蘇生
「はじめまして」
「フ、フレッド様!
は、はじめして!」
初めてフレッド様に会った時、私は舞い上がっていた。
いつもルーシー様から聞かされるフレッド様は私の中で神格化されていた。
「フレッドお兄ちゃんはとても優しいのよ!
それでとっても頭が良いの!
それだけじゃなく格好良いのよ!」
とにかくルーシー様はフレッド様の事をべた褒めだった。
いつの間にか私は見た事もないフレッド様に淡い恋心を抱いていた。
「何でそんなに緊張しているのかな?
ルーシーから聞いているよ?
僕と君は親戚だって言うじゃないか。
『フレッド様』じゃなくてルーシーみたいに『お兄ちゃん』で良いんだよ?
ルーシーは君の事を『妹みたいな感じ』と言っていたよ?
ルーシーの妹なら僕の妹みたいなモノだと思うけどな?」
私を覗き込むフレッド様は全く想像のフレッド様とは別人でした。
私の想像のフレッド様は本物のフレッド様に及びもつかなかった。
それから私はフレッド様に夢中だった。
私の恋心を知ってルーシー様は応援してくれた。
しかし、自分の母親を見ていた私は侍女と王族が本当の意味で結ばれる事がない、と知っていた。
だから、私の気持ちはフレッド様には絶対に悟られてはいけない。
私は十五歳になった。
成人の年齢だ。
三歳歳上のフレッド様は十八歳。
最近は凛々しく引き締まられた。
私は正式にルーシー様の侍女となった。
「お兄様の侍女になりたいんじゃないの?
私が推薦しましょうか?」
私のフレッド様への恋心を知っているルーシー様が言ってくる。
悪気はないのだろう。
だが私は初めてルーシー様の好意を『鬱陶しい』と感じてしまった。
私が仕事の合間に一息ついて、お茶を飲んでいた時に後ろから突然声をかけられた。
「リン、今ちょっと良いかな?」
声の主はフレッド様だった。
「も、申し訳ありませんが今、仕事に戻るところですので失礼します!」
私は急いでその場から立ち去ろうとした。
しかし、私が出ようとした扉はフレッド様に立ち塞がれていた。
「リン、僕を避けているよね?
僕、何かリンに嫌われるような事をしたかな?」
「私なんかがフレッド様を嫌うなんて・・・滅相もございません!」
(お慕いしています!)
心の中の絶叫は決して口には出さない。
出しちゃいけない。
物心ついた頃からの大恋愛。
しかし絶対に叶う事のない大恋愛。
「良かった。
リンに嫌われてたんじゃなくて。
最近、その事ばっかりを考えていたよ」
諦めていたはずなのに愚かな期待が顔を出す。
私は十七歳になった。
フレッド様は二十歳。
フレッド様は文武両道、剣では王国騎士でも敵う者はなく、魔力も莫大で魔法の才能もある。
『ルイジアナ王国、建国の祖"アーサー=ルイジアナ"の生まれ変わり』と持て囃された。
「次期国王はフレッド様で間違いなしだ」そう囁く者もいた。
しかしフレッド様には後ろ楯が少ない。
正妻のフレッド様のお母様はフレッド様を産んでしばらくしたら亡くなられた。
それは大した問題ではない。
フレッド様には、弟君にあたるライズ様、王位継承順位第四位の王子がいた。
そのライズ様のお母様、ルーシー様のお母様とは違う側室のリズ様が野心家なのが問題なのだ。
社交会で「次期国王にはライズを」とリズ様は言って回った。
それに怒ったのがフレッド様だ。
「父上が健在で、まだ『王位を次代に譲る』と言っていない段階で次期国王を話題にするのはあまりにも無礼であろう!」
社交の場でフレッド様は妃様を大声で叱責されたのだ。
フレッド様はこの時、己が犯したミスに冷静になってすぐに気付いた。
妃様は正論に対して反省などはしていなかったのだ。
『大勢の人の前で恥をかかされた』とフレッド様を恨み、呪っただけだった。
リズ様の願望は『多くの人の前で、フレッド王子を自分と同じように辱しめたい』という下らないモノだった。
その願望を『自分の意のままに動く者を国王に据えて自分の思うままに王国を動かしたい。賢い王などいらない』と考えている貴族達に利用される事になる。
私は珍しく怒鳴り散らしたフレッド様に話しかけた。
「フレッド様、大丈夫ですか?
