27話
翌日。
丸1日を休息に当てて英気を養ったので軍隊の士気は高い。
朝食を食べてから俺たちはまたモンストルムの討伐のために移動をしている。今度は一昨日のような場所ではなくてもっと奥地らしい。そして1時間以上歩いた先に、岩山となっている場所が見えてみた。そしてそこにはモンストルムの群れがいる。
あれが今日の獲物か。まあ俺がやるのは聖域結界を張って維持するだけだけど。
「総員、今回の最後の標的だ。気を引き締めていけ!」
「「「はい!」」」
「突撃時刻は10時ちょうど。今回は戦闘時間は1時間とする!」
突撃は10時から。あと5分くらいか。
「アルス様、本日も広域回復魔法をお願いします」
「分かった。ただあれを発動してる間は欠損部位の治療ができない。気を付けてくれ」
「承知いたしました」
そして5分後、10時。
「総員、突撃!」
各小隊がモンストルムの集団へ向かって攻撃を仕掛け始める。それじゃあ俺も仕事をするか。
「みんな、俺の護衛は任せたよ」
「ええ、任されたわ」
「任せてください! しっかりと守って見せますよ!」
「確実にお守りいたします」
「頑張ります」
それぞれの意気込んだ返事を聞いて満足し、
「私が祈り、私が願い、私が癒しをもたらし傷を癒す。
その結界は誰かを拒むことはなく、その結界は誰かを殺すことはなく、
人を生かし、人を癒し、人に力を与える。
祝福を。
ここに人々の癒し手が1人。汝らに快癒の力を降り注ごう。
私が天壇に願い奉る。聖域結界」
俺は聖域結界を展開する。淡い緑の光が広がり、天と地に回復魔法の魔法陣が広がっていく。これでいきなり大きな重傷者はでないだろう。だが油断は禁物だ。もしかしたらいきなり大怪我をするポンコツもいるかもしれない。
周囲を見渡してみると、一昨日と同じ光景が広がっている。俺の四方を守るようにE11小隊が立ち、そして遠くで正面に半円を描くように各小隊がモンストルムの集団と戦っている。ミランダ大佐の小隊は相変わらず遊撃として動いているらしい。そして後ろには退路を確保しておく小隊が複数隊いる。
今回のモンストルムの集団はなんというかタイプ・オーガとタイプ・スパイダーが多いな。タイプ・スパイダーは瘴気をまとった糸を吐くからあまり近接戦で戦いたくないモンストルムだろう。それにたまにだがタイプ・スライムも見受けられる。あれも近接戦で倒すのは至難の業だ。遠距離砲撃ができないと厳しいだろう。
そんな戦況分析をしながら俺は聖域結界を維持する。そして半分意識は暇で仕方ないという方面に割かれていた。聖域結界を維持するだけならわけないし、正直エーテル弾を撃って戦場に出たかった。狙撃兵としての活躍を楽しみにしていた16歳が懐かしいね。484年経った今も16歳だけど。
戦闘が始まっておよそ30分。戦況はまだ動かない。着実にモンストルムの討伐をしているらしく、戦線が崩れるようなことはないみたいだ。だがこの戦闘、あと30分で終わるのか? 一昨日よりモンストルムの数が多い気がするけど。
「ツィエラ、この戦闘って本当に1時間で終わるのか?」
「1時間経ったら撤退するから強制的に終わりよ」
「移動しながらこの結界は維持できないよ?」
「それは仕方ないわ。撤退戦に慣れている部隊で戦いながら撤退するから大丈夫よ」
「だといいんだけど」
まあ兵士にすらなれなかった俺よりミランダ大佐のほうがよほど戦場というものを知っているだろうからその辺りは任せてしまって大丈夫だろう。だがそれでも不安というものは憑きまとうものだ。上手く撤退できるか不安だな。
それから戦線が維持されたまま1時間が経過した。
「1時間が経過した! 総員、撤退しろ!」
その瞬間、全小隊が確保されていた退路を使って撤退を始めた。だがやはりモンストルムもいくらかついてきている。
「アルス様、撤退するわよ、結界を解いて!」
「分かった!」
