9話
翌日。
午前はいつも通りに過ごし、午後はもう欠損部位を抱えた軍人はいないだろうと思ってツィエラとベロニカを連れてジムに行くと、何故かジムの人口密度が上がっていた。
それもどことなく華やかになっている。ジムなのに。汗水流してトレーニングする派と華やかに過ごしている派で別れている。どうして?
まあそんなことは気にしても仕方がないのでジムに入ると、一斉に視線がこちらに向く。どうして、というかそろそろ慣れろよ。
そんなことを思いながらトレーニングの予定を変更して今日は下半身を鍛えることにした。前回の筋肉痛が治ってしまったのだ。主に欠損部位を抱えた軍人どものせいでジムに行けていなかったから。
そしてまたバーベルスクワットをしていると、
「今日はやけに人が多いですわね、何か知っていまして? ツィエラ」
「私は何も知らないわ。ただここ最近のジムの人口の多さは異常よ」
「確かにそうでしたが、今日はことさら多いじゃありませんの。しかもトレーニングをするわけでもなく、ただ殿方を眺めてばかり。護衛も苦労しそうですわね」
「そうね、最悪ジムは諦めてもらうつもりよ」
「それが賢明ですわ。もともと男性が女の園に入り込むのがおかしいのですから」
そう言ってシャリエッタがツィエラに話しかけていた。しかしそうか、今回は場合によってはジム中止になる可能性があるのか。できるだけあの女性たちとは関わりたくないけれど、ジムでトレーニングはしておきたい。が、2人の苦労を考えると早めに帰った方がいいんだろうな……。
取り敢えずバーベルスクワットは終了したしあとは下半身のマシントレーニングを──と思ったがマシンの辺りに変な奴らが湧いてるから今日はもう帰ろう。
「ツィエラ、ベロニカ、なんか嫌な予感がするから今日はもう帰ろう」
「了解」
「分かりました!」
こうして俺たちは居場所がばれないように自室へと帰るのだった。
そして自室で、
「あー、今日のあれ何?」
「間違いなく機能の欠損部位の治療による弊害でしょうね」
「弊害?」
「貴方が女性を怖がらずに1人残らず治療したからよ。そのせいで回復魔法の腕は要塞で1番良くて、エーテルの保有量も多いことがばれた。そして若くて女性に怯えない。どこからどう見ても優良物件に見えるでしょ」
「そんなこと考えもしなかったよ」
まさか昨日の一件でこんなことになるとは。治療して終わりとはならないなんて不思議な世界だな、ほんと。しかしこれでもうジムは使えないな。午後の暇つぶしはまた別で考えないと。
「ツィエラ、今度ボードゲーム持ってきてくれよ」
「もうジムはいいの?」
「あんな状態なら使えないだろ、あれは流石に諦める」
「分かったわ、明日ボードゲーム持ってくるわ」
「頼んだ」
こうして最後の頼みの綱であるボードゲームに頼ることにした。もちろん遊ぶときはツィエラかベロニカを誘う予定。流石に1人で遊ぶなんて高度な真似は俺にはできない。
取り敢えずベッドの上でジムでできなかったストレッチをする。ストレッチは入念にやっておかないと怪我のもとだからな。
「ベロニカ、背中押してくれ」
「はいはい!」
ベロニカに背中を押してもらって脚を広げて前屈をする。その時ベロニカが手で押すのではなく体を押し付けて全体重を乗せてきたのでいつもより体が沈んでいく。
「アルス様って本当に女性からの接触に強いですよねー」
「そうか?」
「普通ストレッチの相手に女性を選んだりしませんし、今みたいに女性に密着されてると男性は嫌がるものだと報告が上がってますけど」
「知らない相手なら流石に嫌だがベロニカは知ってる相手だから嫌じゃないぞ。それに胸の感触も悪くない」
「そういうものですか」
「そういうものだ」
そのままストレッチを続け、しばらくしてからストレッチを終える。
そしていつものように雑談をして過ごし、今日も平和に1日が終わった。
それから1週間後。
この1週間の間、午前は統合語の勉強のラストスパートをかけ、午後はツィエラたちが持ち寄ってくれたボードゲームで遊んで時間を潰していた。こちらのボードゲームの中には帝国時代のものもあって、懐かしさに浸りながら遊ぶこともできた。
それと俺の杖が完成したらしい。今フィオーネが取りに行ってくれてるから帰ってきたら試し撃ちをしてみようと思う。
そして明後日が退院予定日だ。明後日から俺は用意されているらしい邸宅に移動することになり、そこで男性保護法のもと安全に暮らすことになるらしい。週に1回の精子提供で済むのだから楽といえば楽なのだろうが……。というかジムでストレッチをする時にベロニカがくっついてくる時の感触を思い出すだけで毎日精子提供できそうなレベルで今はもう元気なんだが。
そんなことを考えていたらドアがノックされてフィオーネが荷物を持って帰ってくる。
「研究開発課から杖を受取ってきました」
「ありがとう、さっそく見せてくれ」
そう言うとフィオーネが杖を入れたケースを開けてくれて、収められている杖が露わになる。俺の身長ほどある長さに持ちやすそうに設計されている杖だな。先端は半月型になっていて、その中心に真エーテル鉱石が研磨されて丸くなって収まっている。
手に取ってみると、思っていたよりも軽く、振ってみても壊れる気配はない。ちゃんと耐久性も考慮してくれたみたいだ。デザインもいい。これは思っていたよりいい仕事をしてくれたな。
「研究開発課にお礼とかしたほうがいいかな?」
「いえ、彼らは彼らでエーテル鉱石の欠片を集めてるでしょうから、それで十分だと思います」
「結構こざかしいことしてるんだな……。明日この杖の耐久テストをしよう」
「かしこまりました。訓練室を抑えておきます」
「ありがとう、よろしく頼む」
こうして新たな杖が完成して俺の狙撃兵としての復活の時が近くなるのだろう。多分。いや、男で回復魔法を使える時点でやっぱり衛生兵に回されるんだろうか? というかこっちの軍とやらに衛生兵とかあるのか?
