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不変


「ねーえさん。何してるの〜?」


一番街へと歩いていれば、間延びした気怠そうな声が上空から降ってきた。


「…」


バサリ、羽を纏う彼へと顔を向けた。その隣には同じ顔。


「煩いのが来たわね。見て分かるでしょう?歩いてるのよ。」


ばさりばさり、千金楽の頭上に留まる彼らを一瞥し、彼女は興味が無いかのようにまた前を向いた。


「なあ、兄弟きょうだい

「ああ、弟兄きょうだい


ニ人はニヤリとほくそ笑むと、二人の片腕が千金楽の両脇の下へと回る。荷物でも運ぶかのように持ち上げる所為でぶらりと彼女の体が宙へと浮き上がる。


「……何をするの、降ろしなさい」


千金楽の小さな体は高く上がって行くにつれぶらりぶらりと揺れる。


「父様に呼ばれてるんだろ?連れて行ってやるよ」


意地の悪そうな顔で顔を覗き込んでくる男をじとりと一瞥するが、この男達には無駄な行為でしか無いと分かっていた。それを証拠に鶴松つるまつはケラケラと笑っている。


「鶴松やめたげなよ、姉さんが怒ってるじゃん」


姉さんごめんね、と眉を下げながら謝まってくる松鶴しょかくに怒っていないと告げると、彼はにこりと微笑む。


「……もういいわ。それよりも腕が痛いのよ。抱きかかえるなりおぶるなり、少し相手のことも考えてくれない?」


「ええ?なんで。僕達は別に運びたくて運んでる訳じゃないんだから、そこは姉さんが我慢しないと。」


松鶴はまるで理解が出来ないと言うようにきょとんと首を傾げた。


「……そうね。」


ならば運ばなければいい、その言葉は飲み込んだ。面倒臭い双子とは極力関わらないのが一番良い。その思いに気付いたのかはたまた興味が失せたのか、多分否、確実に後者で有るだろうが、まるで千金楽が存在しないかのように二人での掛け合いへと変わっていた。


かなりの速さで飛んでいるのか体が後ろへ飛ばされてしまいそうなのを力を入れて耐える。


下をみれば亡者と戦っている神使達が見えた。もう三番街まで来たようだ。上空からでも見ても圧倒的に不利な状況に溜息をつく。


「だから言ったじゃない」


小さく独り言ちた言葉は風に流れて双子には聞こえなかったようだ。相も変わらず二人の途切れ無い掛け合いに感心しながら片脚を思い切り振り上げた。

そのまま背中側へくるりと回れば脇に引っ掛けられていただけの腕はするり、簡単に外れた。



「あれぇ」

「あ゛ぁ?」


突然の行動だったせいか双子も反応が遅れたようだった。背後に回った千金楽に釣られるように振り向いた。


ふわりと浮き上がっていた千金楽の体は、そのまま三番街へと落下し始める。


「じゃあね」

彼らに別れの挨拶をすませば、彼女は背中に引っ提げでいた刀を抜いた。


頭から急降下する千金楽に双子は何かを叫んでいるが最早彼女には聞こえていない。地上に近づくにつれ早鐘の音が大きくなりそれに混じって亡者の咆哮が耳を劈いた。


おどろおどろしいドロドロとした黒い液体を撒き散らしながら大きな図体を引き摺り前へ前へと神使を巻き込み進んでいる。


「可哀想に」


溢れた言葉と共に刃先を亡者のど真ん中へと向ける。勢い付いたままズシャリ、亡者の体のど真ん中を切り裂けばそのままずぶりと千金楽の体は亡者の中へと呑み込まれた。


―――――ちりん



彼女が亡者の腹辺りを真横に切り裂いたのは一瞬だった。

何事も無かったかのように切り捨てられた亡者の中から出てきた彼女は、目の前にいる神使へと目を向けた。


「到底敵うはずもない敵に抗うのか、人間は。なんて無情、なんて無様。」


真っ黒な亡者の液体を頭から被ったまま彼女は神使達へ心底軽蔑するかのような言葉を淡々と吐きすて、動きを止めた亡者へと向き直る。先の攻撃で見つけた亡者が持つ魂の場所に呪符を貼り付ける為だ。


「悪しき災いに堕ちた魂よ、刻下より我が身と共にあらんことを」


そして、呪詛を唱えた。



『…ゔぅ、ぅ、がぁ゛!!……ぃ゛だい、…だ、…たすげ、でっ』


真っ黒の炎に包まれた亡者は千金楽に手だったろう物を伸ばす。それを彼女は掴み、ぽつり言葉を溢した。


「ごめんね」


轟々と燃え盛る炎は千金楽を燃やすことは無く、亡者だけを燃やし尽くし、やがて灰になった。

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