俺は聖域結界を解いて撤退の用意をする。そしてE11小隊に守られながら撤退を始めるのだった。そのまま陣まで走り、陣に到着した小隊から順次周辺の警戒を始める。俺たちはそのまま陣の中央まで走り抜けてテントまで戻るが、テントには入らず周辺の警戒をする。撤退するにあたって多少のモンストルムを引き連れてくるのは仕方がないことだからだ。
そして最後にミランダ大佐の小隊が戻ってくる。上手く撤退できたらしい。そして撤退しながらモンストルムを討伐していたのか、ほとんど追手はいなかった。
流石に強いな、ミランダ大佐の小隊は。そんなことを思っていると、誰だか分からない小隊の人間が負傷者を連れてやってくる。
「B31小隊です! 負傷者の治療をお願いします!」
「分かった」
負傷者の傷を見るが、肩からざっくりと爪で抉られているな。欠損部位とまでは言わないが下手をすれば傷跡が残る怪我だろう。取り敢えず治療をして傷跡残らず治しておく。
「これでいいだろう。あとはゆっくり休むんだな」
「ありがとうございます」
そう言ってB31小隊の2人は礼を言って去っていった。この分だとまだ治療が必要な人間が来そうだな。
俺のエーテルに枯渇という2文字は存在しないからいくらでも治療はしてやれるが、傷の深い者から治療を進めていきたいな。
そう考えている間に全員撤退を終え、追撃もなく無事に帰還できた。そしてしばらく警戒態勢に入るが、ちらほらと血を流している軍人がいる。怪我をしているが俺に言い出せないのか?
「ねえツィエラ、もしかして怪我をしても言い出せない小隊って多いのか?」
「まあ少なくはないでしょうね。それにどの程度の怪我から治してもらえるのか今回は明確にされていないから、正直治療を頼んでいいのか分からないのよ」
「なるほどね、ならもう1度聖域結界を張るか」
「エーテルの残量は大丈夫なの?」
「ああ、問題ないよ」
そうして俺は再び聖域結界を張り、しばらくの間維持をして軍人たちの傷を癒していくことにした。そしておよそ30分後。
「全小隊、怪我人の有無を確認しろ! そして私まで小隊長が報告に来い!」
ミランダ大佐の指示で続々と各小隊長が報告にくる。そして少ししてから全小隊の安否が確認できたのか、
「アルス様、広域回復魔法はもう解いていただいて問題ありません」
「そうか、分かった」
問題ないらしいので俺は聖域結界を解く。そして自分のテントに戻るのだった。その間にミランダ大佐は各小隊長をそのまま集めて次の作戦行動について話をするらしい。
その間俺は暇になるが、今日は一昨日よりは働き甲斐があったな。
そんなことを考えながら俺は水を飲んで喉を潤す。そして今日の戦闘を振り返るが、今日は特に問題は起きなかった。だが今日1日でモンストルムを全滅させることはできなかった。流石に数が多かったな。そんな中前線で戦っている小隊の軍人たちの度胸は相当すごいのだろう。戦線が崩れなかったのも今回は大きい。てっきりまた戦線のどこかが崩れてツィエラたちが戦うものだと思っていたが、そうはならなかった。
まあ戦線を維持できなければ俺の聖域結界も維持できなくなる可能性があるからな。みんな回復しながら戦える状況をなくしたくはないのだろう。
そしてツィエラが帰ってくる。
「明日の行動が決まったわ。明日であの場のモンストルムを全滅させて明後日にエイト・クエレーレ・カスタルムに帰還することになったわ」
「明日で全滅させることができるのか?」
「明日は全滅させるために限界まで戦うことになるでしょうね……多分どこかで戦線が崩れるでしょうからまた私たちも戦うことになると思うわ」
「多方面で戦線が崩れないことを祈るしかないな」
「本当にそれだけはやめてほしいわね……」
明日で全滅させるのか。ならこの討伐作戦の日数は6日か。ギリギリだな。
そして今日は午後からは警戒は交代でするものの休息をとることになり、俺たちも順に休むのだった。




