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神縛のカラス  作者: 銀鮭
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第四十話 蒼い目

この前破壊した扉は、そのまま口を開けていた。中は暗く、妙に静かだ。空気が重い。

『地下三階まで一気に行くぞ!』

今回は竜也隊長と同じ班だ。舞子さんもいる。階段を下りていくと、地下一階までは拍子抜けするほど何もない。

『誰もいないな。』

『怖いわね。竜也、ちゃんと前見なさいよ。』

『見てる。音も聞いてる。…!足音だ!敵が上がってきたぞ!全員、気を抜くなよ!』

地下二階。湿った足音が混じる。低い声も聞こえた。俺は無意識に、陽と蒼の位置を確認する。刀に手が食い込んだ。

―――俺が、二人を守る。

「カラスだぁぁ!」 「やれぇ!」

敵が階段から溢れ出してきた。前より明らかに多い。竜也隊長から龍さんと伊代さんが反対の通路は先に塞ぎに行ってるとは聞いたけど、

―――もっと前から待ち伏せされてたのか

狭い通路で銃声と刃がぶつかる金属音が耳を叩く。

先頭の竜也隊長に続いて、俺たちも刀を振った。倒しても、倒しても、また来る。床が、壁が、じわじわと赤くなっていった。

『陽、平気か?!』

『ははっ!まだまだだ!』

『蒼!?』

『大丈夫…!』

陽は踏ん張っている。しかし、蒼の動きが少し鈍い気がした。

『下へ行くぞ!班ごとに固まれ!一人になるなよ!』

竜也隊長の声と同時に、階段へなだれ込む。下は薄暗く、やけに広い空間だった。そこに敵が虫のようにいる。

―――多い

考えるより早く、身体が動く。すると、後方で大きな鈍い音がした。

『隊長!後ろが――』

俺が振り返る前に、階段が閉じられた。竜也隊長は階段を一瞬見ると、即座に前へ向き直った。

『構うな!前だけ見ろ!来るぞ!』

「撃てぇ!」

銃声が炸裂する。誰かが呻き、誰かが倒れる。

『蒼っ!』

陽の声で後ろを振り返った。蒼の腕が赤い。ほんの一部。それでも、目が離せなかった。

『大丈夫。かすっただけ……』

確かにかすっただけだ。それでも胸の奥が、嫌な音を立てる。壁の反対側からも銃声が響いた。一瞬、血の気が引く。

『大丈夫だ!うちの銃だ!』

竜也隊長が笑いながら言った。それを聞いてわずかに呼吸が戻る。目の前の敵に剣を振り続けた。突然、目の端で何かが倒れ、刀が俺の足元に滑ってきた。

―――蒼の刀だ

『蒼…!立て!』

倒れた蒼に敵が襲いかかる。俺の鼓動は早くなり、敵の背中を刺していた。そこへ次々と敵が来る。蒼の呼吸は浅く音を立てて、立ち上がらせない。俺と陽が必死で守って、押されそうになった次の瞬間、壁が轟音を立てて崩れた。

『ハンマーいいねぇ!ほらほらぁっ!行くよ!』

舞子さんたちが割り込み、正確に弾を撃ち込む。全員揃うと、たちまち広間の虫は床に倒れていき、広間は一気に静かになった。蒼に手を貸し、起き上がらせる。

『ごめん…さっきの傷で刀が強く握れなくて…』

『腕のとこ、いったん止血しよう。』

大きな傷はない。けど、目が虚ろだ。呼吸もさっきよりも早い気がする。

―――さっき倒れたのは…

そこで考えるのをやめた。蒼の腕の傷からじんわりと血が出ている。

―――この程度では帰らせてはくれない

『通路が二つに別れてる。部隊を分けるぞ!Aは右、Bは左だ。』

それぞれの班に分かれ、俺たちは竜也隊長に続き小さな部屋へ向かった。敵に比べて部隊の人数が少ない。俺たちは部屋の敵を倒すので手一杯だ。別のところからも銃声が鳴り響く。

『陽っ!』

蒼の声が一瞬で耳を貫いた。陽がよろめいているところに敵が一人、飛びかかっている。

『ふんっ!』

陽が体勢を立て直し、剣を振った。一瞬の安堵。だが、大きな影が二つ再び陽に襲いかかった。俺の心臓が跳ねる。

―――間に合わない…!

時間が異様に遅く流れるように感じる。そのとき、蒼が飛び出した。陽と敵の間に身体を投げ出す。蒼は剣を構える間もなく、腹部を切り裂かれた。

『蒼っっ!!』

陽の叫び声が耳に突き刺さる。床に血が広がっていく。俺は二人の敵に向かって剣を振り倒したが、蒼の姿が視界に焼きつき、手の震えが止まらない。蒼はゆっくり膝をつき、倒れ込んだ。その身体に、陽がすがるように手を添える。

『しっかりしろ、蒼!今手当てを…!』

陽の声が震えている。すると、大きな揺れと爆発の音ともに壁が破壊された。

『おいおい…まじかよ…』

竜也隊長が目を見開く先には大勢の影が並んでいる。敵がぞろぞろと部屋へなだれ込んできた。

『構えろ!』

竜也隊長の声が耳に鳴る。俺は蒼と破壊された壁を交互に見た。蒼の目が少し細くなる。

―――笑った…?

その瞬間、陽の腕を振り払い、破壊された壁へ蒼が走り出した。竜也隊長が一瞬蒼を見た気がするがそれ以上は見なかった。

『蒼っおいっ何してんだっ!』

『戻れっ!蒼!』

喉の奥が熱い。枯れるような叫び声が俺と陽から発せられる。周りの敵なんて見えない。何も聞こえない。俺たちは蒼にすがるように追いかけようとした。

『陽!湊!止まれ!』

竜也隊長の声で我に返る。その時、蒼と目が合った。

『二人とも…ありがとう。』

蒼の声が聞こえた気がした。蒼がマスクに手をかけている。

―――まさか…

『ダメだ!蒼…!』

俺の声はかき消され、またも爆発音が部屋に鳴り響いた。床が微かに揺れる。赤い血が俺たちの黒い服に飛ぶ。さっきまで細い目をしていた顔は跡形もなく無くなっていた。時間が止まった気がした。心臓の音が大きく聞こえる。

『嘘だ…』

『あ…蒼…』

陽と俺はどうすることもできず、ただ見つめていた。さっき蒼が走り出して行った先を。そのとき、低く重い声が耳に響いた。

『立て、お前ら!まだだ。』

竜也隊長だ。俺たちの周りにはまだ敵が残っている。悲しみも恐怖も、今は置いて戦うしかない。

蒼のおかげで部屋の敵は何とか倒すことができた。だが、この空間に残ったのは勝利の余韻ではなく、蒼のいない胸が押しつぶされるような重さだけだった。

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