28話
翌日、再び昨日と同じ場所へモンストルムを全滅させるために進軍する。
そして攻撃開始時刻、10時。
「総員突撃!」
再び昨日と同じように突撃命令がでた。そして俺は聖域結界を張る。周囲にはE11小隊に守ってもらい、昨日と同じ展開が広がっていく。
そして各小隊がモンストルムを確実に討伐していき、少しずつ時間が経っていく。どの小隊も今日で最後の戦闘になることは分かっているからやる気が漲っているのだろう。昨日より仄かに動きが良いように見える。
だが戦況はまだ膠着状態だ。モンストルムは岩山の奥からどんどんやってきているから討伐してもキリが無い。だが討伐しなければ死ぬのだから各小隊は必死に戦っている。
そんな時だった。遠い空から何かがこちらに向かって飛んでくる。空を飛ぶもの? そんなもの、タイプ・ワイバーン以外にありえない。戦火を交えているのを聞きつけたのか、聖域結界の魔法陣を見てやってきたのか。なんにせよ面倒なモンストルムがやってきた。
「ツィエラ、タイプ・ワイバーンの迎撃ってどうやってるの?」
「基本は砲撃や狙撃ができる軍人が地上に落としてから討伐するけど、この状況じゃ厳しいわね……」
「聖域結界といて狙撃するか?」
「それは駄目よ、大なり小なり怪我をしている軍人はいるんだからアルス様はアルス様の仕事をしてて。タイプ・ワイバーンの攻撃は私たちでなんとかするから」
そう言ってツィエラたちはタイプ・ワイバーンが飛んでいる方向へ武器を構える。
「とりあえず砲撃で撃ち落としますね!」
そう言ってベロニカが砲撃銃でタイプ・ワイバーンを撃ち落とす。が、相手の数が多くて数体撃ち落としてもまだ空を飛んでいる個体の方が多い。
「どんどんいきますよ!」
ベロニカが撃ち落とし、ツィエラ、フィオーネ、グリューエルの3人で近くに落ちたタイプ・ワイバーンを討伐していく。その間俺は無防備になるが、これはもう仕方ないだろう。確実にタイプ・ワイバーンを討伐してすぐに俺の護衛に戻ってくるE11小隊。それに気付いてミランダ大佐の小隊もタイプ・ワイバーンを討伐に参加してくれるようになったのでタイプ・ワイバーンの対処はこれでなんとかなるだろう。
それからしばらくタイプ・ワイバーンの討伐に駆り出されたE11小隊だったが、無事に被害を出すことなくすべて討伐することができた。が、流石にタイプ・ワイバーンを相手にしてエーテルの温存はできなかったらしい。
「アルス様、エーテルの回復させてもらってもいい?」
「ああ、好きなだけ回復していってくれ」
こうしてE11小隊の面々のエーテルを回復させて万全の状態で再び俺の護衛に戻ってもらう。
そしてタイプ・ワイバーンの襲来で見ている余裕が無かったが、他の小隊たちの戦いはどうだと思って見てみると、意外と善戦している。今のところ前線が崩れた場所はないみたいだ。
それからしばらくはまた戦況は膠着してしまう。このままなんとかモンストルムの全滅までいけるか、なんて思った時だった。
「ツィエラ、こっちの前線が崩れたよ!」
「全員モンストルムの迎撃態勢! アルス様に近づけさせないで!」
左側の端で戦っていた小隊の前線が崩れた。というよりモンストルムがそこに集中したせいで守備範囲が広がって抑え込めなくなったと言う感じだな。
そこから陣形の中に入り込んだモンストルムをベロニカが砲撃で1撃必殺を決める。特にタイプ・スライムなんて近距離型にとっては天敵のような存在だから積極的に砲撃している。
そしてフィオーネも雷をまとった鞭でタイプ・オーガの首を刎ねたりして即座に討伐を決めている。それに続いてタイプ・スパイダーの脚をツィエラとグリューエルで斬り落とし、頭を斬って討伐。それぞれが自分の役割をしっかりと理解しているからこそできる行動だろう。だがモンストルムはまだまだこちらに向かってきている。これは一昨日の戦いより厳しくなりそうだ。