お水をお持ちしました」
「ありがとう。
大丈夫だよ、リンが話しかけてくれるなんて珍しいね。
たまには怒鳴ってみるのも良いモンだ」
フレッド様はおどけてみせる。
おどけてはいるけれど、不安は隠せていない。
あの場で妃の失言を誰も諌められなかった、それが今のルイジアナ王国のパワーバランスなのだ。
妃は正妻が亡くなった後、国王の寵愛を一心に受けている。
妃のわがままはとどまるところを知らなかった。
しかし国王は妃を溺愛していて叱る事をしなかった。
国王に取り入ろうとした貴族達は皆、妃に取り入ろうとした。
結果、妃は一大派閥を築く事となった。
だから妃の失言を諌められる人物はフレッド様以外には誰もいなかった。
しかし後ろ楯がほとんどいないフレッド様は今まで妃とは関わらないようにしてきたのだ。
「もしかしたら次代の国王は弟のライズかも知れない」
フレッド様はそれはしょうがない事だと思っていた。
だが、現王が王位を譲らないウチに『次代の国王』について語る妃を放ってはおけなかったのだ。
『自分の亭主だろう?』と。
「フレッド様、顔色が優れませんが・・・」
「ワインに少し酔いが回ってしまったみたいだ。
まったく・・・酒にはまだ慣れないよ」
「無理もありません。
慣れない社交会に慣れないお酒・・・少し休まれたら如何でしょうか?」
「そうだな、少し夜風に当たろうか?
リン、付き合ってくれるか?」
「え?
私ですか?
私はルーシー様の・・・」
「ルーシーの侍女はリンだけじゃないだろ?
僕は今、一人きりだ。
リンは僕を一人きりで外に出させるの?」
「いえ、滅相もございません!」
私はチラリとホールにいるルーシー様に視線を送る。
ルーシー様と他の侍女達は『行け!行け!』と私にジェスチャーを送る。
ルーシー様達はこちらを覗いていたみたいだ。
どうやら彼女達は『恋のキューピッド』気取りのようだ。
「ではご一緒いたします。
バルコニーに出ましょうか?」私はため息をつきながらフレッド様に言う。
「それではお嬢さん、エスコート致します」フレッド様はおどけながら言う。
少し酔っているのもあるだろう。
落ち込んでいる所を見せないようにするのもあるだろう。
バルコニーにある長椅子に二人で腰を下ろす。
何を話せば良いか・・・それだけを私は考えていた。
「何で僕が一人かわかる?」
いきなりフレッド様が聞いて来る。
「え?どういう意味ですか?」
私にはフレッド様の質問の意味がわからなかった。
「何で僕が一人でパーティーに出てるかわかるかい?
ルーシーだってリンやほかの侍女を連れているよね?」
そう言えばそうだ。
貴族の方はみんな取り巻きを連れている。
「何でですか?」
私は問い返す。
「取り巻きの数が支持者の数なんだよ。
おかしいと思わなきゃいけなかった。
何故パーティーに父上が参加していないのか?
ライズの母親は父上にこのパーティーの話をしていないのさ。
このパーティーは『誰の味方をするか、誰を次王に選ぶか?』の意思を候補者に伝えるためのパーティーなんだよ。
僕の周りには圧力がかかってるんだ。
だから僕の侍女などはパーティーへの出席を渋った。
僕はそんな大事なパーティーだとは思ってなかったから侍女達に『無理して参加する事はない』と伝えたのさ」
「そんな・・・ルーシー様は侍女達を何人か連れていますが」
「ルーシーは元々、王位には全く興味がないからね。
『上手くすれば自分の陣営に引き込めるかも』ぐらいの扱いなのさ。
ルーシーはライズと仲が良いからね。
・・・ルーシーはライズの母親は大嫌いみたいだけど」
「フレッド様も妃様とさっき・・・その・・・」
「気を使わなくても良いよ、そう、ライズの母親は僕を"敵"として認識してる。
今回僕は彼女に騙されてこのパーティーに誘い込まれたのさ。
貴族達は取り巻きに囲まれている彼女と、孤立無援の僕を見る訳だ。
『どちらにつくのが賢いか』、立場を決めかねている貴族達は頭の中で計算するんだろうね。
・・・全く、してやられたよ。
彼女の『手段を選ばないやり方』を僕は良く思っていないし、先程は声を荒らげてしまった。
・・・しかしパーティーに父上を呼んでいないのも、父上を蔑ろにしてライズを売り込むのも、やりすぎだ!
