13話
そして翌日。
朝からアイーシャの作った朝食を食べて、アイーシャに護衛の小隊をE11小隊にすると伝えて申請をしに行ってもらうことにした。
その間俺は1人だし、せっかくだからラジオを使ってみよう。
というわけで昨日アイーシャから説明されたラジオの電源を入れる。そしてこの要塞、エイト・クエレーレ・カスタルムの8番にチャンネルを合わせると、
『本日は1日晴れとなるでしょう。海風も涼しく過ごしやすい気候となりそうです』
なんて声が聞こえてくる。これがラジオ、不思議なものだな。しかも朝から今日1日の天候の予想なんてしている。他にも食糧事情がどうとかいろいろと放送されているからこれは多分一般人に必要な情報なんだろう。ラジオから流れる声を聞いていると、
『先月の男性出生数は0となり、先月も我が要塞は男性には恵まれませんでした。しかし、新しく男性が1名このエイト・クエレーレ・カスタルムに保護されたため、10代の男性が1名増えることとなり、我が要塞の男性数は398名となりました』
ほのかに俺の情報が開示されていた。どこでばれたのか知らないが男性の数ってそんなに把握されているものなのか? というかこれって一般人に報道して大丈夫なのか? 俺の邸宅襲われたりしないよな?
それから軍の情報が一部流されたり、現在の要塞の動向など、いろいろな話が聞けて結構面白かった。
その後は庭に出て軽く体を動かすことにした。ストレッチやら散歩やら、それなりに広い庭だからこれくらいはできる。なんせ池で非常食用の魚を飼っているくらいだしな。
なんて魚を眺めているとアイーシャが帰ってきた。
「おかえりアイーシャ、護衛の手続きは済んだ?」
「はい、一応は」
「一応?」
「昨日ツィエラ様が仰っていた通り、他の小隊を勧められました。しかしアルス様が知っている女性がいいとのことでしたので押し切りました」
「やるね、頼りになるじゃん」
「ありがとうございます」
こうして俺の護衛小隊はE11小隊に決まりそうだ。そしたらバターケーキ食べ放題だな。それも楽しみだ。
なんて思っていた翌日。
家のポストに手紙が入っているとアイーシャから渡された。宛先は俺、差出人は軍。内容を読んでみると、E11小隊には荷が重いから他の小隊を勧めるという内容のものだった。
昨日は手続きは済んだと言っていたが、まさか後から別の小隊を勧められるとは思わなかったな。だが俺の考えは変わらない。E11小隊に護衛を頼むと決めている。他の小隊は知らない人しかいないし、ぶっちゃけ俺もいちいち女性と一から関係を築くのは面倒なんだ。
「アイーシャ、もう一度軍に行って護衛をE11小隊で指名してきてくれ」
「かしこまりました。行ってまいります。帰りに買い物もしてまいりますので帰宅は昼頃になると思います」
「分かった」
俺はもう一度アイーシャに護衛の手続きをさせに行かせた。これでまた別の小隊を指名してきたら襲撃しよう。男性の意向を無視するのであれば権力を使い、権力が駄目ならもはや戦争しかあるまい。
そんなことを考えていると、そういえばE11小隊用のエーテル鉱石をまだ生成してなかったなと思い、4人分のエーテル鉱石を生成した。もう少しで入って来るらしい新人の分も用意しておいたからこれで装備の質は上がるだろう。あとは後日E11小隊が来るまでエーテル鉱石を隠しておいて、と。
いつかはエーテルを糸のように細くより合わせるように生成して外套を作ってみるのもいいかもしれないな。そうすれば魔法に耐性のあるマントができる。帝国兵はマントに魔法陣をエーテルを使って織り込んでいたし、現代でもやろうと思えばできるだろう。問題はモンストルムが魔法を使うかどうか分からないというところだ。だがそれも構わないだろう。戦うのはモンストルムだけとは限らないし。
それに俺も軍属になる予定だから防御用の装備は整えておいた方がいいだろうし。なんて考えているとアイーシャが帰ってきた。
「アルス様、護衛の指名手続きが終わりました」
「ありがとう、昼ご飯よろしく」
これで次の軍の上層部の反応を確かめよう。
そして翌日。
