第四十六話 残された者
救護室を出て、何とか風呂を終えると俺と陽はまた訓練場に行った。廊下は冷たく、静まり返っている。ボロボロだし、一刻も早く寝たかったけど、行かなきゃ行けない気がした。
「ししょー。ただいまー。」
「戻りました。」
「よく戻ったな。それだけ十分だ。」
師匠は俺たちを一瞬見たが、すぐに顔を伏せてしまった。声は低かった。
「さっき戻ったんだろう。もう部屋で休みなさい。」
師匠に言われて俺が部屋へ戻ろうとした時、陽が声を震わせながら言った。
「師匠、俺…もっと強くなりたい…!」
その言葉に胸が締め付けられる。抑えていたものが溢れ出そうになった。
―――俺も
「俺も…強くなりたいです…」
師匠の目はまっすぐこちらを見ていた。俺の体が震える。疲れてるからなのか、涙をこらえているからなのかわからない。
「明日また、ここに来い。今は休め。休養も大切だ。」
師匠は俺たちを部屋まで送ってくれた。何も言わなかったけど背中を支えてくれてた手が暖かかった。
「よお、翔。おひとり様か?」
「おつかれー。今回は酷かったらしいね。」
救護室から部屋へ戻る途中で、突然、蓮さんと裕翔に話しかけられた。いや、もしかしたら少し前から見えてたのかもしれないけど。
「一人です。これからずっと。」
「あらら」
「あー…無理はすんなよ」
珍しく優しい声だった。蓮さんは何気に俺を気にかけてくる。裕翔は俺と同い年で第2の副隊長だから自然と仲良くなってた。いつもだったら二人で互いの隊長を探し回っている。
―――もうそんな必要ないけど
自分の部屋に戻り、横たわった。かすり傷なんてほぼなかったし、これくらいならいつもは体力だって大丈夫だった。でも、今日はもうこれ以上動けない。あの人に蹴られた腹だけが痣もないのに妙に痛かった。拾ってきた槍を見る。
―――すごいなぁ…
長物を狭い空間で扱うのは難しい。ましてや周りには味方だっている。どこまでやったらあの人のようになれるのだろう。俺はそのまま目を瞑り、深い眠りに落ちた。