それにライズを売り込むパーティーにライズがいないのもおかしい!
ライズの人となりを見て立場を決めさせるならまだしも・・・。
もうやめておこう。
熱くなって良い事など1つもない」
「フレッド様はご自身を責められますが、私はフレッド様がおかしな事をしたなどとは思いません!
世界の全てがフレッド様の敵になっても私は、私だけはフレッド様の味方です!」
「ルーシーが聞いたら悲しがるよ」
「ルーシー様への想いとフレッド様への想いは全く別の物です。
『ルーシー様を裏切った』などとは思いませんし、何ら矛盾はしません!」
「僕にたいしてどういう『想い』を抱いているんだい?」
至近距離でフレッド様が私の瞳を見つめながら言う。
あぁ、フレッド様はずるい。
私の『想い』に勘づいているクセに私に言わせようとしている。
私は遂に観念して長年胸に秘めていた『想い』を口にする。
「フレッド様、お慕いしています。
ずっとフレッド様だけを見つめていました」
「やっとリンの口から聞けた!
ルーシーからは何度も聞かされていたんだよ。
『リンはお兄様の事が好きみたいだ』って」
バルコニーの長椅子に座り、私はフレッド様と触れるような口づけを交わした。
(何ですぐにやめてしまうんですか?)私はそんなはしたない顔をしていたのだろう。
「次の口づけは僕がシラフの時にね」
フレッド様は私の肩をポンポンと軽く叩いてバルコニーから中庭に出て行ってしまった。
その時の私は放心状態で黙ってフレッド様を見送る事しか出来なかった。
後にこの時にフレッド様を一人にしてしまった事を私は何度も悔やむ事になる。
『フレッド王子倒れる』
その噂はすぐに王城に広まった。
「中庭のバラ園で倒れていたらしい」
「倒れたフレッド様はバラを一輪持っていたらしい。
誰かに渡すつもりだったのか?」
倒れる?
そんな訳がない。
あれだけお元気だったのだ。
何者かに襲われたのだろうか?
バラは私にくれるつもりだったのだろう。
それでバラ園へ行き、何者かに襲われた。
何故フレッド様を一人にした?
何故フレッド様を一人で中庭へ行かせた?
私のせいだ。
数日後、回復されたフレッド様は人々の前に顔を見せられた。
しかしフレッド様に以前のような精悍さはない。
瞳はトロンと濁っており、口は半開きだ。
「あの症状は魔薬中毒だ」
「リズ様お抱えの薬師がフレッド様の薬を処方したらしい」
「薬師は謎の死をとげたとか」
「ああなってはフレッド様も終わりだな」
憔悴しきった私にルーシー様が声をかける。
「大丈夫、お兄様を回復させる方法はあるわ。
教会に『聖女』と呼ばれる神聖魔法使いがいるのよ。
彼女は『心臓が動いている限りは死なせない。必ず回復させる』なんて言ってるらしいわ。
実際『全身の血を洗う』って方法で魔薬中毒を治した実績も多少はあるらしいのよ!」
「多少・・・ですか?」
「魔薬中毒は心臓が急激に弱るらしいのよ。
だから『全身の血を洗う』と言っても多くの人々は施術に心臓が耐えきれずに死んだらしいわ。
・・・でも可能性が無いわけじゃない!
お兄様を絶対治しましょう!」
「何でよ!何でお父様は『教会への手紙』を送らせてくれないのかしら!?
教会の『聖女』に王城に来てもらわないと、お兄様への施術が行えないのに!」
「リズ様が国王様へ『手紙を送らせないように』と言っているらしいです。
国王様はリズ様を溺愛してらっしゃいます。
リズ様の言う事なら無条件で聞き入れるでしょう」
「教会は独立自治組織。
本来何者の干渉も受けない。
国から教会へ連絡する時には必ず書状に国王のサインが必要になる。
国王の許可なく教会に手紙を送る事は出来ない。
・・・決めたわ。
私が国王になる!
国王になって教会に手紙を送る!
