4話
研究所の外に出ると、そこはまるで森のように木々が自由に生えている場所だった。俺はこんなところに誘拐されていたのか。
そして2人は俺を支えながら1台のサイドカー付きの自動二輪のもとへ行き、俺をサイドカーに乗せてから二人は自動二輪に2人乗りして移動を始めた。
「どこに行くんだ?」
「私たちの拠点、エイト・クエレーレ・カスタルム、よ」
クエレーレ・カスタルム、ということは探索要塞か。そこも帝国語が使われている。なんというか帝国語と知らない言語が混ざっている感じだな。ということは帝国語を話す人間ももしかしたらまだいるのかもしれない。
そう思うと少しだけ希望を持てた。もし帝国語を話す人がいたら現状を聞こう。でないと現状が分からなさ過ぎてどうしようもない。
それからしばらくの間自動二輪で森にできた道を走り、森を抜けると一気に見晴らしの良い丘に出た。その下には海面に浮かぶ要塞があった。しかもかなり大きい。帝都くらいの大きさがあるんじゃないのか? そう思わせるほどに大きな要塞だった。その要塞に向かって自動二輪は走っている。
ほどなくしてエイト・クエレーレ・カスタルムに到着した。そこでツィエラが耳に着けているイヤリングで誰かと話している。エーテルを使った魔道具だろうか? だが通信に使える魔道具は貴重だったはず。こんな子供に持たせていいものなのか?
それからエイト・クエレーレ・カスタルムに入ると、中は非常に文化的だった。というよりアルザス帝国の帝都より栄えていた。どこを見ても人の笑顔が多く、しかも美人が多い。代わりに男がまったくと言っていいほどにいない。どうしてだ?
なんて考えていると、自動二輪が止まって2人が降りる。そしてこちらに寄ってきて、
「今から、遭難民、の受け入れのための、メディカルチェック、とアビリティ検査、をするわ。もう少しだけ、頑張って」
そう言われて俺は2人に再び両肩を支えられながら歩き始める。そのせいかかなり注目を浴びている。まあこれだけの美少女に肩を支えられていたら注目も集めてしまうのは仕方ないか。
そして俺たちは何でできているのか分からない無機質な物質でできている建物に入り、中で昇降機に乗り、上の階へ行ってある部屋に入る。そこには白衣を着た研究者たちがいて、2人が事情を説明しているらしい。その事情を聞いてから何人かに声を掛けて、また通信機のようなものでどこかと連絡をとっている。
それからしばらくすると、また別の女性がやってきて、ツィエラとベロニカ、そして白衣を着た研究者と話をしている。そして話がまとまったのか俺の方を向き、
「初めまして、私はフィデス・ガートナーだ」
「初めまして、アルスだ。貴方は帝国語を話せるのか?」
「この言語は帝国語ではなく古代語だ。君はそれを知らずに話しているのか?」
やっぱり帝国語を話している。しかも結構流暢だ。だが帝国語ではなく古代語と言われているあたりもう使われていない言語なのかもしれないな。
「そうだ、俺の生きていた時代、というか俺にとっては昨日まではこの言語が主に使われていた」
「この言語はかなり前の言語でね、研究対象として文献の研究のために勉強したり、一応古代語という科目で学園で学ぶ程度のものだから今はもう主流ではないよ」
「今の主流の言語はなんだ?」
「今は統合語が話されている」
「統合語?」
「ああ、人類が力を合わせてモンストルムに立ち向かう時、言語の壁があってはどうしても意思の疎通ができないからと言語を統一したらしい」
なるほど。それで言語が変わっているのか。だがそうしてその時に帝国語が選ばれなかった? 帝国はこの大陸でもっとも大きな国のはずなのに。
「それより、今から君は遭難民としてメディカルチェックとアビリティ検査、エーテル保有量の検査を受ける事になる。貴重な男性だから丁重に扱うが、あまり暴れないでくれたまえよ?」
「ああ、分かった」
「それと私と2人きりでは不安だろうからツィエラとベロニカも同行させる」
「それはありがたいな」
「では行こうか」
そう言ってフィデスは歩き始める。そして俺は再びツィエラとベロニカに両肩を支えてもらって歩き始める。そして昇降機に乗って地下に行き、まずはアビリティ検査をすることになった。
アビリティ検査がなんのことなのか全く分からないが、まあなるようになるだろう。
そう思って俺は気楽に検査を受けることにした。検査は1人で立って宙に浮いた検査機が体にエーテル波を当てて何かを計測しているらしい。そしてしばらくすると、検査結果が出たらしく紙に印刷されてくる。そして検査結果を見ると、アビリティは源泉と回復魔法だと言われた。アビリティとはスキルのことだったらしい。源泉は初めて見るアビリティだから効果が分からないと言われたので効果は黙っておくことにした。また実験体になんてなったらたまったものではないからな。
もう検査室から出て良いと言われたので出ようとするが、やはり体があまりいうことを聞いてくれなくて躓いてこけそうになる。しかし今度はツィエラが正面から抱き留めてくれたので冷たい床にぶつかることは無かった。
「ありがとう」
「いいのよ、これくらい」
そう言いながら再びツィエラとベロニカに支えられて検査室を移動する。次はエーテル保有量を調べるらしい。これは座ってできるそうなので椅子に座らせてもらうことにした。
