15話
そしてE11小隊が護衛に来てから2日目の昼、ツィエラが最後の小隊のメンバーを迎えに行っているので俺たちは帰ってくるのを待っている。
その間に俺の部屋からエーテル鉱石を4つ持ってきて1階のリビングのテーブルに置いている。それを見てベロニカは綺麗と言い、フィオーネは一体どこから調達しているのでしょうか、なんて呟いている。自家生産だよ。
そして家の鍵が開く音がした。ツィエラが最後のメンバーを連れて帰ってきたのだろう。
そしてリビングにやってきて、最後のメンバーが姿を現した。茶髪のセミロングで黄色に近い色をした目をしている。背は低めだが帯剣しているということは剣士なのだろうか。
「アルス様、こちらE11小隊の最後のメンバーのグリューエル・ベルメゾンです」
「グリューエル・ベルメゾンです。本日よりアルス様の護衛任務に就きます。よろしくお願いします」
「アルスだ、よろしく。しかしグリューエルは貴族なのか? 家名まであるなんてすごいな」
「……アルス様? 家名は誰にでもありますよ?」
「……え?」
リビングに不思議と冷たい風が吹いた気がした。家名は誰にでもある? 俺にはないんだが? というかツィエラもベロニカも家名名乗ってなかったじゃないか。
「ツィエラとベロニカ、家名名乗ってなくない? あとフィオーネも」
「私たちの時は古代語で話してたから家名なんて名乗ってる余裕がなかったのよ」
「私はわざわざ伝える必要はないかと思ったので言いませんでした」
「え、じゃあこの要塞で家名がないのって俺だけ?」
「まあ、そうなるわね」
家名か……貴族にしか与えられないはずのものが今では誰にでも与えられているのか。俺の生きていた時代とは違ってびっくりだよ、ほんと。まあないものは仕方がないので諦めよう。それよりエーテル鉱石だ。
「家名の話は置いておくとして、昨日話したエーテル鉱石だ。これで各々の武器を作ってもらってくれ」
「分かったわ、取り敢えずこのエーテル鉱石を持って武器製作の研究開発課に行けばいいのよね」
「全員で行くわけにはいかないから2度に分けて研究開発課に行きましょう。今日はグリューエルとフィオーネが行ってきて。明日は私とベロニカで行くから」
「そうね、護衛対象を放置するわけにはいかないものね。それじゃあグリューエル、行きましょうか」
「は、はい」
こうしてフィオーネとグリューエルは武器製作を依頼しに行った。
「あのグリューエルって子は強いのか?」
「強いわよ。私のアビリティは剣術なんだけど、あの子のアビリティは風魔法でね、なのに私と剣の腕が互角なのよ」
「それは相当強いな。アビリティ持ちの人間と同等ってかなりの強者じゃないか。良く勧誘できたな」
「まあいろいろあってね」
しかし風魔法というアビリティを持ちながら剣士なのか。風魔法なら中衛か後衛になって遠距離攻撃をすると思うんだが、もしかして命中精度が低いのか? だから至近距離で風魔法を当てるために剣術を磨いたとか? ありえそうだな。いや、そもそものエーテル保有量が少ない可能性もある。まだ結論を出すのは早いだろう。
「いやあこれだけ質の良いエーテル鉱石を使った砲撃銃の威力はどれくらいになるんでしょうねえ」
「ベロニカは砲撃しかしないのか?」
「私は砲撃しかできませんので……狙撃は苦手なんですよね」
「よくそれで後衛やってられるな……」
まさかの狙撃ができない後衛だったとは。しかし砲撃も強力だったのは確かにこの眼で見ているからまあ威力が上がればさらに活躍できるだろう。
あとはフィオーネがどういった武器を使うのか分からないから何とも言えないが、おそらく中衛になるんだろうな。でないと小隊のバランスが悪すぎる。さて、フィオーネのアビリティは今度本人に直接聞くとして、
「ベロニカ」
「はいはい?」
「バターケーキ作って?」
「いいですよー! とびっきり美味しいバターケーキを作って差し上げましょう!」
そう言ってベロニカはキッチンへ駆けこんでいった。そしてツィエラもベロニカを手伝うらしくキッチンへ行ってしまった。
残された俺は何をしようかなと考えた時、
「アルス様」
「どうしたアイーシャ?」
「精子提供の期限が迫ってきております。あと2日以内にお願いします。初回は説明する形になりますが構いませんか?」
「ああ、頼む。とりあえず俺の部屋でお願いするよ」
こうして俺は男性保護法を享受するための対価の説明を聞き、対価を支払うのだった。
これから週に1回か。まあこれくらいなら楽なものだしいいか。割り切ってしまうと精神的に楽になる。だからこれからも男性保護法のもとで好き勝手生きていこう。
