3個目
「かわいい~!」
テーブルに置かれたくまのパンケーキを見つめる芽衣子の目には、ハートが散っていた。
人気のパンケーキ屋は、ほとんど予約客だけで埋まっているらしい。店員に待ち時間を聞いて帰っている人たちを何組か見た。
予約して良かった。芽衣子をがっかりさせずに済んだ。
「食べるのもったいないよう~!」
「でも、くまもおいしい内に食べてほしいと思うよ」
「うう……ごめんね、くまちゃん……」
さんざん写真を撮ったあとで、芽衣子はやっとナイフを入れた。
それを口に運ぶと、幸せそうに顔がとろけた。
ぼくはおいしそうに食べる芽衣子が大好きだから、芽衣子がダイエットを口にしそうになると毎回話題を変えている。
本当に芽衣子がやりたいと言ったら止めることはできないけど、それで芽衣子が甘いものを我慢することになったら、やっぱり手放しで賛成はしづらい。
「おいしそうだね」
「うん。優斗も食べる?」
「じゃあ、ひと口もらおうかな」
ぼくも甘いものは嫌いじゃない。芽衣子はシェアするのが好きだから、こうして分けてもらうこともよくある。おいしい、という体験を共有したいみたいだ。
ぼくはカップのゼリーを頼んでいたので、お皿に置いてもらおうとカップをどけようとすると。
「あのね。やってみたかったこと、3つめ、いい?」
「え? うん、もちろんいいよ」
なんだろう。今このタイミングで、やりたいことって。
「あ、あーん」
芽衣子が、パンケーキを刺したフォークを、ぼくの方へ差し出した。
さすがに驚いて、ちょっと目を丸くする。
赤い顔でフォークを差し出す芽衣子はすごくかわいくて、ずっと眺めていたいけど、このままだとぼくが嫌がっていると思われてしまうので。
ぼくは努めて平静を装って、パンケーキを口にした。
「お、おいしい?」
「うん。すごく。めちゃくちゃ」
前のめりに返事をしたぼくに、芽衣子がはにかむ。
このパンケーキの味を、ぼくは、一生忘れない。




