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9 新しい未来

大広間が静寂に包まれた。

誰もミカエルの言ったことが理解出来ず、言葉を発することが出来ない。

そしてそれはニナも一緒だった。


(え、婚約破棄って言った?

……ゲームにそんなシナリオなんて無いよね!?)


静寂を一番に破ったのは、当事者であるクララ・パスカルだった。


「ミ、ミカエル……?あなた何を言っているの?婚約破棄って……?」


混乱しながらも、ミカエルの体に触れようとする手を、彼は支えた。

それは彼女を思いやる仕草ではなく、やんわりとした拒絶だった。


「今言った通りだ。君とは婚約破棄をする」


「え、何?……ごめんなさい、あなたの言っていることが理解出来ない。私達、愛し合ってこの前婚約したばかりじゃない」


ようやく絞り出した言葉を口にするクララに、ミカエルは諭すように言った。


「そうだね。そして、君は私以外にも愛する人がいた。我が国の四大公爵の令息達にも同じように愛を囁いていただろう?それも、私達の婚約発表パーティーで」


ミカエルの落ち着いているが良く通る声で、再び大広間が衝撃に包まれる。

参加していた貴族達もようやく周りと話をし出す。


「婚約破棄!?」

「男爵令嬢の身分で、王族と四大公爵家を手玉に取るなんて……」

「なんて不敬な。処刑にも値する所業だ」


そして、その衝撃は別の方向でも発揮していた。


浮気相手とされた公爵令息達だ。今日欠席しているニナの兄、アラン以外の攻略キャラクター達が今にも崩れ落ちそうになっていた。


「クララ……?嘘だろう?私だけだと言っていたでは無いか!!」


「ミカエルと結ばれるのならと思っていたのに、まさか他の奴らにも愛を囁いていたなんて!!」


「信じられない。純真なクララがそんなことをする訳がない!」


大騒ぎする彼らの様子が、クララ・パスカルが浮気したという何よりの証拠となった。

行く行くは国の中心となる彼らに今から媚びを売ろうと集まっていた貴族達は一瞬で距離を取り、寂しいスポットライトを浴びているようになっている。


彼らの混乱を意に介さず、ミカエルは続けた。


「この婚約破棄はすでに王も知っており、正式に受理されている。……王族と婚約していた者と不貞をしたことは、不敬にあたりその沙汰は追って下されるだろう」


それに公爵令息達は言葉が紡げなかった。

美しい純愛に準じたと思っていたが、メッキを剥がせば王族への不敬に他ならない。

自分達がしていたことを自覚して、今更だが恐ろしくなったのだ。


その中でも、ミカエルと親友のような間柄だったモーリス・ボーヴォワールがすがりつくような目を向ける。


「ミ、ミカエル……俺たちの仲じゃないか。若さ故の過ちということで、大事にはしないでくれないか」


それに、残りの二人が続く。


「そ、そうさ。ここで大事にすれば、君の経歴にも傷が付くだろう」


「無かったことにするのが、一番混乱が少ないだろう。国の為を思えば……」


それに、ミカエルは氷のように冷たい声で返した。


「国の為を思うから、お前達を切り捨てるんだ」


今まで共に育った幼なじみとしてのミカエルしか見ていなかった彼らにとって、統治者として絶対的な権力を纏うミカエルの覇気に当てられたのは初めてだったのか、皆、力なくへたり込んだ。


