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 テルが幾度となく咎めるので、多少なりとも気を使っているつもりだ。

 極力怒鳴らないようにしているし、睨まないようにも心がけている。目つきが悪く態度が偉そうに見えるのは、まあ、仕方ない。生まれつきだ。

 この俺が、神だと人々に崇められるこの俺が、これだけ心を砕いてやっているにも関わらず、何なんだお前は。


「ユイネっ! どうしてお前はまた心を閉ざすんだ! 何が気に入らん!?」

「うっ……ちょ、ま、まず離してくださいっ」


 むっとしながらも力を緩め解放してやると、ふらふらと俺の腕の中から逃げようとするので、がし、と腕を掴んだ。すると今にも食われんとする小動物のような怯えた目で俺を見上げる。


「い、色々言いたいんですけど、良いですか」

「お前は逆らってばかりいるからな。もう慣れたぞ。言ってみろ」


 眉を下げ困ったような迷惑そうな表情のユイネは、俺に掴まれた腕に視線を落として口を開いた。


「あの、気なら、テル君経由でお願いしたいんですけど」

「却下だ」

「なんで……」

「こう見えても毎日遊んでいる訳ではないぞ。日々この世界の均衡を保つ為に、『負』を見つけては消しているのだ。かなり辛いんだぞ俺は。お前から直接気を得た方が良いに決まってる」

「で、でも、心を開くとかってそんな簡単には」

「テルには出来て何故俺に出来んのだ!? あれは俺の一部だぞ」

「だって、タロさん」

「何だっ」


 ユイネは、う、と言葉を詰まらせ沈黙した。俺が何だ。くそ。苛々する奴だな。


「さっさと言わんか!」

 

 細い両腕を鷲掴んでがくがく揺さぶってやる。


「こ、怖いんですっ!」

「なにぃっ。どこがどう怖いというのだ! これ程優しくしてやっているのにか!?」

「どこがどう優しいっていうの。馬鹿タロっ」


 思い切り背中をどつかれ、その衝撃に掴んでいたユイネの腕を手放した。固いもので殴られたようで背骨がじんじんと痛み、たまらず背に手を回して顔をしかめた。テルが素早く前に回り、俺とユイネの間に立ちふさがる。


「くっ……痛いぞ!」

「当たり前だよ。手加減なしで殴ったんだもん」


 美しい子どもは不敵に笑い、片手に握っているお玉を振って見せた。背後にいるユイネが笑いをこらえている。


「……邪魔だ」

「わっ。馬鹿! それはずる……」


 言い終わらない内に、テルを消して俺の中に収めた。こつん、とお玉が床に転がり、目を見開いて硬直しているユイネが一人、残される。


「お、横暴ですっ!」

「何とでも言え。主の俺に逆らうとこうなる。さあユイネ。俺に色々言いたい事があるんだろう!?」


 慈悲深い俺はユイネとの距離を縮めずに、その場で腕を組んで仁王立ちした。


「……あの私、容姿が整ってて美形の人ってすごく苦手で、ただでさえ緊張するんです」

「それで」

「えと、タロさんは背も大きいし、何て言うか威圧的で」

「だから?」

「ええと、だから……」

「もう良い。お前が心を開かんのなら、俺にも考えがある」


 え、と顔を上げたユイネの間抜けづらを見据えて続ける。


「体液を交換すれば良いのだ」


 告げると、ユイネは瞬間に顔を真っ赤にして両手をぶんぶん振りながら後ずさっていく。一歩俺が近づくと、慌てて声を上げた。


「だからそれは出来ませんって」

「儀式だと思え」

「お、思えません!」

「この世界がどうなっても良いのか!? お前の気がなければ俺は守り人の力を発揮出来んのだ。それでまた天変地異が起きても良いのか!?」

「ううっ」


 顔をゆでダコのように赤くしているユイネを壁際まで追い込んで、じっと見下ろす。相手が俯いているので焦茶色の柔らかそうな髪に唇を押し当てる。すると小さな身体がますます縮こまった。


「か、かみさまがこんなパワハラするなんてっ。それにこれ、セ、セクハラです」


 意味が分からん。


「何ハラだか知らんが、俺はお前を脅迫しているのだ」

「……分かってて言ってるんですか。余計にたちが悪……」

「何か言ったか」

「……い、いえ」


 脅迫しようが何しようが、俺はお前の気が欲しい。出来れば俺に心を開いて欲しい。この世界にいる僅かな時の間だけでも、そのあたたかな魂に触れていたいのだ。こうしていられる時が長くは続かないと分かっているから、無理を押してでも求めるのだ。


「あああ、あの! それからっ」

「何だ。まだ言うつもりか」


 やはり、こいつは意外に頑固だ。俺を怖がるくせに、言う事だけはちゃんと言う。


「毎朝、こういうのやめてください。仕事に遅れちゃ、困るんです!」


 叫びながら俺を両手でぐいと押しやり、逃げていった。


「くそ……だめか」


──あーあ。これ以上嫌われてどうすんのさ。君って不器用すぎ──


「五月蠅い」


 

 



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