表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界の生存競争  作者: 神凪儀天水


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/29

17話

 翌日。

 今日も午後から図書館へ行くことにした。そして図書館のゲートを通り、昨日と同じ古代文献の書庫へ行く。今日は何か情報が得られそうなものがあるといいんだが……。


 それから本を物色していくが、やはり帝国の出版物が主で誰かの日記なんかは見当たらない。昨日はよくフレデリカの日記を見つけられたものだな。

 それからしばらく本を物色していると、帝国軍事記録と書かれたものが見つかった。今日はこれを読もう。


 さっそく男性専用の読書スペースへ移動して、帝国軍事記録を読み始める。それなりに分厚いから結構な情報を期待できそうだ。

 そして最初のページには帝国歴600年のことが書かれていた。俺が生まれる200年以上前のことだ。流石に今は知りたい情報ではないからページをどんどんめくっていく。帝国歴700年……帝国歴800年……そのままめくっていると帝国歴900年にまで辿り着いた。


 帝国歴900年。モンストルムとの戦いが激化していると書かれている。そして人理防衛機能が発動して帝国はモンストルムを抑え込むことで手一杯となり、もとより捜索していた獣と人間の凶暴化の研究施設の捜索を一度打ち切ったとも記載されている。


 帝国歴910年。このあたりから産出されるエーテル鉱石の質が下がり始めたらしい。というより採掘しすぎてエーテル鉱石の生成が追い付いていない可能性があると書かれている。エーテル鉱石は地中深くでエーテルが圧縮され加熱されることで結晶となり、その時に不純物が混ざって鉱石へとなっていく。つまり本来ならエーテル鉱石の質が良くなるまで待つべきなのだろうが、近年のモンストルムとの戦いでエーテル鉱石が不足しているため質の低いエーテル鉱石でも使わなければならない。


 帝国歴917年。となりの国がモンストルムとの戦いに敗れ壊滅した。避難民が帝国に流れてきている。最近は帝都にも避難民が流れ込み、路上生活者が増えて治安が悪化している。


 そうか、この時に隣国が滅んだのか。となると本当に人類同士で戦争なんてしてる場合じゃなかったんだな。


 帝国歴920年。モンストルムが一斉に帝国に攻めて来た。それを迎え撃つために帝国兵を3万人動員して迎え撃った。結果、モンストルムの軍勢は討伐できたが、死者が6割も出た。実質こちらも壊滅したといっていいだろう。モンストルムの強さは異常だ。それに対してこちらは年々エーテル装備の質が悪くなってきている。このままだと帝国が滅ぼされるのも時間の問題だ。


 帝国歴925年。帝国の都市がいくつかモンストルムによって壊滅させられた。もう防衛にも限界が来ている。そんな中でモンストルムを崇める宗教が現れ始めた。ついに現実から目を逸らす人間が出た。これはあまり良くない傾向だ。

 それと同時に帝都の移動計画が立ち上がった。海の上に都市を作り、そこで暮らして陸地から離れる。そうすることでモンストルムから身の安全を確保するという案だ。

 正直厳しい案ではあるが、何もしないよりはいいだろう。それに海上での移動には帝城にある巨大で質の高いエーテル鉱石を使えば動力として機能するはず。今から水上都市を建設するとどれだけ時間がかかるか不明だが、やれるだけのことはやるしかない。これをプリモディオム・カスタルム計画と命名した。


「プリモディオム・カスタルム……」


 たしかツィエラがそんな名前を言っていた気がする。つまりこの移動型の海上要塞は帝国が立案したものだったのか。

 そこから先はモンストルムからの防衛と建築の話が続き、帝国の都市が少しずつ壊滅に追い込まれていてこのままではまずいとも記載されている。


 帝国歴940年。ようやく海上都市の基礎建設が終わった。これには研究者、そして建築家などが危険な外地で作業をしてくれたおかげだ。尊い犠牲も多かったがなんとか基礎まで辿り着けた。あとは防御壁さえ作ってしまえばしばらくモンストルムからの攻撃は凌げるだろう。だがその時には私はもう死んでいるだろう。この軍事記録を次の者に託さねば。


 帝国歴943年。帝国軍事記録を託された。これからは私が記録を紡いでいこう。先代方のような立派な軍事記録にしたい。

 そう書かれている。

 そして建設にかんしては防御壁の建設が中々進まないらしい。モンストルムの妨害が激しいそうだ。帝国兵もこの100年でかなり質が悪くなったと言われている。今ではモンストルム相手に複数人で挑み、それでも犠牲者がでることになるという結果になっている。


 また、エーテル鉱石の質が悪いため、戦闘中に武器が破損することもあるらしい。そうなると自分のスキルを使って戦うしかなく、戦闘向きのスキルでなければ生き残るのは難しいそうだ。


 この時代はまだスキルと呼ばれているのか……。ならどこからアビリティなんて名称に変わったんだ?