また軍から手紙が来た。内容は昨日と同じだ。E11小隊には荷が重いため他の小隊を推奨する。C12小隊などはいかがだろうか、と。あからさまに俺からE11小隊を遠ざけようとしているな。というかE11小隊を俺に近づけないようにしているのか。このままだと平行線だろうから一度軍の施設まで行って直接話をつける必要がありそうだ。あと車の申請もしないと。
「アイーシャ、今日はちょっと軍のお偉いさん方とお話してくるから出掛けることにする」
「アルス様、護衛の件で行かれるのですか?」
「そうだ。知らない小隊より知ってる小隊の方が落ち着くから俺はE11小隊を護衛に指名してるのに軍はそれがお気に召さないらしい。だから直接話をつけてくる」
「危険です、日中は街中には女性で溢れております。それに軍の施設までかなりの距離があります。おそらく辿り着くことはできないかと」
「その時は街中で暴れて軍に連行してもらうさ」
そう言って俺は朝食を食べ終えて、杖を持って外へ出る。
なんだかんだと3日ぶりくらいの外か? 相変わらず過ごしやすい気温だ。今は春なんだろうか。そういえば俺は人類同盟歴334年ということしか知らないな。日付とか気にしたことがなかったし。今度そのあたりもアイーシャに聞かなければ。
俺はそのまま記憶を頼りに走り始める。ただひたすら軍の施設に向かって。
そして道中、あの人男性じゃない? とか男性が1人で外に⁉ なんて声が聞こえてくる。意外と話しかけられないものだな。
「アルス様!」
そう思っていたら後ろから大声で話しかけられた。しかもアイーシャだ。ついてきたのか。
「どうしたアイーシャ」
「お考え直しください、あまりにも危険です!」
「危険なのは俺じゃなくて過激派の女性だよ、なにせ俺は武装してるんだからな。ここまで来たならアイーシャも一緒に軍の施設に攻め込むぞ、最短距離で案内を頼む」
「はぁ……かしこまりました」
そう言ってため息をついてからアイーシャは俺を先導するように走り始めた。そして俺はアイーシャの後ろに続く。そのまま走り続けていると、街並みが段々複雑になってきて、人の数も増え始めてきた。すると、
「男よ! 男がいるわ!」
「どこっ! どこにいるのっ! 子種を貰わないと!」
「男……ミツケタ」
なるほど、あれが過激派女子か。俺を見るなり一目散に駆けつけてくる。だが悪いが俺も過激派男子としてふるまわせてもらおう。
杖を構えて走りながら過激派女子の足元にエーテル弾の散弾を放つ。その途端過激派女子の動きが完全に止まった。
「それ以上近づいてくるなら次は当てる。モンストルムを一撃で葬る威力に耐えられる奴だけかかってこい」
そう言って過激派女子の間を走り抜けると、過激派女子は誰1人として動かなかった。そのまま走っていると、体力不足で速度が落ち始めた。息も上がって結構きつい。
「アイーシャ、ちょっと待ってくれ」
「どうしましたか、アルス様」
「体力切れだ……少し休ませてくれ。あと今どの辺にいるんだ?」
「現在は軍の施設まで3割ほど進んだところでしょうか」
「これだけ走って3割か……襲撃は昼になりそうだな」
体力の落ちがすごい。昔は森を駆け回っていたのに今では街を駆け回ることすらできないなんて。距離だってたいして走っていないだろう。これは本当に鍛え直さないと駄目だな。
「しかし驚きました。まさかアルス様が過激派女子を抑え込むとは」
「過激派女子って言っても一般人だろ? なら戦闘経験のある俺なら楽に抑え込めるさ。杖さえあれば」
そう言ってしばらく休憩してから歩いて軍の施設に向かうことにした。このままだと軍の施設に辿り着く頃には体力が尽きて動けなくなっているだろうからだ。
そしてちょうどお昼ごろ、軍の施設に辿り着いた。
「ところでアイーシャ、軍の上層部っていつもどこにいるんだ?」
「申し訳ありません。分かりかねます」
「そっか。なら取り敢えず護衛の手続きをした場所に連れて行ってくれ」
「かしこまりました」
そのまま軍の施設に入ろうとするが、入り口に立っていた軍人に止められた。
「お待ちください。ここから先は関係者以外立ち入り禁止です」