そんなことを考えていると、夕食の時間になったらしく、夕食が運ばれてきた。初日はお粥だったのに今ではどこぞの高級レストランかと見紛うほどに豪華な食事が出てくるようになっている。今日は牛肉のステーキだ。どこで牛肉を調達してるんだろうな。これもこの要塞に来てからの不思議なことの1つだ。退院したら街を回って色々見てみようと思う。
そして翌日。
今はもうペラペラと話せるようになった統合語を使いながらフィオーネと雑談をしている。フィオーネは最初はちょっと固めなお姉さんといった感じだったが、歳は17らしく、封印されていた時間を除けば俺の1つ年上になる。それを知ってからは少しずつ打ち解けていき、ある意味一番会話をしている人物でもある。
「フィオーネって俺以外の男性は見たことある?」
「いえ、ありませんね」
「俺以外の男ってどんな姿してるんだろう、ちょっと気になるな」
「男性の使用人をしている知人がいるのですが、あまりいい人とは言い難いそうですよ。女性を怖がって使用人すら遠ざけるくらいですから」
「なんでそんなに怖がるのかねえ」
ほんと、俺が封印されている間に何があったんだか。
それから昼食を食べて、午後。ついに杖の耐久テストをしに再び訓練場へ行く。
「アルス様! 像出しますよー」
「ああ、頼む!」
ベロニカにまたヘヴィメタル製のモンストルムを模した像を出してもらい、新しい杖を構える。
そして初っ端から体から漏れている余剰分のエーテルの3割を流し込んでみた。そしてエーテル弾として射出すると……像に穴が開いた。だがまだ貫通はしていない。壊していないのだからセーフだろう。
だがこの結果にツィエラやベロニカ、フィオーネは驚いている。しかしせっかく自家製エーテル鉱石を使って作った杖なんだ、もっと試したい。次は体から漏れている余剰分のエーテルを5割流し込んでエーテル弾を発射する。すると像に当たった瞬間大爆発を起こし、周囲が土煙で覆われる。エーテル2割の差でこんなに違いがでるのか……なんて思いながら土煙が晴れるのを待っていると、土煙が晴れた場所には頭部が消し飛んでいる像が鎮座していた。
「ツィエラ、これって備品破壊とかで怒られるかな?」
「いえ、男性だから貴方は怒られないでしょうね」
「俺は? ということはツィエラたちは?」
「怒られる可能性が高いわね……そもそもヘヴィメタル製だからこんな壊れ方は想定されていないはず。多分どうやって破壊したかも聞かれるわね……」
「その時は素直に俺がやったって言えばいいよ。実際に破壊したのは俺なんだし」
そのヘヴィメタルとやらは随分と頑丈な金属として認識されているらしい。ならその金属で武器を作ったらどうだと思ったが、重くて武器にすると扱えないらしい。それで結局エーテルに頼った武器になっているのだとか。
しかしまさかただのエーテル弾でこれとはな。まだ散弾とか砲撃も試したかったんだけど、もう無茶はできなさそうだ。
明日の退院前に余計なことをしてしまったな。後悔はしてないけど。
そして壊れた像を定位置に戻してから俺たちは訓練室を出る。そのまま俺の部屋に戻り、気になったことを聞くことにした。
「ツィエラたちの武器って軍の標準装備なんだろ? エーテルの流し過ぎでエーテル鉱石が壊れたりはしないの?」
「たまにそういうこともあるけど、基本的にはないわね」
「私は1回だけありますよ! 砲撃するためにエーテルを溜め続けてたらエーテル鉱石が割れてしまって……あの時は死ぬかと思いました」
「そういえばそんなこともあったわね……」
「結構危ない武器使ってるんだな……」
今度エーテル鉱石作って武器製作に使わせてあげようと決めた瞬間だった。




