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「まずは御召し替えを致しましょう。よろしいですか? ユイネ様」
挨拶を終えた後、フティさんが有無を言わさぬ勢いで言った。女官長のフティさんはびしりと法衣を着こなし、ぴんと背筋の伸びた迫力のある女性だった。金色の長い髪を高い位置でお団子にして、ほつれ毛の一本もない見事なまとめっぷり。少し吊り目の瞳に意思の強そうな唇。その口元にうっすらとほくろがあった。四十代半ばの、ばりばり働くキャリアウーマンといった雰囲気。完全に気押されている私は頭ぼさぼさ、だぼだぼスウェット、という格好でとりあえずこっくりと頷いた。
やっぱり世界は違えど、私のこのだらしない格好は寝間着姿だと判断されたみたい。
「ティエルファイス様もどうか御召し替えを」
「はあい」
「ではのちほど、来賓の間におうかがい致します」
「ユイネ。またあとでね」
フティさんが主導権を握り、きびきびと次の展開を決めてゆく。仕事が出来る人って、似たようなオーラというか雰囲気を持っているように思う。隙がない。
「ユイネ様、こちらに」
フティさんが腰を折って軽く会釈をしたまま、す、と腕を伸ばして誘導してくれる。恐縮しつつ従うと、一歩半先を歩きながら、ちら、とこちらを振り返った。
「そちらの少女は……」
「あ、え、えと、ふーちゃんって言います」
タロさんから生まれた害のない『負』の女の子。我ながら安直だとは思うけど鈍い頭で必死に考えた結果、これが一番しっくりくる名前だった。すると女の子が私を見上げて、ぱっちりおめめをきらきら輝かせて喜んだ。
「あたちのなまえっ」
「うん。ふーちゃん。どう?」
「うれちいっ。ゆいねだいすき!」
ちっちゃな手が、私の腕をぎゅうと掴んだ。ああ……めろっとしてしまう。ここに来て緊張しっぱなしの心が、ほっこりと膨らんでいく。
「フウ様、ですね。御召し替えはいかが致しましょう?」
ふるふるとふーちゃんが首を振ったので、大丈夫みたいです、とフティさんに返事をかえした。
「かしこまりました」
一瞬だけ、ちらりとふーちゃんに視線を向けたフティさんの目元があたたかく和らいだ。ああそうか。彼女はきっと、お母さんだ。そう思うと私の緊張も少しだけ解けていった。異世界だといっても、人は人のままだ。立派な神官さんや上品な女官さんだといっても、誰かの親で誰かの子供。そう思うとなんだかほっとしてくるのが不思議だ。
高価そうな絨毯が敷き詰められた廊下を歩いていくと、また重厚な扉が見えてきた。
ちりりん。
どこからか鈴の音が聞こえて目の前にある両開きの扉が、すう、と開かれた。
じ、自動ドア!?
と思ったけれど、向こう側に二人の女官さんがいて、その人達が扉を開いたのだと分かった。すごすぎる……。
「あ、すみません」
深々とお辞儀をしているので顔は見えなかったが、私もお辞儀を返しながらそこを通り過ぎる。それから顔を上げて、驚いた。