26話
そして陣に戻ってきてそれぞれ周囲の警戒をしつつも休息をとることになった。
さらに各小隊長はミランダ大佐のもとに集められて何やら話し合いをしているみたいだ。ツィエラも行っているので今は外にフィオーネとグリューエル、テントの中にベロニカがいて俺の警護をしてくれている。
「今日の戦闘でモンストルムを全滅させたけど、もしかしてこれで任務がおわりだったりするの?」
「倒したモンストルムの数が多いですからねえ、もしかしたらそれもありえるかもしれませんけど、多分もう1戦くらいは残ってると思いますよ」
「ほう、なら次こそは俺も戦闘要員として──」
「駄目に決まってますからね、アルス様? 今日みたいになんかすごい結界を張ってみんなの傷を治療してください。というかあんなすごい回復魔法は初めて見ましたよ」
「あの回復魔法な、帝国時代に治療院っていう怪我の治療をする施設があってそこの院長が使ってた魔法なんだ。それを見様見真似でやってみたらできた」
本来ならあんな長い詠唱なんて必要ないのだろうけど、俺は院長の詠唱が好きだったからそれに倣うことにした。それにあの詠唱、結構かっこいいだろ?
それからベロニカと雑談していると、ツィエラが帰ってきた。
「お帰りツィエラ、会議はなんだって?」
「想定よりも2日早くあの場にいたモンストルムを全滅させることができただって。だから明日は休息を取って明後日にもう1ヵ所のモンストルムの集団を攻撃しに行くって」
「まだ戦場が残っていたのか、ベロニカの言った通りだったな」
「でしょう? この数の軍人を動かして1戦で終わりなんてまああり得ませんからね」
「でもその代わり今日の戦闘が長かったせいでほとんどの軍人のエーテルが枯渇しているわ。明日は周辺警護すら厳しいかもしれないわね」
まあそうだろうな。ベロニカですら2度俺からエーテルを補給しているのだ。他の後衛なんてもっと前から使い物にならなかっただろう。それかエーテル弾の威力を控えめにして消耗を抑えていたかだな。
取り敢えず今日はもう休み、そして明日も休み。明後日に再度別の場所で攻撃を仕掛ける。その時も俺は多分聖域結界を張ってるだけなんだろうな……。
「俺が戦場で戦えたらもっと楽になるだろうに」
「アルス様が戦場で結界を張ってくれるからみんな安心して戦えるんですよ」
「さっきの会議でもその話があったわ。途中から淡い緑の光がでていたがあれは何か、ってね。ミランダ大佐がアルス様の広域回復魔法と答えていたから多分次は最初からあの結界を張ることになるわね」
「せめて初撃くらいエーテル弾撃たせてほしいよ……」
「「駄目です」」
ツィエラとベロニカの2人から駄目だと言われ、俺は流石に諦めるしかないと判断した。しかしいつかは俺も戦闘要員として杖を振るいたい。そんな未来は今日の結果で遠ざかった気もするが。
しかし今日は久しぶりにエーテルを大量に使ったな。俺は源泉があるからエーテルが枯渇することなんてないし枯渇の苦しみを味わうことはないが、他の面々は今頃エーテルの枯渇で苦しんでいるのだろうか。ならいっそ俺がエーテルを回復させに回っていってもいいんだが……。
「なあツィエラ」
「どうしたの?」
「暇だからエーテルが枯渇してる軍人にエーテルを回復させに行くのってどう?」
「暇だからってやる事じゃないと思うけど、それをすると明日モンストルムの討伐をすることになるかも」
「なら可哀想だけどエーテルが枯渇した軍人には苦しんでもらうか」
結局エーテルの回復回りには行かないことになった。俺は特に疲れてないが、エーテルが回復しても疲労が抜けるわけじゃない。明日も戦うことになると連戦になって士気も下がるだろう。それは流石によろしくない。
しかし重傷者がいないとここまで暇になるのか。俺の役目は回復だから怪我人がいないと仕事がないんだよなあ。しかも男だから基本的な仕事も割り振られないし。
こうして今日の午後はひたすらのんびりして過ごした。
そして翌日。
今日も丸1日休暇だ。そしてツィエラが朝食を作り、それを食べてテント内でのんびりする。特にやることがないと暇だな。なんて思っていたら外でテントの入り口を見張っているツィエラと誰かが話している声が聞こえてくる。
「あらツィエラ、今日も護衛をしているのね」
「シャリエッタ……貴方何しに来たの? ここはアルス様のテントよ?」
「それくらい知ってますわ。アルス様は初めての従軍ですし回復の要として従軍している以上、怪我人がいないのなら暇を持て余していると思いましてお茶を御一緒しようかと思ってティーセットを持ってきましたの」
「シャリエッタ、昨日の疲れはいいの? ミランダ大佐の小隊に助けてもらってたけど」