必ずお兄様の魔薬中毒を治療して見せる!」
国王は次代に王位を譲ると宣言。
いきなりの話に誰もが驚いた。
突然の譲位はリズが国王に迫ったものらしい。
国王はリズの言う事なら首を横には振れない。
「次王に立候補されるのはライズ様だけだろう」
「王位継承順位第一位の王弟ニース様に王位を継がれる意思はない」
「王位継承順位第二位のフレッド様はあの状態だ」
「王位継承順位第三位のルーシー様は全く王位に興味がない」
誰もがそう考えていた。
「私が国王に立候補いたします!」
ルーシー様の王選立候補はリズ陣営には寝耳に水だった。
そうは言ってもルーシー様にもフレッドと同じように後ろ楯がない。
だからルーシー様のお母様方の祖父、辺境伯であるお祖父様に後ろ楯になっていただけるように、と辺境伯の元を訪れようとして、道中で賊に襲われたのだ。
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「フレッド王子に魔核を植え付けてどれくらいの期間が経過してるんだ?」レノンが貴族の胸ぐらを掴んで聞く。
「よ、四ヶ月ぐらいだ・・・!」
「四ヶ月か、マズいな・・・」レアが呟く。
「四ヶ月の何がマズいのさ」俺は隣にいるノエルに聞く。
「魔核は4~6ヶ月で3つの周期を巡るのよ。
①初期、自我がある状態。
②中期、自我が消えた状態。
③末期、魔核を植え付けた者の言いなりの状態。超人的な能力を発揮して、生命力も跳ねあがる。
フレッド王子が末期なのは間違いないわね」
「『末期』?
それを越えるとどうなるのさ?」
「それはあまり知られていないのよ。
だいたい魔核を植え付けられた者は『初期』か、遅くても『中期』までには処分されるの。
『末期』になった者は私達レベルの者しか見ていないでしょうね」
「それは何で?」
「『末期』を迎えた者に瞬殺されるからよ。
『末期』と出会って生きていられる者は限られているわ」
「ノルンさん達は『末期』を過ぎた魔核を植え付けられた者を知ってるんでしょ?」
「知ってる、と言うか、知らない、と言うか・・・」
「ハッキリしないね」
「文字どおり『末期』の後は存在しないのよ。
末期を終えた者は白い粉となって崩れ落ちるのよ。
オケアノスも聞いた事がないかしら?
その白い粉は『魔薬』と呼ばれる物よ。
『魔薬』の製法は秘されているけどね。
知ってる人は知ってるんじゃないかしら?
偶然、目の前で人が『魔薬』になるのを見た者がいてもおかしくはないわ」
「つまりフレッド王子がいつ白い粉になってもおかしくない、って事か・・・。
でも自我が消えた状態で暴れなかったのかな?」
「元々魔薬中毒で自我がなかったから動かなかったんじゃない?
それに監禁に近い状態だっただろうし、多少暴れても誰も気付かなかったのかもね」
「残念だけど魔核は壊せないな。
『末期』って事は超人的な身体能力なんでしょ?
しかもフレッド王子は元々剣の達人だった。
近付く事すら出来ないよ。
それに魔核を取り除いたところで、どうせ魔薬中毒で自我がない状態なんだよね?」
「魔薬中毒自体は一か八か治療法がない事はないんだけどね。
可能性は低いよね」
「残念だけどフレッド王子を助けに行くのはやめよう、リスクが高過ぎる」
そういう結論が出た時にリンが全力で跪く。
「お願いします!
フレッド様を助けて下さい!
魔核を取り除いて下さい!」
「そりゃこっちもそうしたいよ。
ルーシーさんのお兄さんみたいだし助けられるなら助けたい。
でも魔核植え付けられて末期で身体能力上がりまくってて元々剣の達人とくれば俺が魔核壊せる可能性はほとんどないよね。
しかも奇跡的に魔核壊したとしても、魔薬中毒もかなり進行していて、自我もないんだよ?
リスクに比べてリターンが少な過ぎる・・・」
「お願いします!
フレッド様を助けて下さい!」リンは床に頭を擦り付けて頭を下げる。
「・・・わかった。
任せとけ!」咄嗟に俺は答えた。
「リンさん、フレッド王子の部屋は知ってる?」
「そりゃもちろん」
「レアさん、フレッド王子の部屋まで転移出来る?」
「リンさんのイメージがあれば」
「それよりコイツらここに置いて行くの?
多分逃げるよ?」とノルンがドロップキックの的だった貴族をふんずけながら言う。
しょうがない、転移にドロップキックの的も連れて行こうか。
俺達はフレッド王子の居室に転移した。
フレッド王子はベッドに横になっている。
やはり魔薬中毒が進行しているせいか、全く動かない。
フレッド王子の魔核を壊す意味はあるんだろうか?