「俺の護衛小隊の申請に来たんだけど、帰った方がいいか?」
「……いえ、そういうことであれば問題ありません。どうぞお通りください」
「ありがとう」
そう言って俺は軍の施設に堂々と入ることができた。すると後ろから、男性と話せた! 私男性と話ができたわよ! なんて言っているさっきの軍人の声が聞こえる。男性と話すのがそんなに珍しい……場所だしそういう時代だったな。
「よし、取り敢えず中には入れたな。アイーシャ、手続きの場所へ」
「はい」
そのまま俺は案内に従って男性の護衛小隊の指名手続きをする場所へやってきた。そこには受付として女性が1人座っている。
「俺の護衛小隊の申請に来たんだけど」
「ッ! かしこまりました。どちらの小隊を希望されますか?」
「E11小隊を希望する」
「E11小隊ですね。申請します。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「アルス」
「かしこまりました。…………申請完了しました」
「ありがとう、それじゃ」
再申請はこれで終わった。次は上層部に砲撃を浴びせに行かなければ。
「さて、目的の半分は達成したが、アイーシャは上層部がどこにいるか知らないんだよな?」
「はい、存じません」
「なら適当に聞いて回って、駄目だったら片っ端からエーテル弾で扉吹き飛ばして確認だな」
そしてまずは記憶を頼りに昇降機まで行き、研究者のいた階まで昇る。そして研究者のいる部屋に入ると、
「何者だ! ……ひと月前の遭難民の男性?」
「お、俺のことを覚えてる人がいたのか。ちょうどいいや、軍の上層部の居場所教えて?」
「それはできません。いくら男性でも軍関連に関わる権限はありません」
「教えないならエーテル弾ぶっぱなすぞ?」
そして杖にエーテルを流し込む。すると杖に取り付けられたエーテル鉱石が紅く輝きだし、徐々に輝きを増していく。
「ひっ! 何故そんなことを⁉」
「俺の護衛を指名してんのに別の小隊を勧めてくるのが鬱陶しくてさ、ちょっとお話をしたいんだよ。居場所を教えたくないなら今すぐ上層部に連絡を取れ、攻め込みに来たってな」
そう言うと研究者の1人が通信機で現状を報告し、上層部との対話を望んでいることを伝えてくれた。
すると軍人が研究室に飛んできて、
「上層部が会議室にてお待ちです。ご案内いたします」
そう言って軍人に俺とアイーシャは付いていくことにした。昇降機でさらに上に昇り、俺の入院していた階よりも上に行き、長い廊下を歩くと、ようやく会議室らしき扉が見えた。
「こちらでお待ちです」
「案内どうも」
そして俺はノックもせずに扉を開けて、入室する。すると、
「男が攻めてきたというのは事実だったのか……」
そう言った年老いた女性を筆頭に10名ほどの女性軍人が椅子に座っていた。そして部屋の端には他の軍人たちが立ち並んでいる。全員武装していることから俺のエーテル弾対策だろうと考えられる。
「なんだ、上層部って思ってたより数が少ないんだな」
「この度は急なご来訪でしたので人数が集まりませんでした。改めて日程を決めていただけるなら確実に全員出席させますが?」
「いや結構。的は少ない方が楽でいい。それで、単刀直入に聞く。俺の護衛小隊にE11小隊を指定しているにも関わらず、他の小隊を勧めてくる馬鹿はどいつだ?」
椅子に座る上層部の軍人たちを睨みながら問うと、
「この場にいる者、そしていない者含めてほぼ全員ですな」
そう返答が返ってきた。なので杖にエーテルを流し込み杖のエーテル鉱石を輝かせる。その瞬間、壁際に立っていた軍人たちが一斉に戦闘態勢に入る。
「何故男からの指名を無視して他の小隊をあてがおうとする? お前らは男性の希望を無視するのか?」
「その貴重な男性をいらぬ諍いで失わないようにするためにより強い小隊を護衛に推薦しているのです」
そう発言した軍人に杖の先端を向ける。
「それは俺の希望を無視してまで強行することではないだろう。別にモンストルムを相手にするわけじゃないんだ、一般人の女性相手にするだけでEランク小隊が駄目な理由が分からんな」
「万が一、モンストルムが侵入した際のことを考えてのことです」
