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終末世界の生存競争  作者: 神凪儀天水


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10/29

10話

 そして翌日。ついに退院の日がやってきた。

 退院にはE11小隊の護衛と研究者が来るらしい。最後のメディカルチェックも兼ねているそうだ。


 そして朝食を食べた後、研究者とその他のスーツを着た女性がやってきたので最後のメディカルチェックをしに行く。そのまま俺の新しい邸宅に移動することになるらしく、荷物はスーツを着た女性たちが持ってくれた。

 そして初日に使った検査室の寝台に寝ころび、メディカルチェックを行うと、


「どこからどうみても健康体ですね。たったひと月で瀕死から健康体になるなんて信じられませんが……生命力が相当お強いようですね」

「まあそれが取り柄なんでね。それと男性保護法について聞きたい事があるんだけどいいかな」

「構いませんよ」

「精子提供が週に1回なのは何故? 人口を増やしたいのならもっと回数を増やすべきだと思うけど」

「それは男性の精力の問題ですね。男性はどんなに頑張っても週に1回程度しか精子提供ができません。これはどの要塞でも研究結果は同じです。そのため週に1回と定められています」

「そっか。ありがとう」


 聞きたいことは聞けた。なのでこのまま俺の邸宅になる場所へ移動する。ひと月ぶりに建物の外に出て、街の空気を吸う。空気が美味しいと感じるのは気のせいだろうか。

 そのままクールスに乗って移動を開始する。そして流れる街並みを眺めながら移動し、クールスでおよそ15分ほどの場所の庭付きの邸宅に到着した。


「ここが今日から俺の家?」

「はい、ここがアルス様の家となります」

「広いねえ」

「もともとは護衛も一緒に住めるように設計されておりましたので」

「それなのに護衛が機能していないのか……」


 世の男は本当に何をしているのやら。取り敢えず荷物を邸宅の中に運んでもらう。そして玄関に荷物を置いて研究者とスーツを着た女性たちは帰って行った。残ったのは俺とE11小隊の面々のみだ。

 まずは家の中の探索からしよう。玄関から歩いて最初に広いリビングが目に入る。そしてリビングに続いてダイニング。キッチンも用意してある。オーブンやら機械がたくさん置いてあるがどれも使い方が分からん。


「ツィエラ、あのオーブンって最新式のじゃない?」

「本当ね、男性の家ってあんなものまで用意されるのね……」

「私たちの寮にもあのオーブンは欲しいわね」


 珍しくフィオーネまでオーブンについて言及している。オーブンどころか電気による発電供給も受けているため、冷蔵庫などもある。しかもでかい。明らかに1人暮らし用のものではないな。

 それに調理器具も一式揃っている。フライパンから包丁まで綺麗にしまってある。


 それから2階にあがり、各部屋を見ていくと、2階の部屋はどこもほとんど変化はなかった。1室だけ広い部屋があって、そこが男性用の部屋らしい。というか2階に部屋が7部屋あったのはあれか、小隊をまるごと入れるための部屋なのか?


「流石は男性の邸宅ですね、私たちの寮より設備もしっかりしてますし何より広いです」

「そうね、今までの男性は小隊を家に入れたことは無いらしいけど、アルス様ならありえるからこの邸宅になったのかしら」

「ああ、それはありそう。他の男性宅ってもっと小さいもんね」

「え、本当に?」

「本当ですよ、他の男性宅はこんなに広くありませんし部屋数も多くないです」


 なんか俺の待遇って相当高いような気がしてきたぞ……。


「なあフィオーネ、もしかして俺の待遇って他の男性より良いの?」

「そうですね、客観的に見ても優遇されているかと。ですが能力などを鑑みたうえでの判断でしょうからある意味当然かと」

「回復魔法使えて狙撃ができるだけだぞ?」

「その両方が軍でも上位に食い込むレベルでできるのですから当然です。特に回復魔法は欠損部位の治療ができますので。これだけはどこの要塞を探してもアルス様以外にはできないでしょう」

「回復魔法の使い手、本当に減ったんだな……」


 そのまま1階に降りて今度は庭を見る。庭は花壇があり、花が咲いている。普通に庭の中を歩いて1周すれば数分はかかるだろうレベルの広さだ。なんか池まであるし。というか魚が泳いでるよ。この魚は非常食か?


