25話
ベロニカの砲撃がタイプ・オーガに直撃し、1撃で討伐する。そして近づいてきたタイプ・ゴブリンをグリューエルがエーテル刀で斬り倒す。少し離れたところにいたタイプ・オーガをフィオーネが雷をまとわせた鞭で一閃してタイプ・オーガの首を刎ねて討伐する。
すごいな、どれも1撃必殺だ。軍の上層部はこんな小隊をよくEランク小隊に留めておけるものだ。俺ならさっさと昇格させてそれなりの現場に配属するが。
とにかく俺は結界の維持に専念して大丈夫そうだ。このまま様子を見よう。
他の小隊はどうだ? 戦線を維持できなかった部隊はどうなった?
戦線が崩れた辺りを見るが、まだ戦っているみたいだ。死人はまだ出ていないらしい。だがあちらは完全に乱戦になってるな。
このままだとこっちに流れてくるモンストルムの数が多くなりそうだ。
「ベロニカ! もしエーテルが尽きたら俺に触れろ! 回復魔法にはエーテルを回復させる術もある! 多少はエーテルも回復できる!」
「了解! もう少ししたらそっちに行きます!」
ベロニカはさっきから大型のモンストルム相手に砲撃を続けているからもう少しでエーテルが尽きるだろう。どれも確実に仕留めるために1撃に込めるエーテル量を増やしているみたいだしな。
それからツィエラとグリューエルを見るが、2人でタイプナーガの対処をしていた。タイプ・ナーガ。直接見るのは初めてだが、上半身は人型の形をしていて、下半身は蛇の姿をしている。尻尾の叩きつけなどが脅威になりそうだが、ツィエラもグリューエルもそんなのはお構いなしに剣にエーテルを込めて刀身を伸ばし、タイプ・ナーガの胴体を両断している。確かにそれで確実に倒せるが、力業過ぎるだろう。だが見事に俺の護衛を果たしている。
するとベロニカが近づいてきて、
「アルス様、エーテルが枯渇しそうなので回復してもらってもいいですか?」
「ああ、俺に触れたら勝手にエーテルが回復していくから好きなところに触れてくれ」
「好きな所にって、もう」
戦場にいるにも関わらず少し顔を赤く染めてからベロニカは俺の背中に手を触れる。すると、
「わっ、なんですかこれ! エーテルがどんどん体に入ってきますよ!」
「エーテル用の回復魔法だよ。触れてないと使えないけど便利だろう?」
「はい! すごい速度で回復していきますよ! しかもエーテルの質がめちゃくちゃいいです! というかもう全回復したので行ってきます!」
そう言ってベロニカは再び戦線復帰していった。そしてタイプ・オーガなど大型のモンストルムを狙ってまた砲撃をしていく。のだが、さっきより格段に砲撃の威力が上がっている。エーテルの質が高い分威力も上がったのだろう。ベロニカ自身も驚いたような顔をしていたが、すぐに1撃のエーテルの量を調整してギリギリ1撃で討伐できる砲撃をしているみたいだ。
まあ回復魔法に本当はエーテルの回復用の魔法は存在しない。これはもう1つのアビリティである源泉の能力のおかげだが、それは言わなくていいだろう。それに回復魔法の使い手が少なく、俺と同等のことができないなら回復魔法の中でも高等魔法に位置するからできないといえば済む話だ。
そして戦場を見守っていると、別の場所でも戦線が維持できなくなりつつあるみたいだ。大怪我をしているわけではないが、みんな息が荒く、先に体力が尽きた感じだな。このままだとあそこも戦線を維持できなくなる。そうなったら俺たちの退路を確保している小隊にも戦闘に参加してもらわなければならない。
だがあそこの戦線は崩壊しなかった。ミランダ大佐の小隊が遊撃として加わって戦線を押し返している。これならまだしばらくは大丈夫だろう。シャリエッタの小隊はどうだ? さっきは剣士が一人怪我をしていたが……こちらも大丈夫そうだな。怪我をしていた剣士も戦線に復帰している。聖域結界の効果で治療できたのだろう。
そしてそこかしこで戦闘が続く。ツィエラたちも戦い、戦線が崩壊したところだけは苦戦しているが、なんとかE11小隊がこちらにこないようにしてくれているため俺に危険は迫っていない。というかあそこはやく戦線を立て直せよ。
そんなことを思っていると、再びミランダ大佐の小隊が崩れた戦線を押し戻すために攻撃を仕掛けている。ミランダ大佐も大変だな。しかしこれだけの数が揃っていてもモンストルムに押されるのか。まあ1対1で戦う相手じゃないから仕方ないと言えば仕方ないか。
「すみませんアルス様! もう1度エーテル回復させてください!」
「ああ、何度でも好きなだけエーテル持っていけ」
ベロニカが2度目のエーテルの補給にやってきた。そして再びエーテルが全回復してから戦線に戻り、元気よく砲撃銃を撃っている。気付けば崩れた戦線が復帰していた。ミランダ大佐の小隊のおかげでなんとか戦線を立て直したらしい。そのままあとは陣形の中に入り込んだモンストルムの討伐をしてしまえばツィエラたちも楽になるだろう。
そう思って周囲を見渡していると、もう戦線が崩れそうなところは今のところなく、どこを見ても安全第一にして戦っている。これならしばらくは戦線維持したまま戦えそうだな。
そしてE11小隊が崩れた戦線から入り込んできたモンストルムの対処を終えた。全て討伐しきったのだ。そして1度全員俺の側まで戻ってくる。
「お疲れ様。案外余裕だったな」
「そんなわけないでしょ、あんな数のモンストルムなんて初めて戦ったわよ。それにグリューエルはこれが初陣なんだからもっと優しい戦場であってほしかったわ」
「グリューエル、初陣の感想をどうぞ」
「えっ? 感想ですか? ……まあ自分がモンストルムと十分に戦えると分かったので悪くない実戦経験でした」
「いいなあ、俺も実戦経験積みたいよ……。それより全員エーテルの回復をしておいてくれ。俺に触れたらエーテルの回復ができるから」
そう言って真っ先に俺に触れてくるベロニカ。お前さっき回復したばかりだろう? また回復するのか?