 帝国歴950年。またどこからか人間が帝国に流れ住むようになった。おかげで帝国の治安がかなり悪い。そして帝国民が家に引きこもることが増えたらしい。マーケットでは強奪が横行している。治安維持のための兵士を送ってはいるが、数が多すぎて取り締まり切れない。だが中には仕事を与えれば働く者もいて、特に肌の白い民族は建築技術が高かったり、エーテルの質が良かったりしてプリモディオム・カスタルム計画の要になりつつある。


 肌の白い民族、ということは北方の北国の人々か? あそこから帝国まではかなりの距離があったはずだが、それでも帝国に頼りに来ていたのか……。


 帝国歴960年。ようやくだ。ようやく陸地に接している海上要塞の防御壁が完成した。おかげで人間は一時的に安息の地を手に入れた。そして次にどうせ作るなら長く海上要塞を維持できるようにと水道を2つに分けた。清潔な水と不潔な水が混ざらないようにだ。さらに海水を真水に変える手段を考案した研究者がいて水の問題も解決した。この調子ならあと40年もあれば帝国は完全に海の民になれるだろう。


 そうか、帝国はこの時点で陸地を捨てるつもりだったのか。

 なんというか帝国の栄枯盛衰に思いを馳せると少し悲しいものがあるな……。

 そう思っていた時、


「アルス様、今日はもうそろそろ閉館時間だわ。本を戻して帰りましょう」

「もうそんな時間か、分かった」


 そして俺は明日この本を見つけやすくするために少しだけ本を書庫からはみ出させておいた。

 そうすれば明日の俺がすぐに気付くはずだから。

 そのまま図書館を出て、ツィエラの運転で家に帰るのだった。



 翌日の午後からもまた図書館に行くことにした。

 今日はあの帝国軍事記録を読み切りたい。そう思って帝国軍事記録を手に取って男性専用の読書スペースに行く。


 昨日読んだのは帝国歴960年だからそこからだな。


 帝国歴970年。今まで区別されていなかったモンストルムの種類を分類することにした。結果、タイプごとに分けることにし、童話や小説から名前を取った名称をつけた。タイプ・ゴブリン、タイプ・オーガ、タイプ・ナーガ、タイプ・スライム、タイプ・シーマン、タイプ・マーマン、タイプ・ワイバーン、タイプ・スパイダー。基本的にこの8種が見受けられるため名称付けは8種に行われた。特にタイプ・シーマンとタイプ・マーマンは海中に潜んでいるため、かなり厄介だ。海上都市でようやく陸地からの防御壁ができたのに、海面側も防御壁を作るはめになってしまった。


 帝国歴975年。防御壁は慣れると手早く作れるようになっていった。おかげで既に海上都市の半分は防壁で囲まれている。そして水道の区別も終わった。あとは建物を建てていくだけだ。皇帝が住む城から建てることにする。


 帝国歴980年。帝国の帝都までモンストルムが押し寄せてくるようになった。そして帝国は避難民に武器を持たせて戦わせるようになった。避難民からの文句が凄まじいが、勝手に住み着いている以上は働いてもらうしかない。あとは純粋な口減らしだろう。最近の帝国は食料が不足している。街中では餓死している者を見かけることもあるくらいだ。


 帝国の衰退が酷いな。それに避難民を戦わせて食い扶持を減らしているとはかなり悲惨な状況だったのだろう。


 帝国歴990年。海上都市に帝城が建ち、それと同時に複数の家も建った。が、ここで65年前から怪しい動きをしていたモンストルムを崇める宗教が密かに作っていたらしい人類を滅ぼす呪いを世界にばら撒いたと帝国内で叫び出した。

 それによって帝都は阿鼻叫喚の嵐になり、誰もが家に引きこもり、モンストルムを崇める宗教の人間だけが街を跋扈する異例の事態となった。しかし、それも長くは続かなかった。どうやらその呪いとは不完全な失敗作だったらしい。呪いによって急死していくのは男だけ。帝国兵団もほとんどその呪いによって死んでしまった。数少ない女性兵士だけではモンストルムを抑えることはできない。


 それからは女性兵を作り出し、海上都市へ畑の土を運び込み、海上都市で農業生産を行える体制を整えた。男性がほとんど死滅した世界で女性だけで生きていくのはかなり過酷だが、そうしなければ人類が滅ぶ。それだけは駄目だ。私たち人類はこれから先も歴史を紡いでいかなければならない。


 帝国歴999年。海上都市の完成がかなり近づいてきた。そして帝国の帝都がついにモンストルムの手に落ちた。事実上、帝国は滅んだのだ。あと1年で帝国建国から1000年という偉業だったにも関わらず、惜しいことをした。あのモンストルムを崇める宗教さえいなければまだ帝国は健在しただろうに。

 そして男性がほとんどいなくなり、女性だらけの世界になってから、というより移民が入るようになってから言語がかなり変わってきている。もはや帝国語の面影は少ししかない。色んな国の言語が混ざり合ってしまっているみたいだ。そしてその言語をなんとなくて使えている私も不思議な感覚だ。


 帝国歴999年。海上要塞プリモディオム・カスタルムが完成した。生き残った人間はプリモディオム・カスタルムに移住し、新たに軍を設立した。そして男性は数が少ないため、人口増加のために兵役は無しとして子供を作ることに専念してもらうことにした。

