第四十五話 心と身体
次々と怪我人が入ってきた。部屋は急に忙しなくなる。この光景は見慣れているけど、いつもどこか悲しくなる。
「ちょっと!重症の人が先です!他の人は大人しくしててください!」
渚の声が相変わらず部屋中に響く。この子を助手にして正解だった。
「先生、私も手伝う。」
伊代が隣へきて手当をし始めた。伊代は小さい時にも怪我人の手当を手伝っていたから手際がいい。
「助かるわ。ありがとう。それにしても…今回は随分酷かったみたいね。」
「みんな重症。もっと私たちが早くついてれば…」
「十分だ。遠かったんだろ。それにそしたら地雷にかかるのがお前らになってただけだ。」
竜也がベッドに横たわりながら言った。結構重症だけど、竜也は体は丈夫なのよね。
「あら、二人は今回はそんなに怪我はしてないのね。良かった!陽、足平気だったの?心配してたのよ。」
「俺たちは平気。足も、平気。」
いつになく声に覇気がなかった。一人欠けてしまった重みは大きい。
「そうね。二人は強いものね。はい、終わり。戻っていいわよ。」
「ありがとうございました。」
湊と陽はすぐに部屋を出て行ってしまった。
「おい、誰か翔見てねぇか?」
「私は見てないわ。帰ったらすぐどっか行っちゃったもの。」
「今連れてきた。」
竜也と舞子の会話に便乗して龍が部屋に入って来た。後ろに翔もいる。目が虚ろだった身体と言うより心の傷の方が重症かもしれない。
「ほら、ちゃんとみてもらえ。菌入って腐ったら終わりだぞ。」
「翔さん、そこ座ってください。」
渚に手当されている間も翔はされるがままだった。いつもは救護員も大変ですね、なんて言って勇を引きづって来るのに。勇はめんどくさがって救護室に来ないのよね。
「終わりました。ちゃんと休んでくださいね。」
「ありがとうございました。」
そう言うとふらふらと部屋を出ていってしまった。押し寄せてきた怪我人は一気にいなくなり、竜也、舞子、龍、伊代と救護員数名だけが部屋に残った。
「先生、お疲れ様。渚たちも。」
「伊代さんもありがとうございました。ゆっくり休んでください。」
渚は重症患者が寝ている部屋へ行った。
「翔はいない…わよね?まさか勇が逝くとは思わなかったわ。しぶとく生きるタイプだと思ってたんだけど…」
「俺も/私も」
全員の声が揃った。勇が強いことはうちではあたりまえだったから。
「蒼は…申し訳ないと思ってる。俺は、あの時、あの選択肢しか出来なかった。」
「結局何が起こったの?」
竜也がその時起こったことをそのまま話してくれた。私はただ黙って聞くことしか出来なかった。
「政府の思惑通りになっちまったな。」
「でも、もうほぼ生きれないことは決まってたんでしょ?彼なりに決めたことなら私はそれでいい気もするけど。」
「残された側にしてみれば、たまったもんじゃないけどな。」
一瞬部屋は静まり返った。舞子が沈黙を切る。
「そういえば、遠かったって言ってたけどどれくらい遠かったの?」
「地図の距離でいえばそんなになんだが、曲がってたり斜面になってたりして走ってもまあまあかかったな。それと閉じるのが一番手間だった。」
龍に続いて伊代が付け足した。
「そもそも私たちの入ったところは昔トンネルを作ろうとしたのを途中でやめたところだったの。」
「じゃあ結構でかかったんだな。」
「でかいし、長い。しかも途中で崩れてたりしたから下手に閉じるとそのまま生き埋めになる。」
「げぇ…想像したくないわね。」
「けど、朗報もある。」
「ほんとに朗報なんでしょうね…?」
伊代の言葉に舞子が眉を寄せた。
「通路の入口は東京なんだけど、今回組んでた別の軍の本拠地は神奈川だった。」
「えっ!じゃあ別のやつは神奈川の部隊に任せればいいのね!良かったー!」
「とはいえ、今回明らかに厄介だったのは建物と通路だ。残りは楽だろうな。」
竜也が吐き捨てるように言った。
「ちぇっお気楽でいいわね。ムカつく。」
変わり身が早いわね。聞いてると少し面白いけど。
「まあなんにせよ、人は減ってるし被害もでかい。またしばらく第1と第3は動かせねぇな。」
「そろそろ蓮にしばかれそうだ…」
「俺がなんだって?」
竜也の言葉と同時に第2部隊隊長の蓮が入って来た。
「随分なさまだな。俺たちは何回連続で行けばいいんだ?」
「蓮…悪いと思ってる。」
「勇が逝ったらしいな。死んだ顔した翔とさっきすれ違ったぞ。怪我の手当よりメンタルケアが先なんじゃねぇか?」
―――核心をついてるわね
「でも体も大事よ。メンタルは少しずつね。」
私が言い終わると同時に、部屋の外から大きな声が聞こえた。
「蓮さーん。洗濯機終わりましたよーー!」
「今行く!じゃあな。とっとと怪我治せよ。」
そう言うと蓮は消えていった。
「そういえば、あんたたちが来る前、地面から槍が出てきたのよ。変な予想当てないで欲しいわ。」
「予想?」
私が疑問に思って聞いてみた。
「前の会議で建物の仕掛けで何があるかって聞いて、思いついたのをみんなが言ってたんだ。そのうちの一個が壁から槍が出てくる。」
龍が人差し指を頭に当てた。
「壁よりは地面のがマシだったな。」
「あとは酸が降ってくるとか毒が撒かれるとか。」
「やだ、物騒!」
―――この子達ほんとに闇に染まってきたわ
「まあ対策は大事だから…」
伊代の言葉に半分納得しながらも、やはり怖いものは怖かった。