そして残るはクララ・パスカルだけになった。


彼女はまだ状況が受け入れられないのか、周りが理解出来ないことを呟いている。


「なんで!ハッピーエンドを迎えたのに!後は幸せになるだけでしょ!?理解出来ない!私は好感度上げを頑張っただけなのに!」


大広間の中央でみっともなくわめく姿は醜悪だった。

今まで男爵令嬢でありながら王族と婚約した憧れの存在だった。学園での評判も良く、将来の国を背負う公爵令息達からも支持を得ている。

立派な王妃となってくれるだろうという期待があった。


なのに、蓋を開けてみればただの浮気女だった訳だ。


侮蔑の目線を向けられていることに気がつき、クララはうずくまって泣き出した。


「なんで……どうしてよ……私はこんな目にあっていい存在じゃない!」


彼女を見下ろしながら、ミカエルは騎士に指示を出した。


「……落ち着かせる必要があるから連れて行け」


騎士達はクララに手を掛けようとした時に、彼女は思わぬ行動に出た。


「外れルートの攻略対象ごときが、私のことを拒否するなんて許せない!」


突然の豹変に騎士が驚き、動きが一瞬固まってしまう。

その隙にクララはミカエルめがけて走りだした。


皆が衝撃を受ける中、咄嗟に動いたのは一人だった。


「いい加減にしなさい!!」


ミカエルとクララの間に割り込んだ者がいた。


ニナ・ロシュフォールだ。


ニナはクララの前に立ち塞がり、彼女の頬を思い切り打った。

怒りで力がみなぎっていたのか、クララは勢いのまま倒れ込む。

ニナはクララに一喝した。


「自分のやってきたことを考えれば当然でしょう!それに加えて、相手に不満をぶつけるなんてどこまで馬鹿にしているの!」


呆然としているクララに更に追撃をした。


「外れルート!?何を訳のわからないことを!!彼はミカエル・ド・フレー!この国の王太子にして、尊ぶべき存在!舐めた口をきくのは許さない!」


大広間中に、ニナの怒りの声がこだました。

これは、前世の藤川 明日香としての怒りの声でもあった。魅力的で優しい彼が外れ扱いされている。ないがしろにされていることへの怒り。

そして、実際にニナとして生きている彼を見た。国の王太子として誠実に生きる姿。


そう、彼は生きている。ゲームの中だけじゃない。攻略対象として消費されるような存在じゃない。外れといってないがしろにされる存在じゃない。


私達は、そんな存在じゃないのだ。


怒りで震えるニナの肩に、ミカエルの手が触れる。

ニナだけに聞こえる小さな声で、彼は囁いた。


「……ありがとう」


振り返れば、ミカエルの微笑む顔が目の前にあった。


それは見たことが無いものだった。ゲームの中の誠実さの象徴のような正しい笑顔ではない。泣く寸前のような、じんわりとした喜びのような、認められた安心感のような、そんな笑顔。


それはニナだけじゃなく、クララも見たようだった。


正気に戻った騎士に連行されながら、再び騒ぎ出す。


「何その表情!知らない!そんな顔出来るなら初めからミカエルだけだった!やり直す!リセットする!!離してよ!!!」


そんな言葉を残して、彼女は去っていった。


皆呆然としていたが、中でもそのほかの攻略対象はショックが大きいようだった。

初めて見る彼女の姿。純真無垢で、天真爛漫でなクララが口汚く騒ぐ姿は、百年の恋も冷ますものだった。

残ったのは、公爵家の爵位を傷つけた馬鹿息子という自分だけ。


絶望で打ちひしがれて、気絶するものすらいた。


喧噪はミカエルの言葉で切り替えられる。


「皆のもの、騒がせて済まなかった。この婚約は正しく清算し、国を統べる者として再び精進することを誓おう」


彼の落ち着いて、説得力のある声色に心打たれたのか、皆が拍手をし始めた。

けれど、ミカエルの言葉はそれだけでは終わらなかった。


「そして、ニナ・ロシュフォール嬢にも礼を言おう。彼女は自らの家の過ちを自ら申し出た。そして、どんな罰をも受けるとも。そして、こうして自らの身を挺して私を守ってくれた。いろいろな関係を失ったが、新たに気づくことも出来た。……私を救ってくれてありがとう」


そう言って、ミカエルはニナの手を取って口づけをした。


それに歓声が上がる。貴族にとって、自分の家の不始末は隠したいものだが、自ら申し出て、そして女の身でありながら王族を庇った。

これは驚くべきことだった。


彼女はやがて国にとって大きな存在となるかも知れない。


拍手の渦の中で、当のニナは顔を赤くして思考停止していた。


(今、今……ミカエルが私の手にキスした……!?

推しが!!!人生最推しが私の手に……!!!)


呆然と手を見つめるニナに、ミカエルが囁く。


「ニナ、これからも私をそばで支えて欲しい。君が許すなら、生涯共に」




それから数年、めったに無い爵位の変動や王城周りの関係者の改革などが行われた。


よりよい国にするために、今までの慣習も見直され、風通しの良い国作りが行われていくことになる。


それを中心となって進めたミカエルが王となった時に、隣にいたのはニナ・ロシュフォール。

兄の影に隠れて、脇役のような存在だった彼女は、あの婚約破棄の出来事以来、ミカエルと共に国を支えて奔走した。


いつの間にか熱烈にアプローチをするようになったミカエルに、照れて顔も見れなくなっていたニナだったが、いつしか二人の間に愛が芽生え婚約をした。


結婚式の日、国民の前に現れた二人は美しく、仲睦まじく微笑み合っていた。



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― 新着の感想 ―
ロシュフォール家、断絶しちゃわない……?
最後が駆け足でちょっともったいなかった。 2人がラブラブになっていく所も見たかったなぁ。
ヘマした兄を持つ主人公を妃にするにはいろいろ工作が必要だったろうなあ。
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