それから何度も砲撃をしている内にベロニカのエーテルが枯渇し始めたのだろう。攻撃頻度が少なくなり、1撃に掛ける時間が増えている。
と思っていたらやっぱりエーテルが枯渇していたようで、俺のもとに回復にくる。
「アルス様、エーテルの回復をお願いします!」
「好きなだけどーぞ」
「じゃあ遠慮なく!」
そう言ってベロニカが背中越しに抱き着いてくる。まあ肉体のくっついている面積が多いほどエーテルの回復も早いからいいんだけど、背中に2つの柔らかいものが当たっている……。これはわざとか? 相手がベロニカだからそこの判断に迷うな……まあ嬉しいことに変わりはないから大歓迎だが。
「それじゃあエーテルが全回復したので戦線に戻ります!」
そう言ってベロニカは俺から離れていった。そして再び砲撃銃でモンストルムを葬っている。戦線が崩れた小隊のもとにはミランダ大佐の小隊が向かって戦線を押し戻そうとしている。このままいけばまた戦線は元通りになるんだろう。
なんて思っていた時だった。今度は中央がモンストルムによって戦線が崩壊させられた。見ると軍人たちは大怪我をしているわけではないが、タイプ・スライムを先頭にしてタイプ・オーガが多く攻めてきたせいで対処しきれなかったのだろう。
そのままタイプ・スライムとタイプ・オーガがこちらにやってくる。だがツィエラたちは左側の突破されたモンストルムの討伐で手一杯だ。このままだと俺がやられる。だが聖域結界を解いたら軍人たちの回復手段が無くなってしまう。
さて、どうする? 聖域結界を破棄して砲撃して自衛するか、このまま聖域結界を維持して死ぬのを待つか。いや、俺はまだ死にたくないからここは自衛だな。
そう決めて俺は聖域結界を解く。その瞬間、天と地から回復魔法の魔法陣が消える。そして杖を構えて、俺めがけてやって来るモンストルムに向けて、
「エーテル弾、多重展開」
一気にエーテル弾を無数に展開して発射していく。確実に1撃で仕留めるために1発に込めるエーテル量は多めにしておく。タイプ・スライムはそれだけで全身を飲み込まれて砲撃の中で消えていく。タイプ・オーガも上半身を消し飛ばされて瘴気となって消えていく。
だがそれでもまだ中央の戦線は崩れたままだ。というか立て直せる様子がない。
これはしばらく聖域結界を展開することはできそうにないな。とりあえず俺は中央からやってくるモンストルムの討伐をするか。
そのままこちらにやってくるモンストルムを砲撃1発で仕留めていく。だがいつまでも開いた穴を塞がずにいるのも問題だな。左端の戦線はそろそろ立て直してもいい頃合いだと思おうが、ミランダ大佐の小隊でも手こずっているのか? 早く中央の小隊を助けてほしいんだが。
おそらくミランダ大佐ももう聖域結界を解いたことには気付いているはず。つまり陣形の中央が攻め込まれていることには気付いているはずだ。そのうち援軍としてやってくるだろう。だから今は俺が中央からやってくる敵を全てなぎ倒す!
タイプ・スパイダーを砲撃で頭から胴体まで消し飛ばし、タイプ・ゴブリンはそのままエーテル弾の砲撃に呑み込まれて消滅していく。正直戦闘はいつまででも続けられるがそれだと傷ついていく軍人たちを癒すことができない。おそらく今もなお戦って傷を負っている軍人は多いはずだ。中には欠損部位を抱えている軍人も出てきているかもしれない。そう考えるとこの戦線を早く立て直したいが、あまりにもモンストルムの数が多くて俺も近づいてくるモンストルムの処理で手一杯だ。
そんな時、今度は右端の戦線が崩壊した。そちらからもモンストルムが雪崩れ込んでくる。横目で右端の小隊を確認するが、シャリエッタの小隊だ。どうやらエーテルの限界を迎えたらしい。なんとかしてやりたいがこちらはそれ以上に忙しい。なにせ3方面からのモンストルムの襲撃に対処しているのだから。
しかし今から中央と右側のモンストルムを相手取るのか。砲撃の多重展開はまだ数を増やせるからいいとして、このままだと軍の壊滅もありえるんじゃないか?