そしてエーテル保有量を調べるために、俺は提出された機械装置に自身のエーテルを流し込む。すると検査室の外が少し騒がしくなり、途中で検査は中止となった。
検査室を出ると、検査結果はエーテル量は測定不能、エーテルの質は古代の真エーテルと同等と言われた。
「真エーテルって何?」
「古代の時代に使われていたエーテルのことよ。現代のエーテルよりもずっと純度が高くて質がいいの。貴方のエーテルはその真エーテルそのものといっていいほどに質がいいわ。まあそれはいいとして、最後にメディカルチェックね。移動しましょう」
そう言われてまた2人に支えてもらって移動し、メディカルチェックを受けるため寝台に寝ころぶ。そして検査をした結果。
「極度の栄養失調、水分不足、運動不足。貴方、意外と瀕死だったのね」
どうやら俺は瀕死状態だったらしい。自分では全く気が付かなかったがまさか瀕死だったとは……。
それから俺は入院が決まった。それも何故かかなり警備が厳重な場所での入院となった。かなり高い階層の個室をあてがわれ、そこで寝かされてからフィデスとの話を再開する。
「俺ってどのくらい入院するの?」
「それは貴方が健康になるまでね。すくなくとも1週間は入院、体調回復後のことも考えると一応1ヶ月は入院していてほしいかしら。貴方は今の世界では貴重すぎるから念には念を入れておきたいの」
「俺が貴重すぎる? どういうこと?」
「この世界、というよりこの要塞に住む人たちは見たかしら?」
「ああ、見た。というか女性ばかりだった」
「そうよ。現代の人間はほとんどが女性なの。古代文明時代に何かあったらしくてね、男性が一気に死んでしまったそうよ。それから男性が生まれにくい世界になってしまった。今では男女比が1:2000という状況で、このエイト・クエレーレ・カスタルムにはおよそ10万人の人間が暮らしているけれど、男性はわずか397人よ」
男女比が1:2000? どういうことだ? 俺が封印されてから時代の変化が激しすぎてついていけない。まさか男性が滅びかけている? だとしたら子供が生まれないから女性も滅びに向かう。そうなると人類は滅ぶんじゃないのか? むしろ今までよく持ちこたえてきたな。
「それから男性は基本保護対象となっているわ。男性優遇制度もあって、男性は衣食住を無償で提供されるわ。その代わりに人類が絶滅しないために週に1度の精子提供が義務付けられているの。精子提供でなくても直接誰かと性行為をしてもいいわ」
「それって男性家畜化計画とかの間違いじゃなくて?」
「ええ、人類の絶滅を防ぐための男性保護よ。決して家畜だなんて思っていないわ。むしろ男性の精子提供を受けれる女性は抽選申し込みで決まるから倍率もすごく高いのよ? そして男性と結婚できる女性はさらに少ない。現在は一夫多妻制を敷いているけれど、男性が女性を怖がるせいでそれも上手くいっていないわ」
「男性が女性を怖がる? どうして?」
「女性は男性との関わりを持つことをステータスとして、男性と結婚するとその女性も保護対象になるわ。それで女性から男性へのアプローチが凄まじいの。それが嫌で男性は基本的に割り当てられた部屋から出てこない。というか一部の過激派の女性たちのせいで一夫多妻制策は破綻しかけてるといってもいいわ」
男性が少なくなって一夫多妻制になったのに男性が女性を怖がって結婚ができない。そして精子提供というやり方で人口を維持しているらしいがこれもまた難儀なものだな。精子提供が抽選で倍率がすごく高いということはとにかく子供が欲しいという女性が多いのだろう。というか瀕死の俺も精子提供しないといけないんだろうか。
「その精子提供って瀕死の俺もしないといけないの?」
「貴方は瀕死だからまだしなくても大丈夫よ。ただ、健康になってこのエイト・クエレーレ・カスタルムに住むのなら男性保護法によって保護されるかわりに精子提供はしてもらうことになるわね。もちろん気に入った女性がいたらその子に直接子種を仕込んでもいいわ。その場合は報告してもらうことになるけど。どのみち人口を減らさないために週に1度の義務は果たしてもらう必要があるわ」
「そうか、まあ健康体になれそうなら考えるよ」
「ええ、そうしてちょうだい。そして貴方が貴重すぎるという他の理由は貴方自身のエーテルの質が古代の真エーテルと全く同じというところと回復魔法という貴重なアビリティを持っているからね。エーテルの質が高いのは戦闘でも研究でも役に立つし、回復魔法は使い手が少ないから軍としてはかなりありがたいわ」
軍、と今言ったな。ということはここも軍人がいるのか。兵団ではない辺り制度の違いとかもありそうだが、まあそのあたりはまた後日聞いていけばいいか。
「そういうわけだから、我々エイト・クエレーレ・カスタルムとしては貴方にはなんとしても瀕死の状態から蘇ってきて欲しいのよ」
「なるほどね。なら頑張って治療してくれ」
「ええ、そうするわ。それと貴方の個室には護衛がつきます。できるだけランクの高い小隊をつけるけど、それでいいかしら?」
「知らない人に護衛されるより知っている人に護衛されたいんだけど、ツィエラとベロニカって軍人?」
「ええ、軍人よ。ただ小隊としてのランクは低いわ」
「ランクは低くて構わないからツィエラとベロニカのいる小隊で頼みたい」
「分かったわ」
こうして俺の入院生活が始まった。




