけてもらえ。」
師匠の言葉で一瞬場が凍った。陽と顔を見合せ、口が開いたまま閉じない。
「えっええっ!?」
「さっきの後でねってそういう…?」
「そういうことね。」
「こいつらは単体でも強いし、まあ常人離れはしているが、二人で戦う術がある。お前たちもそれを身につけろ。」
師匠が二人を見ながら言った。
「えっでもお二人忙しいんじゃ…」
「一、二時間なら時間は作れる。残りは自主練。インプットばっかやったって意味ねぇからな。」
特殊戦闘員直々の訓練。俺たちは胸が熱くなった。
「やるの?やらねぇの?」
「やります!!」
口を揃えて返事をした。
二人に言われたのは、基礎体力・周りを見ること・隙を作らないことの三つ。
「基礎体力は地道につけるしかねぇ。毎日筋トレして剣振りまくってればそれなりにつく。周りは常に見ろ。隣のやつがどんな動きするか、それを見て自分の動きも考えろ。一番重要なのは隙だ。」
「隙…」
確かに、俺たちは何度も背後やなんだったら正面からも襲われている。
「今のお前らになら俺は刀がなくても勝てる。それくらい隙が多い。」
「刀無し…」
陽と俺は身を縮ませた。
「逆に自分の隙を無くすと相手の隙が見えてくる。大事なのは動きを理解することだ。」
龍さんと伊代さんは素手、俺たちは訓練棒を持ってそれぞれ対戦し始めた。棒は体に一度も当たらないのに俺たちは何度も掴まれて殴られ、飛ばされた。何度も何度も。そのうち、自分がよく掴まれているところを俺たちはわかり始めた。だが、わかってても防げない。速さも足らないし、棒なんてかわされて一瞬でやられる。
「今日はここまでだ。あとは好きなことしてろ。」
「じゃあね。」
そう言って二人は訓練場を去ってしまった。対戦はしたが、どこが隙か、どうすればいいかは言われなかった。
「酷い…勇さんより酷い…」
「俺…足ずっと蹴られた…」
「俺は背中…」
顔を見合せ、どうすればいいかを話し合った。動きを真似したり、二人で素手で戦ってみたりすると時間は一瞬ですぎていき、気づくと8時間訓練場にいた。握っている棒が手から離れそうになる。体は重く、足は震えていたが、お腹がすいて一度食堂に行ってもまたすぐに訓練場に戻り、訓練し続けた。
―――もう少し…まだ…
二人で対面して睨み合っていたところに誰かが来た。
「まだやってたの?」
伊代さんだ。壁の時計を見ると午前五時になっていた。
「もう寝なさい。明日またやりましょう。」
「でも…まだ…」
「ローマは一日にして成らず。」
突然、師匠の声が聞こえた。振り返ると、すぐそこにいる。ずっといてくれたのかもしれない。
「はい。」
俺たちは訓練場を後にし、部屋へ戻って行った。




