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1杯の珈琲と共に~喫茶店Lian~  作者: サカペン
1/1

はじまりは1杯の珈琲から

1杯目


その日僕は、宛てもなく歩いていた。

背中にはリュックサック、右手には残り僅かとなったペットボトル。

目的地は無い。今の僕にはどこに行きたいのか、何をしたいのか、

何が出来るのか、何も考えられない。


昨日まで働いていた。

大手企業の支店の1つ、チームリーダーを任されていた。

当時の僕は、きっと責任と仕事量の多さに忙殺されていたのだろう。

終わらない仕事、上司からの叱責、聞く耳を持たない部下。

お客さんからのクレームに胃をキリキリとさせながらも、今まで何とかやってきた。

身体に不調が起こりだしたのは3か月前のことだ。


夜、眠気が来なくていつまでも寝ることが事が出来なかった。

仕事が終わらない、やることが脳内を駆け巡る。常に頭の中は仕事で埋め尽くされていた。

逆に早く寝ることができたと思えば、今度は朝起きることが出来なくなった。

脳は目覚めている。でも身体が動かない。

起きないといけないのに、身体を起こすことができない。


どうしたんだろう、なんで動かないんだろう。

最初は疲れてるのか、睡眠時間が足りてないせいだと思っていた。

でもまだ、やれていた。寝坊しかけることがあっても、僕は部下もいる、

数字を追っていかなければならない。

まだまだやれる。


2か月前

仕事でクレーム対応をしていた時、呼吸が荒くなるのを感じた。

(落ち着け、落ち着け、ゆっくり呼吸しないと)

心の中でうっすらと限界の2文字が浮かんだ。

途中から何を言っているのか、理解できなくなっていた。

(まずい、忘れない様にとりあえずメモを取らないと)

メモを取ろうとして手が止まった。

言っている言葉は理解できるのに、なんてメモしたらいいか分からない。

言葉が出てこない。

忘れるわけにはいかないから、何とか言っていることをそのまま書き殴った。

見返してみても、何を書こうとしたのかまったく分からなかった。

いつの間にか、手の震えが止まらなくなっていた。


1か月前

ぼくはいつも電車で会社に向かっていた。

その日も1時間早く行って終わらない仕事を終わらせるつもりだった。

1時間早く起きる為に、3時間早く起きる必要があった、身体を無理やり動かしていた。

アナウンスが聞こえる、電車が入ってくる。

(とりあえず電話掛けして、書類作って、申請も今日中だよな、やること、あと何あったっけ。とにかくやらないと、おわさないと、仕事が終わらない、迷惑をかける、数字が、仕事が、仕事が、仕事が、

しごとが)

電車の音が聞こえてきた。

(あれ、なんでこんなにきついんだ?辛いな。行きたくない。

、、、電車?あぁ、飛べばいいのか、そうだな、とべば楽になれる。

もう何も考えなくていい、怒られなくていい。1歩踏み出すだけじゃないか。

なんでこんな簡単なこと、考えなかったんだろう。)

ぼくの足は、いつもなら1歩下がらないといけない所を前に踏み出していた。

あと2歩進めばいい、あと1歩。あとはただ地面から離れるだけ、それで全部おしまい。

電車のアナウンスが聞こえる。音が遠くなる。









ぼくは、飛び出すのを辞めていた。

(なんで?とべば楽に、いや違う、ぼくは今何をしようとしていた?

飛ぼうとしてた?え?なんで?)

呼吸が荒くなったぼくの脳内は何も答えを返してくれない。

ただ1つだけ、分かっていること。

もう限界だった。


それからは早かった。

仕事を遂行することが困難になった僕を会社は不要と判断を下した。


部下も上司もいない時間に荷物をまとめ、会社から出ていく。

(とりあえず貯金はあるけど、どうしよう。

仕事、できるのかな。)


今はとりあえず、何も考えずに眠りたかった。





僕は今街中を歩いている。

ふと、芳醇な香りに気付いた。

近くに喫茶店があるらしい。

少し寄ってみようか。

(もともと眠気覚ましに飲んでたけど、喫茶店ならコーヒー以外もあるだろうし)


カフェというよりは喫茶店だろう、【喫茶Lian】見た目には緑が生い茂るレンガ作りの建物だ。

窓から見るに、お客さんは1人しかいないようだ。

ここなら静かに過ごせそうだなと思う。

扉を開ける

チリンチリンとドアに付けられた鈴が鳴る

「いらっしゃい」

声と共に、コーヒーの香りが広がる。

(すこしだけ、ちょっと休憩しよう。)

ぼくは一歩、店内へと足を踏み入れた。

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