 そして帝国にいる民が全員海上要塞に移住し終えた時、帝国歴は999年の終わりを迎えかけていた。少し早いが、もう帝国も滅び、帝国民だけでなく他国民などがまざりあっているのだからここで国籍などを廃止し、新しい都市としての市民権の付与、そして言語の統一、西暦の変更を行った。結果、全ての民は要塞都市の民となり、言語は分かりやすく統合語、西暦は人類が皆等しく同盟を結んだということから人類同盟歴とした。

 こうして帝国歴1000年からは人類同盟歴1年と呼称し、我々は海へ旅に出る。


 この文章を最後に帝国軍事記録は終わっている。


 つまり、帝国歴は999年で終わり、そこから先は人類同盟歴となっている、か。まず俺の年齢が16歳、そして封印されたのが帝国歴849年。帝国歴の最後が999年。この時点で俺は166歳ということになる。

 それに加えて人類同盟歴は334年、そこに166を足すとちょうど500。

 つまり俺は500歳というわけだ。


 ここに来て自分の謎が1つ解けたな。そして帝国歴から人類同盟歴に変わった理由も、言語が違っている理由も分かった。海上要塞が作られた理由も分かった。男性が少なくなった理由はまだ納得できない部分もあるが、まあ大本は帝国にいた馬鹿のせいだ。


「ふう……」


 俺は帝国軍事記録を机に置いて自分の両目を閉じて上を向く。少し目が疲れたな……。だがまあ今日は収穫が大きい。これで終わりにしてもいいだろう。あとはちょくちょく図書館に通って人類同盟歴1年からの歴史を辿っていけばいいだろう。今後は人類同盟歴を調べていくか。


「アルス様、読み終わった?」

「ん、ああ、読み終わったよ」

「だったらそろそろ閉館時間になるから今日は帰りましょう」

「分かった」


 こうして俺は本を本棚に戻してツィエラの運転する車で家に帰るのだった。

 そして夕食時、


「アルス様は昨日から同じ本を読んでいましたけど重要なことでも記載されていたんですか?」

「重要なことばかり記載されていたよ。帝国歴が何年で終わったのかも分かったし、海上要塞が生まれた経緯も知ったし、言語が統合語になったのも分かった」

「それって大発見では?」

「その大発見の資料が図書館にあるなんて驚きだな。ここの研究者は一体何を研究してるんだか」


 フィオーネの質問に答えてから俺は肉を頬張る。アイーシャが来てからは料理は全てアイーシャに任せているがどれも美味しい。食生活が豊かなのはありがたいな。


「研究者に今日読んでいた本を教えてあげれば大歓喜するでしょうね」

「その研究者が正しく帝国語を読み解ければの話だけどな」

「ちなみにアルス様、帝国歴は何年で終わってたんですか?」

「帝国歴999年に最初の海上要塞が完成して、次の年から人類同盟歴に変わってた。ちなみにそれで分かったんだけど俺の実年齢はちょうど500歳らしい」


 500歳と聞いてアイーシャを含めた5人がそれぞれの反応をする。アイーシャは何を言っているのか分からない様子で、ツィエラとベロニカはまさか、といった表情をしている。フィオーネは頭がこんがらがっているらしい。フリーズしている。グリューエルは疑問の目を俺に向けている。この場で俺の事情を知っているのがツィエラとベロニカだけだからまあ仕方のない反応だろう。


「アルス様、長生きですねー」

「そのうち16年しか活動してないけどな」

「じゃあ残りの人生で484年分取り戻しましょう!」

「そうだな、取り敢えず2度と手に入らない過去との決別をしないとな」


 そう言うと、ベロニカが急に優し気な顔になり、


「無理に決別なんてする必要はありませんよ。過去も一緒に未来へ連れて行ってあげればいいんです」

「……その発想は無かったな。だがそれだと俺は一生結婚なんてできそうにないぞ」

「アルス様結婚予定あるんですか⁉」

「場合によってはあり得るだろう。子供作るのって義務だし。ただ、過去に一緒に暮らそうって約束した人を裏切ってるような気分になるから気が進まないな」


 エルマリアのことを思い出しながら言うと、ベロニカの表情がまた変わり、好奇心の溢れる表情で、


「アルス様の生きていた時代に婚約者がいたんですか?」


 なんて聞いてくる。恥ずかしいじゃないか。まあエルマリアのことは話してもいいだろう。心の整理にもなるだろうし。


「婚約してたわけじゃない。俺が兵士になったら一緒に家を借りて暮らそうって約束してた人がいたんだ。結局その約束は果たされなかったけど」

「その人、可愛かったんですか?」

「君らと比べると全然可愛くないよ。というか君らより可愛い人を探す方が難しいだろ。でも、それでも今でも大切な人だな」

「そ、そうなんですね……」


 そう言うと、ベロニカの顔が赤くなっている。それにツィエラもだ。お世辞のつもりは無かったがまさかここまで顕著な反応をするとは……。意外と初心なんだな。

 それから急にみんな顔を赤くしたまま無言になって食事を進める。

 そして寝る時間がくるまでのんびりと過ごしてから眠るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