そしてアイーシャは対価を持ってどこかへ行ってしまった。
ただ少し疲れたな……バターケーキができあがるまで寝るか。
ということで俺はそのままベッドで眠ることにした。
それからどれくらい時間が経っただろうか。体感的にはそんなに寝ていたつもりはないが、起きたら夕陽が沈み始めていた。1階に降りると、既にフィオーネとグリューエルは帰ってきていて、バターケーキも完成していた。
「あ、アルス様! ちょうどバターケーキが完成したところですよ」
「良かった、いいタイミングで起きれたみたいだな」
「あら、さっきまで寝てたの?」
「ああ、少し疲れてさ」
そう言いながらテーブル席に座ると、ベロニカがバターケーキを切り分けてくれる。さっそく食べてみると、このバターの風味を感じさせる素朴な味が孤児院で食べたものとそっくりで懐かしい。気付けば一瞬で食べ終えていた。それくらいに美味しいバターケーキだった。
「シスターに負けないくらいに美味しいバターケーキだった」
「それなら良かったです、また作ってあげますからね」
「ああ、頼む」
「しかしアルス様の警護の一環で菓子作りの費用も無料になるのはありがたいですねえ」
そうか、俺が食べたいと言ったことにすれば菓子作りの材料の費用も男性保護法が適用されてあとから金が返ってくるのか。たしかにそれはありがたいな。だが夕食前に食べてしまって大丈夫だろうか。
それから夕食をアイーシャが作ってくれたが、直前にバターケーキを食べたことを考慮してくれたのか少し量が少な目の夕食だった。本当に気が利くな。
そして翌日。
今度は朝からツィエラとベロニカが武器製作の研究開発課に行くことになった。
「それじゃあ行ってくるわね」
「行ってきます!」
「ああ、行ってらっしゃい」
「エーテル鉱石、道中落とさないようにね?」
「フィオーネは心配性ね、大丈夫よ、多分」
そう言って2人は行ってしまった。まあしばらくしたら帰ってくるだろう。それまでは家で待機だ。というか外にでる予定もないから家でのんびりするしかない。せっかくだからグリューエルのことでも聞いてみるか。
「なあグリューエル、学園って何するところなんだ?」
「学園ですか? そうですね、主に6年間学問を学ぶ場所でしょうか。統合語の読み書きであったり、算術であったりなどが主であって、あとは選択制で剣術や槍術、エーテル弾の狙撃訓練などをやったりします」
「6年ってことは9歳から学園に通うのか……やっぱり貴族の世界みたいだな」
「アルス様は通われなかったんですか?」
「俺はついこの間まで遭難民とやらだったらしいぞ」
本当に遭難民として扱われていたから嘘は言っていない。数百年くらい封印されて、そしてその封印をツィエラとベロニカが解いて心肺蘇生してくれたからこうやって生きているんだし。
「遭難民ですか……相当辛い生活を送っていたんですね」
何か勘違いしているみたいだが、まあ訂正はしなくてもいいだろう。
それに本当のことを話すとまた封印されてしまう可能性もある。この要塞には一部エーテル鉱石が使われているが、どれも品質は低い。だから俺のエーテル鉱石生成の特技が知られると毎日仕事漬けになる可能性もある。秘密が漏れる口は少ない方がいいから黙っておこう。
「まあ今はこうやって男性保護法のもとで自由に暮らしているから文句はないさ」
「男性保護法で保護されてる男性ってみんな護衛小隊をつけてるんですか?」
「俺はこっちに来てからまだ日が浅いからしらないけど、フィオーネは知ってる?」
「基本的に他の男性は護衛小隊はつけていませんね。何せ外に出たがらないので」
「だそうだ」
フィオーネの説明に相槌を打つグリューエル。しかし完全に納得できているわけではないようだった。
それからも雑談を続けていると、ツィエラとベロニカが返ってきた。
「ただいま戻りました!」
「ただいま、アルス様宛に手紙が来てたわよ」
「また手紙?」
ツィエラから手紙を受取って読むと、近くの駐車場に車の手配ができたとのこと。それと鍵が封入されていた。これで図書館に行くことができるな。
「近くの駐車場に車の手配ができたらしい。午後は図書館に行こう」
「分かったわ、運転は任せて」
「護衛任務の初外出ですね」
「まあ護衛対象が下手な軍人より強いというのも不思議な話なのだけれど」
「え? アルス様って軍人より強いんですか?」
4者4様の反応をして午後の予定が決まった。これでようやく俺が封印されてから何があったのか調べることができる。
一体何があったんだろうな。