それから他の面々も俺の背中に触れてエーテルの回復をしていく。
「なにこれっ、エーテルの質が段違いにいいわね……」
「俺のエーテルはそういうものなんだよ。これで回復しておけば次の戦闘で少しは楽できるだろ」
「そうね、フィオーネ先輩も消耗が激しかっただろうし、これは本当に助かるわ」
「ええ、正直私はエーテルが枯渇しかけてましたからこれは本当に助かります、ありがとうございます、アルス様」
「いいんだよ、俺にはこれくらいしかできないから」
こうしてE11小隊のエーテルが全回復したところで、再び戦場を見渡す。そしてE11小隊は俺の四方に立ち警戒をしている。
取り敢えず俺の無事は確保されたが、他の小隊の状態が気になるな。今のところ怪我人は運び込まれていないが、それでも怪我をしている人は出ているだろうに。
それよりモンストルムと戦闘を始めてどのくらい時間が経った? 体力的には大丈夫なのか? さっきどこぞの小隊は体力が尽きかけていたが。
「ツィエラ、戦闘が始まってどのくらい時間が経ってる?」
「そろそろ1時間を超えるわね……モンストルムの数が多いからこうなることはあらかじめ予想されているわ。それよりここまで戦ってまだ重傷者が出ていないのが不思議なくらいよ」
「聖域結界のおかげだな。そのせいで俺は戦闘に参加できないけど」
「アルス様は戦闘に参加しちゃだめだから」
「分かってるよ」
まだ戦闘が始まって1時間か……。これはまだまだ戦いは続きそうだな。しかし戦線が崩れそうになったらミランダ大佐の小隊が遊撃で戦うから戦線は崩れない。となると俺は本当に聖域結界を維持するだけで良さそうだ。
そして俺たちの退路はまだ確保されたまま。後ろからの攻撃は来ていないらしい。モンストルムは正面の半円にいるやつらだけか。それにさっきと比べてモンストルムの攻撃が落ち着いたように思える。1度目の戦闘はそろそろ終了か?
そのままモンストルムと戦っている小隊を見ているが、怪我こそするものの大怪我という程ではなくすぐに聖域結界の効果で回復していくのでこちらに本当に重傷者が運ばれてこない。それにやはりモンストルムの攻撃が落ち着いてきているのだろう。さっきより戦いが楽になっているように見える。
そして次第に戦いは収束していき、シャリエッタの小隊が最後のモンストルムを倒して、その場のモンストルムは全滅した。一応まだ聖域結界は維持しておいて怪我人がいた場合のことを考えているが、この分だと大怪我をした軍人はいなさそうだな。
「アルス様、戦闘が終了いたしました。術を解いていただいて大丈夫です」
「そうか、分かった」
「それと先程の魔法についてお聞きしても構いませんか?」
「広域回復魔法だよ、欠損部位の治療こそできないが、広い範囲の怪我を治療していく魔法だ」
「……なるほど、それで重傷者がでなかったわけですか」
ミランダから聖域結界を解いて良いと言われたので聖域結界を解く。淡い緑の結界は消えて周囲は元の景色に戻る。
「欠損部位の治療が必要な軍人は?」
「今のところおりません」
「そっか、ならあのジムにいた時の欠損部位を抱えた軍人の数はなんだったんだろうな……」
「本来なら今回の戦いでも死者や欠損部位を抱える者も出ていたはずです。それを重傷者無しで切り抜けられたのはアルス様の回復魔法のおかげです」
「なるほど、俺の結界も役に立っていたわけだ」
こうして第1戦は重傷者無しで切り抜けられた。そして俺たちはそのまま隊列を戻して陣に戻るのだった。