ミランダ大佐がその辺りをどう考えているのか知らないが戦況は確実に悪くなっている。
「アルス様! お怪我は⁉」
「ないよ、でもちょっと不味いことになった。中央と右端が戦線崩壊してる」
「これは、不味い状況ですね……」
「だよねえ、取り敢えずフィオーネはエーテルの回復をして左側のモンストルムを頼むよ。中央と右側は俺がなんとかするから」
「分かりました。御武運を」
フィオーネがエーテルの補充に来て回復してから戦線に戻っていく。そして俺は中央と右側のモンストルムを討伐していくが、右端も戦線が立て直される気配はない。完全にエーテル切れだな。さて、そうなってしまったら人間は無力だからどうにかしなければシャリエッタたちが死ぬことになる。ツィエラの知り合いが死ぬのは可哀そうなのでシャリエッタたちの小隊に襲い掛かっているモンストルムにも砲撃を繰り出して討伐しておく。その時シャリエッタがこちらを向くが、それに返事を返している余裕はない。次は中央のモンストルムを討伐しなければ。
そうして迎撃しているうちにようやく左端の戦線が持ち直したらしい。これでE11小隊が俺のもとに戻って来れる。そして今度は右側を担当してもらうか。
そして左端の戦線から雪崩れ込んで来たモンストルムの討伐が終わったらしく、ツィエラたちが戻ってくる。
「アルス様、怪我はない?」
「ああ、今のところ大丈夫だ。ツィエラたちもエーテルを回復して今度は右側を頼む」
「了解」
そしてE11小隊はエーテルを回復してから今度は右側のモンストルムの討伐を始めた。これで俺は中央に集中できる。そしてミランダ大佐の小隊も中央に向かったらしく、なんとか戦線を持ち直す目途は立った。もう少しで聖域結界を展開できそうだ。
そして中央の戦線をミランダ大佐の小隊が一気に立て直した。ミランダ大佐も体から血を流しているが、気合いでモンストルムを討伐して中央の崩れた戦線を押し戻そうとしている。俺はそのサポートとして砲撃をしてモンストルムの討伐をしていく。そして長かった3ヵ所同時戦線崩壊は終わり、なんとか中央の戦線も持ち直すことができた。
これで残りは右端のみ。
「E11小隊に告げる! 俺は今から聖域結界を展開するから護衛は任せる!」
「「「「了解!」」」」
そして俺は再び聖域結界を展開して軍人たちの傷を癒していくのだった。
ミランダ大佐の小隊そのまま左端に走って崩れた戦線を持ち直そうとしている。しかしミランダ大佐の小隊はよくあんなに動けるな。エーテルの枯渇の心配はないんだろうか。
そして十数分くらいして左端の戦線も持ち直した。だがシャリエッタが戦線離脱している。おそらくエーテルが枯渇してもう戦力にならないのだろう。本人は悔しそうな顔をしているが、こればっかりは仕方がない。
そしてE11小隊も左端の戦線から来たモンストルムの討伐を終えて再び俺の周囲に戻ってくる。
「おかえり、戦闘経験たくさん積めてよかったな。エーテル回復しておけよ?」
「戦闘経験が積めるのはいいことだけど今日は多すぎよ。私はともかくグリューエルのエーテルがもう枯渇してて大変なんだから」
「グリューエルも早めにエーテル回復しに来たら良かったのに」
「その、前衛が抜けると不味いと思って……」
「そのために中衛の私がいるのよ。だから遠慮なんてしないで、グリューエル」
こうして再びE11小隊は俺を囲む形で護衛に戻り、他の小隊の動きを逐一見ている。次に崩壊する戦線はどこか。それをいち早く察知して俺を守るためだろう。
だがあれ以来戦線が崩壊することは無かった。無事にモンストルムの討伐を果たし、時間はかかったが少しずつモンストルムの数が減り始めた。そのまま討伐を続けていると、最後の1体を倒して戦場にモンストルムがいなくなる。
モンストルムの集団の討伐が完了したのだ。
「総員! 即時撤退用意!」
ミランダ大佐から撤退命令が出る。そのまま俺たちも聖域結界を解いて陣まで歩いて帰ることになった。
そして陣に到着後、ようやく戦闘が終わって帰って来れた安堵からか疲れが一気に押し寄せてきた。特に中央と右端の2カ所からのモンストルムの襲撃は少し肝を冷やしたな。
だが俺にはまだやるべきことがある。俺が聖域結界を展開できなかった時に怪我をした軍人たちの治療だ。おそらくそれなりに重傷者も出ているはずだからテントの前で立っていると、やはりこちらに怪我人を連れてやってくる軍人たちが多い。
さて、この従軍における最後の仕事だ。頑張りますかね。