「庭、広いわね……」

「私たちの寮、何一つ勝てるところがないわね……」

「アルス様、今度あのオーブン使わせてください!」

「いいよ」

「いいんですか! いつ頃なら予定空いてますか?」

「基本的にいつでもいい。でも生活に慣れたら図書館に通うだろうから早めにしたほうがいいかも」


 退院したし統合語も読めるようになったから今度は俺が封印されてから何があったのか調べるために図書館とやらに行くつもりだ。本屋で本を買うよりは効率的だろう。もしかしたらそれでモンストルムの発生やら世界から男が消えた理由が分かるかもしれないからな。


「じゃあ明日の午後に伺ってもいいですか!」

「分かった、明日の午後は家にいるよ」


 こうして明日の午後はベロニカがオーブンを使いにくることになった。

 そして荷物を自室に引き上げて、杖を背中に装備してから買い物に行くことにした。のだが、よく考えたら俺は銅貨一枚すら持ってない。


「なあツィエラ、俺金持ってないんだけど今日からご飯はどうしたらいいんだ?」

「今日の分は私たちが預かってるわ。だからこのまま買い物に行きましょう」

「そっか。なら良かった。で、明日からは?」

「それは明日来る使用人に聞いてちょうだい」

「使用人、美人だといいなあ……」


 そんなことを思いながら俺はツィエラの案内に従ってマーケットに行くのだった。そして懐かしのジャガイモやにんじんを見ては驚き、知らない野菜を見つけてはこれは何と聞いて回ってかなり目立ってしまったが、フィオーネからは新しい男性として認知される分には構わないので今日はその調子で大丈夫ですと言われた。


 そして満足いくまで買い物をして、家に帰ってきた。今日の料理はカレーにしよう。スパイスも売っていたし何とか作れるだろ。というか帝国時代の食べ物が結構残ってるって不思議だな。


 なんて思いながら調理をしようとすると、


「あれ、アルス様って料理できるんですか?」

「ん? まあ少しだけな。昔は孤児院でシスターの手伝いとかしてたし」

「へぇ、孤児院で手伝いですか。なんかあまり似合いませんね」

「ほっとけ」

「そうね、どちらかというと兵士ってイメージの方が強いわね」


 兵士。帝国兵団の試験自体は受けたし合格もした。だが誘拐されたせいで兵士にはなれなかった。兵士、なりたかったなあ……。


「本当だったら兵士になるはずだったんだ」

「本当だったら?」

「ああ、狙撃兵の入団試験結果を見て合格してるところまでは良かったんだけど、その直後に誘拐されて成長防止措置をされて封印されたから、俺は結局兵士にはなれなかった」

「……ごめんなさい」

「別に気にしてないさ。もう過ぎ去ったことだし、時代的には何百年も前の話だ」


 そう言いながら肉を炒めて野菜を切る。そしてその間にスパイスを調合して磨り潰していく。肉の表面が焼けたら一度肉を取り出し、玉ねぎを炒めてスパイスと水をいれて、野菜を追加してから肉を入れて煮込んでいく。少し前まではシスターがよく作ってくれた料理だ。だけど俺1人で作った料理じゃシスターの味には届かないんだろうな……。


 そしてあと少し煮込めば完成するというところで、


「それじゃあアルス様、私たちは任務終了時刻だからそろそろ帰るわ。今夜はこの邸宅に護衛が付いてるから安心して眠って大丈夫よ。あと男性の住居周りには定期的に巡回している警備兵もいるから治安もいいわ。でも可能なら護衛小隊を付けておいた方がいいわよ。身近にいた方が護衛はしやすいから。それじゃあね」

「アルス様、また明日!」

「アルス様、失礼します」


 そう言って3人とも自分の寮に帰って行った。そして急に1人になって静寂が周囲を満たす。1人ってこんなに静かなものなんだな。入院中は基本的に室内に誰かいたし、呼べばツィエラかベロニカが来てくれたから1人って感じはしなかったけど、こうやって本当に1人になると結構寂しさを感じる。それこそついこの間まで俺の記憶の中では帝国の孤児院で暮らしていたんだ。チビ共の声だって聞こえるあの元気のいい孤児院にいたから1人になる時間なんてほとんどなかった。


「1人って結構心にくるな」


 まあ、それもその内なれるだろうと思い、カレーを煮込んで、マーケットで買ったパンを用意する。そして皿によそって7人掛けのテーブルに着き、夕食を1人で食べ始める。まあ、初めて1人で作ったにしては上出来だろう。だけど、


「シスターの味には程遠いな」


 時の流れは残酷で。俺が目覚めた時には何もかもが変わっていた。残っているものなんてちょっとした言葉くらいで。変わっていないものなんてなくて。ただ1人生き残ってしまった。ただ1人取り残されてしまった。そんな気がして仕方がない。だけど時の流れは残酷ではあるが、確実に前に進ませてくれる。

 明日からまた新しい生活を始めよう。差し当たっては、取り敢えず図書館で情報を集めるところからだな。

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