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花畑での目覚め

 ──静かだ。風が気持ちいい。

耳を澄ませて見ても風の音と、木々の葉の音しか聞こえない。

菜乃花はゆっくりと目を開く。

そこは一面に白く小さな花がゆらゆらと風に吹かれている花畑だった。それぞれがいきいきと咲き誇っている。

まるで夢の中にいるみたいだ。


「…ここ、どこ…?」


思い出そうとしても、記憶に霧がかかったようにモヤモヤとして何故ここにいるのか、何をしていたのか、全く思い出せない。

その意識の中で、自分が誰なのかだけははっきりとしていてそれだけは、ちゃんとわかった。

今年の春から高校1年生。名前は瀬戸(せと)菜乃花(なのか)


菜乃花は、誰にでも優しく接する女の子。

その反面人に頼ったり、弱音を見せるのが少し苦手だった。

友達がいないわけではない。でも、ほんの少しの距離感を自分から縮めることができなかった。


本音を話すことで、もしも拒まれてしまったら──

そんな不安がいつも胸の奥の底にあって、それが言葉を飲み込ませた。


けれど最近、少しずつではあるけれど、自分を変えたいと思うようになっていた。

ほんの少しでいい。その小さな1歩を踏み出そうと決めていた。


そう──そうだった。


段々菜乃花の記憶が呼び覚まされていく。

母の命日が近づいてきて、ずっと向き合って来なかった記憶が、心の奥でうずき出していた。

だから、思い切って決めたのだ。何年も籠ったままの父を誘って、一緒にお墓参りへ行こうと。

それは、菜乃花にとってとても勇気のいることだったが、やっと伝えたいと思えたから。


幼い頃に病気で亡くなった母のことは、ほとんど覚えて居なくて曖昧になっていた。

けれど──あの花の記憶だけは、不思議と色褪せずに、心のどこかでずっと咲いていた。


小さくて、白くて、儚げな雰囲気をまとった、優しいあの花──


「…カスミソウ」


その言葉を口に出した途端、なぜだか胸が少し締め付けられたような気がした。周りに咲き誇る白い無数の花々──それがカスミソウであることにようやく気づく。ふわりと風が吹き、花たちが淡く揺れる。その景色はどこか懐かしくて、心の奥底に触れられたようなそんな気がした。忘れていた何かが思い出せそうで、あと一歩で届かない。


菜乃花は風に誘われて、背中を押されるように自然と足が前に出た。

知らない場所…知らないはずなのに、なぜだろう。

足元の道も。遠くに見えるあの坂道も。ずっと昔に出会っていたような気がしてならない。


しばらく歩いていると、坂の上にポツンと立つ墓地が見えた。まるで、足が勝手に動き出したかのように止まらない。一歩、また一歩と足が自然と前に出る。

頭では覚えていなくても、身体が覚えているような感覚。

ゆるやかな坂を登りきる頃には、菜乃花は小さく呼吸を整えて、墓地の入口に立っていた。


息を整えてからゆっくりと中へ入り、ひとつの墓石の前で脚を止める。

その名前を見たとき、胸に引っかかったのだ。


「陽菜……瀬戸陽菜」

「お母さんだ」


そこには亡くなった母の名前が刻まれていた。

忘れかけていたなにかが少しずつ蘇ってくる。この場所には何年も来ていなかった。そのことで、ずっと引っかかっていたのかも。

もしかして、呼ばれたのかな。そんなことを考えて、久しぶりに墓前に手を合わせて、深く息を吸う。


―その時、小さな頃の記憶を思い出した。

小さな子供は何に対しても疑問を持つもので、持病で病室から出られない母親の元へ毎日通って、他愛もない話をしては質問を繰り返していた。


「ねぇ、おかーさん。どうしておかーさんの名前は陽菜なの?」


母はゆっくり私の方へ顔を向けて、優しく微笑んでから、私の母がくれたプレゼントなんだ。と答えてくれた。


「じゃあ、菜乃花の名前もお母さんがつけてくれたの?」


母は穏やかに頷いて、少し照れたように言った。

「菜乃花には“ある願い”が込められてるのよ。

それはね──お母さんはそんな風に育ってほしいなって」

私が首をかしげて尋ねると、母はふわりと微笑んで、こう続けた。


「大人になったらわかるわ。名前にはね、どれも意味があるのよ」


どうしてだろう。肝心なところが思い出せない。

お母さんからもらった、最初で最後のプレゼントだったのに。少しモヤモヤとした気持ちを胸に、丘を下っていく。その途中で違和感に気づいた。

すれ違っていく人達が、誰一人として自分が見えていないようなのだ。挨拶をしても無視。犬には吠えられ、タクシーに向かってジェスチャーを送っても反応がない。菜乃花は仕方なく、そのまま歩いて帰ることにした。

そして、自分の携帯を頼りに家に帰りドアを開ける。

「ただいま」

その言葉に返事はない。いつも通りだ。父は自分の部屋に籠りきり。母が病気で亡くなってからは、全く元気がない。優しかったけれど、どこか静かで、今にも壊れそうで。そんな父を悲しませたくない。苦しませたくない。その一心でずっと言いたいことも飲み込んできていた。

だけどこれだけは、返事はなくても、この言葉だけは必ず言うようにしていたのだ。

だけど、今日の違和感はなんだろう。なにかが違う。ナニカがおかしい。決定的にどこかが、ズレている。


少し怖くなり、その夜菜乃花は一人で家を飛び出して、街灯と月明かりが照らしだした夜の街を歩く。

そしてその散歩で、ある“道端の花束”に足を止める事になる。

はじめて小説書きました。ちょっと緊張してます。

全部で4話書くつもりなので、残り3話ですね。頑張ります!

暖かい感想くるといいな

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