第四十四話 最恐の救世主
『ごめん。お待たせ。』
『全員生きてっか?』
聞きなれた声がした。俺たちの耳にしか聞こえない。おそらく敵はまだ後ろにいる最恐の影に気づいていなかった。
『おっそいわよ、二人とも!二時間も早く出てたのに!』
『悪い。意外と長かった。とりあえず、俺たちが斬りかかると同時に銃で撃ってくれ。』
『了解。中距離総員、構えて。』
『…行くぞ!』
その言葉と同時に銃声と向こうから呻き声がした。次々と倒れる音が聞こえる。呻き声も徐々に小さくなっていく。
『龍さん、伊代さん!敵の最前線より前に出るな!』
『了解。』
俺の隣で翔が叫んでいた。さっきよりも目がしっかりしている。
『銃撃ストップ!』
舞子の声で辺りは静まり返った。体を引きずり、穴から顔を出すと、そこには二つの影以外何も立っていなかった。地面は赤く染まり、そこかしこに武器や人が倒れている。
『すげぇぇ!かっけぇぇぇ!』
陽も別の穴から顔を出し、叫んだ。すると、辺りが一面地下とは思えないほど明るくなった。
―――眩しい…
『敵のとこに照明があった。穴から出れるやつは出ろ。出れないやつは今から俺たちが引っ張り出す。』
龍の指示で、動ける者は徐々に出てきた。俺も何とか這い出る。
『その先地雷あります。』
隣で翔が言った。俺からは顔は見えない。さっきの言葉は混乱で絞り出した唯一の言葉だろう。今は声はいつも通りに戻っていた。
『こっち側にうっすら地面に線が引いてあるのはそのためか。』
『地雷…じゃあそこで倒れているのはそれのせいね。』
地雷に近いところで数名倒れているものを見て伊代が言った。翔の息が一瞬止まった気がする。
『竜兄生きてる?』
『一応な…お前らピンピンしやがって…』
『これでも疲れてる方だけどな。』
たしかに普段よりは龍も疲れていそうだが、それでも俺たちよりは元気だ。
『龍、壁側に少しだけ線が引いてある。』
『ほんとだ。ここ通れるな。』
伊代と龍はなんともないような顔をしてこちら側へ渡った。俺たちはそれがいかに異常なことかを知っている。二人は怪我人を穴から引っ張り出し、辺りを見渡した。
『酷いな。』
『ほんとにね。これだけでも生きてるのが奇跡だわ。』
舞子が俺を立たせながら言った。俺たちは部隊を引き連れ、来た道を戻っていく。翔の姿が見えない。後ろを振り返ると、地面が赤く染っているところの手前で突っ立っていた。
尊敬してた。普段はあんなでも、戦闘では負けるところなんて見たことがなかった。俺はずっとあの人の背中を追っていたかった。
ーーー顔がない
おそらく、爆発と同時にマスクも壊れたんだ。何回か続いた爆発はそのせいだろう。今度は視界は歪まなかった。ただ、心に穴が空いたような気がした。
『翔、こっち来い。』
竜也さんがこっちを見ている。舞子さんもおいでと手招きをしていた。俺は落ちていたあの人の槍を拾い、二人の方へ歩いて行った。




