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004

 テル君と、あの大きな男の人が住んでいる世界はガルクループという世界? 星? らしい。

 そこは私のいるこの場所と対して変わらないのだという。


「人も動物も万物の流れもだいたいが似てる。人は食べて寝て、仕事をして人を愛する。寿命も八十年くらいかな。見ての通り、姿形も機能も一緒さ。ただ一つ、違う点があるんだ。僕らの世界の住人達は、自分達が生きている世界の他にも、全く異なる空間がある事を知っている」


 四つの世界とつながっている扉が、その世界には存在している。


「異世界とつながる扉も、四つある。その扉を守る者が、四人いる。別の世界で良からぬ事をしようと企む奴もいるし、何より簡単に行き来しちゃまずいんだ。秩序が乱れバランスが崩れ、世界の消滅を引き起こす要因になってしまうから。力の均衡を調整し監視する役割を持つ者。特別な力を与えられし一族の末裔。それがもりびとと呼ばれる存在」

「もりびと?」

「うん。守り人。こっちの世界では、人外様って呼ばれていた時期もある」


 はっとした。

 じんがいさま。

 それは私が生まれた場所、母の故郷にあった。その村の古ぼけた神社に祀られていたかみさまの名前だ。


「今ユイネのベッドで眠っているのが、それだよ」

「か……かみさまっ!?」

「うーん。そんなに上等な奴じゃないけど」


 守り人と呼ばれる四人は、それはそれは特別で、特殊で異端で、異能の人々なのだそうだ。

 テル君達の世界でもかみさまのように、もしくはそれ以上に讃えられ崇められる偉大な存在だという。


「寿命はざっと千年。特殊な力を使って扉を管理し、世界のバランスを整える。あいつが守らなくちゃいけないのが、この世界と、こことつながっている扉。いつもはガルクループにいて、この世界を管理してるんだ」


 どうしよう……もうついていけない。

 私は湯気の立っているコーヒーをずずず、と啜った。テル君はそんな私にお構いなしに淡々と話を続ける。


「四つの世界の全てを創ったといわれるガリオレス一族の末裔である彼らは、想像もつかないような絶大な力を持ってるんだ。その力が一番強くなるある一定の年齢から、時の流れが変化する。だいたい十八才くらいから驚くほどゆっくりにしか年を取らなくなる。普通のごく真っ当な巡りから外れて、千年という気の遠くなるような永い年月を、扉と世界を守る為に生き続けるんだ」


 それって……。何だか少し可哀そう。

 テル君は私の考えている事を読み取ったようにこっくりと頷いた。


「その守り人には、半身がいるんだ。対というのかな、ユイネの世界では伴侶って言葉が近い。守り人は伴侶を持つ事によって、守り人自身の均衡を保つ。心と身体と力のバランスを保つ為には、伴侶の力が必要なんだ。……力というか、気というか、生命力みたいなもの」

「愛の力?」

「ぷっ……。可愛い発想だね」


 じわ、と顔が熱くなってもじもじとして俯いてしまう。いい年した大人が、少年にからかわれて顔を赤くするなんて、と思うと余計に恥ずかしい。


「でもそういう事。守り人だって元は人間だもん。一人では折れてしまうよ。伴侶は本人が決める。魂の好みがあるからね。ただその伴侶は一族の者ではないから短命だ。だから、新しい命を授ける。それが漆黒の珠」


 ぎょっとして目を見開く。まさか、まさか……。


「伴侶として選んだ相手に珠を渡して、相手が了承すれば契約成立。伴侶に選ばれた者も、その時点で人としての輪廻の輪から外れる事になる。漆黒の珠は、守り人のもう一つの命。たった一つしかない、唯一無二のたった一人に、託すもの」


 私は慌てて立ち上がり、ソファに置いた鞄の中からお守りを取り出した。ううん、これは私のお守りなんかじゃなかった。大事な大事な、守り人さんの命。

 手の中にある黒くてまん丸で、すべすべの珠を、テル君に差し出した。


「ご、ごめんなさい。そんな大事なものだとは知らずに、私、私ったら! これ、返しますっ」


 テル君は刹那、大きな瞳を更に大きくして、それから笑った。


「うん。どうも。ユイネって何でもすぐに信じてしまうの? 危なっかしいなあ」


 長い指をした繊細な手が伸びて、その珠を受け取った。

 そういう訳ではないんだけど……。信じるしかない気がする。

 だって瞬間移動とか、一瞬で服が乾いてしまったりだとか、マンガみたいな事ばかり起きてる。


「あともう少し。座って、ユイネ」


 テル君の右手にある私のお守り……いや違った、漆黒の珠をじっと見つめていた私は、おずおずとまた腰を下ろした。


「次に僕の事。僕は人間じゃない。守り人でもない。この世に肉体の存在しない存在」


 な、なんと!?


 愕然として、目の前に座っているとても綺麗な男の子の顔を凝視する。

 え、でも……確かに存在してる。その茶色の髪も色白の肌も、きちんと現実に、ある。テーブルに肘をついているテル君の腕に、私は無意識に手を伸ばしていた。

 灰色のパーカーに包まれた腕は、確かに存在してる。その腕に私の指先が触れるか触れないか、と言う時。

 無音のまま、テル君は消えた。

 一瞬にして目の前がからっぽの空席になった。それこそ忽然と。向こうの窓が見え青色のカーテンが見える。テーブルの上の二つのマグカップから、ぼんやりと湯気が立っている。その横にころんと漆黒の珠。置いてけぼりをくったように私一人が、ぽつんとそこにいた。


「……テル君?」


 情けない程に、掠れた声しか出なかった。






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