「疲れは多少残っていますが今日中になくなるでしょう。エーテルも回復してきてますし、それに殿方とお茶をする機会なんてそうそうありませんの。ここを逃すつもりはなくてよ」
そんな声が聞こえてくる。さて、どうするか。まあこのまま暇を持て余していても時間がもったいないしな。それに相手はシャリエッタだと分かった。なら特にテントに入れても問題ないだろう。
取り敢えずツィエラに中に入れるように伝えるか。と思ったら、テントの入り口からツィエラが顔をのぞかせて、
「アルス様、シャリエッタがお茶したいって来てるのだけど、どうする?」
「暇だし受け入れよう。ツィエラたちも入ってきなよ」
「私とベロニカはこのまま警護をしているわ。中のことは任せるわね、フィオーネ先輩、グリューエル」
「ええ、任せて」
「分かりました」
こうして俺たちはシャリエッタをテントの中に迎え入れた。相変わらず綺麗なゆるふわの金髪に紅い瞳で白い肌だ。本当に戦場にいたのかどうか怪しく見えるな。
「お久しぶりです、アルス様」
「ひさしぶり、シャリエッタ」
「ほ、本日はお茶を御一緒にと思いまして持参いたしました」
「シャリエッタ自ら淹れてくれるのか?」
「は、はい。私がご用意いたしますわ」
随分と張り切っているな。というかこうして会うのは2度目なのに緊張しているみたいだ。さっきまでの威勢は何処に行ったのやら。
そして持参した茶葉と水とシングルバーナーで紅茶を淹れようとするが、
「……あら?」
なんて言って服のポケットやら持参した籠の中を探っている。何か探しているらしい。
「どうしたんだ?」
「いえ、火を熾すのに必要なエーテル鉱石をどこにしまったか分からなくなってしまいまして、少々お待ちくださいな」
そう言ってしばらくエーテル鉱石を探しているが、見つかる気配はない。そして段々焦っていくシャリエッタを見ていると少し不憫に思えてきたので、俺はこっそり小粒のエーテル鉱石を生成することにした。純度が高い以外に問題はないだろう。多分使えるはず。
「シャリエッタ、エーテル鉱石ならこれを使ってくれ」
「あ、ありがとうございます……ってこれ、相当質が高いのではありませんか?」
「まあ高いけど小粒だから使い道はないから気にしなくていいよ」
「ありがとうございます、では使わせていただきますね」
そう言ってシャリエッタは今度こそシングルバーナーに火を点けて湯を沸かし、俺とフィオーネ、グリューエルの分とシャリエッタ本人の分の紅茶を淹れてくれた。そしてそれに加えて少し変わったことはジャムを小皿に添えて出してくれたことだ。
これは帝国時代の北方の国で飲まれていた紅茶の飲み方だったはずだが、もしかして今も連綿と受け継がれているのだろうか。
「シャリエッタの淹れる紅茶も中々美味しいな」
「ありがとうございます。よければ小皿のジャムも紅茶に入れてみてくださいな。風味が変わって味の変化を楽しめますわ」
「よくこんな飲み方を知ってたな。エイト・クエレーレ・カスタルムでは普通の飲み方なのか?」
「いえ、一部の紅茶好きが昔の国でこういう飲み方があったという歴史を紐解きまして、その知り合いから教えていただきました」
なるほど、これが主流だったわけじゃなくてこれが歴史の中から発掘されたのか。それにしてもこのジャム美味しいな。ベリー系の物だろうが、数種類のベリーを使っているみたいだ。
「このジャムは手作りなのか?」
「はい、よく気付きましたわね」
「まあ昔ジャムを食べる機会があってね、その時に似たようなジャムを食べたんだ」
「その時はどんな味だったのですか?」
「マーマレードっていう果実を使ったジャムだった。別の地方ではマルレラーデって呼ばれてたらしいけど」
孤児院にいた頃はエーテル鉱石の売上でシスターが果実を買ってきてくれることがあった。そしてそれはエルマリアによってジャムに加工されていた。マーマレード、ブルーベリー、クランベリーとその時々によってジャムの味は変わったが、どれも美味しかったのを覚えている。
「マーマレード……聞いたことのない果実ですわね」
「ならもう存在しない果実なんだろうな。それか大陸のどこかでまだ自生しているのを見つけていないだけか」
「いつか食べてみたいですわ」
「どこかで見つけたらジャムにして贈るよ」
「あら、それは嬉しいですわ。楽しみにしていますね」
といった具合にシャリエッタのおかげで懐かしい出来事を思い返すこともでき、存外悪くない時間を過ごせた。そして2時間ほどのんびりしてからシャリエッタは帰って行った。
あとからツィエラにシャリエッタに迷惑を掛けられていないかと聞かれたが、今日はシャリエッタのおかげで楽しめたと答えておいた。