「万が一を考えるならもっと軍人を防衛に割けよ。それともこの要塞の軍人はそんな簡単にモンストルムに負けるほど弱いのか?」
なんて言い合って睨み合いをしていると、別の軍人が口を開く。
「……随分と口の回るガキだな。しかも男にしては胆力もある。」
「それはどうも。で、アンタもツィエラたちが気に食わない側の人間か?」
「いや、私は男性の護衛にランクなどはどうでもいいと考えている。要塞の一番安全な場所に隔離されているのだからな」
「ならよし。他、俺の護衛にE11小隊をつけることに反対の上層部、名乗り出ろ。まとめてエーテル弾打ち込んでやる」
「……はぁ。今までの男は肝が小さすぎるとは思っておったが、ここまで肝がでかいのがいるとそれはそれで厄介じゃな。総員、そこの男を拘束しろ! ただし相手は男だ、極力怪我はさせるな!」
一番高齢の上層部の女性軍人がそう命令した途端、壁際に立って戦闘態勢を維持していた軍人たちが一斉に襲い掛かってくる。
なので俺はエーテルを杖に流し込んでエーテル弾の多重射撃を行うことにした。これだけの数がいれば的を狙わなくても数撃てば当たるだろ。
というわけで、
「エーテル弾、多重展開」
一斉に襲い掛かってきた軍人に一斉射撃をして全員吹き飛ばしてみせた。
そして場が沈黙に包まれる。今襲い掛かってきて俺に反撃を喰らった軍人で立ち上がる気配のある奴がいないのだ。残りの軍人は迂闊に動けず戸惑っている。
そして戸惑っているのは拘束命令が下った軍人だけでなく、上層部の軍人もだった。
「1度にエーテル弾を複数射撃したじゃと?」
「なんだ、今の軍人はエーテル弾の多重展開はできないのか」
そう言って俺はもう一度エーテル弾の多重展開をしていつでも射撃できるようにする。それを見て残りの軍人が襲い掛かって来るが、できるだけ引き付けてから射撃して再度吹き飛ばす。これで全員か?
そして次は上層部だと言わんばかりに無言で杖にエーテルを注ぎながら上層部の面々に杖の先端を向ける。
「これが最後の降伏勧告だ。俺の護衛小隊をE11小隊にしろ。できないというなら首を縦に振るまでエーテル弾の的にしてやる」
「……それが保護されている弱者のやることか……ッ!」
「別に俺は保護してくれなんて頼んでないぞ? 正直軍属でも良かったんだ。それを貴重な男だからとお前らの都合で邸宅に押し込んでおきながら護衛小隊にまで口を出すのは流石の俺も腹が立つ。というか男を保護している弱者とみなしているならさっさと捨ててしまえばいいだろうに」
「……男を捨てると人類が滅ぶ。だからそれはできん」
「分かってるなら男の前で保護されている弱者だなんて言うなよ……今の状況を見る限りだと間違いなく弱者はお前らだぞ?」
そのまま杖の先端を上層部に向けて言ってやると、上層部の軍人どもが無言で睨みつけてくる。だから杖に流し込むエーテル量を増やしてエーテル鉱石の輝きを増すと、大半が目を逸らす。しっかりとこっちを見ているのは2人。うち1人はさっきの男にしては胆力があるとか言ってた女性軍人だ。もう1人は銀髪蒼眼に白い肌。美人ではあるが許容範囲外だな。
それから無言の時間がしばらく流れ、
「……もう一度、要求を聞かせてもらおう」
「1つ、俺の護衛小隊をE11小隊にすること。2つ、俺に車を支給すること。以上だ」
「……いいだろう、そのように手配してやる」
「それはどうも。最初からそう言っておけば軍人どもが怪我をすることなんてなかったのに」
そう言って俺は戦闘態勢を解く。そして上層部の軍人たちに背を向けて、
「それじゃあ護衛小隊は明日からよろしく。車は近日中ならいつでもいいや。あと俺、E11小隊の任務について行くから、そこんとこよろしく」
「なっ、待て!」
そう言って相手の返事を聞かずに俺はアイーシャを連れて会議室を出た。
これで目的は達成したし、今日はもう帰るか。
それから昇降機で一気に1階まで降りて徒歩で時間をかけて家に帰るのだった。
ちなみにアイーシャからはその後小言を言われた。まあ勝手に軍事施設に入り好き勝手暴れたのだからこれは仕方がないだろう。