魔核があろうがなかろうがフレッド王子はベッドで動かないんじゃないか?
「フレッド!
侵入者共を殺せ!」
転移に連れて来た貴族の一人が叫ぶ。
ベッドで寝ていたフレッド王子が跳ね起き壁にかけられている片手剣を一本ずつ両手に持つ。
俺には意味がわからない。
いち早く事情を理解したのはレノンだ。
「そうか!
しまった!
主!出来るだけ距離を取れ!」
「俺には何が何やら・・・」
「さっき叫んだヤツはフレッド王子に魔核を植え付けた野郎だ!
フレッド王子はヤツの命令に従って動いている!」
「そう言う事か!
だったらヤツを倒せば?」
「それはもう遅い。
魔核を植え付けられた者は植え付けた者を倒しても元の命令を遂行し続ける。
ヤツを倒しても、フレッド王子は止まらない!
フレッド王子を止めるには、フレッド王子を殺すかフレッド王子に植え付けられた魔核を取り除くしかない!」とレノン。
「それかもう1つ、命令権のある貴族に命令を上書きさせる方法もあるわ。
例えば『フレッド、止まれ』と命令させる、とか」とレア。
「それがあったか!」俺は貴族に命令させようとすると貴族は何かを口に含んだ。
貴族は糸が切れた操り人形のようにバタリと倒れた。
「毒じゃない。
どうやら眠り薬の一種だ。
何にしてもヤツが起きるまでフレッド王子の命令の上書きは出来ない」とレノン。
「主がフレッド王子に近付けないならワシらがフレッド王子を倒すしかない。
悔しいがワシらに魔核は破壊出来ない!」とレノン。
二刀流のフレッド王子がレアに襲いかかる。
レアがバックステップして前に突っ込んだレノンがフレッド王子の剣を槍で受け止める。
フレッド王子の剣戟が速すぎて見えない。
それに対してレノンは最低限の動きで剣戟を防いでいる。
フレッド王子が押しているのかと思いきやレノンがフレッド王子の左腕を斬り飛ばす。
「お願い、止めて・・・」リンは弱々しく呟きながら気絶した。
その時俺に閃きが走った。
「ノルンさん!
フレッド王子を回復して!」と俺。
「え?どういう事?」ノルンは驚いて問い返す。
「とにかく俺を信じて!
フレッド王子を回復して!」
「そう言われても・・・」
戸惑うノルンにレノンが言う。
「ノルン!
主を信じろ!
フレッド王子を回復するんだ!」
「わかったわ。
どうなっても知らないからね!」
ノルンはヤケクソ気味にフレッド王子を回復する。
フレッド王子の斬られた腕が逆再生のようにくっつく。
「凄いな!」俺は感嘆の声をあげる。
「こちとら『聖女』って呼ばれんてのよ!
心臓さえ動いてりゃどんな病人だって怪我人だって健康にしてみせるわよ!」
「聞いての通りだ。
ノルンさんは『心臓が動いている限り魔薬に犯されていたって健康に出来る』って!」
「ちょっと待ってよ!
確かに魔薬中毒の治療方法に『血液洗浄』があるわ。
でもこの場でやるような治療じゃないわよ!
心臓への負担も大きいのよ!」
「『この場だから』やるんだよ!
魔核に犯されてると、生命力が上がるんでしょ?
だったらフレッド王子を『血液洗浄』出来るよね?」
「闘ってる相手に『血液洗浄』するなんて聞いた事ないわよ!」
「『聞いた事がない』なら試しにやってみようよ!」
「わかったわよ!
敵を回復させられるわ、敵を『血液洗浄』させられるわ・・・まったく、オケアノスと関わると何をやらされるかわかったもんじゃない!」
「泣き事を言うな!
ワシが盾になる!
主を信じろ!」とレノン。
「その無条件の信頼は一体何なのよ!
一番しんどいのは最前線で闘ってるレノンじゃない!
しかも『相手を殺しちゃいけない』って枷付きでさ。
手加減出来ない相手に手加減しなきゃいけないって辛すぎるでしょ?
ていうかレアはどこに行ったのよ!?
このクソ忙しい時に!」
ノルンが喚いていると、どこかからレアが転移で戻って来た。
「どこに行ってたのよ!」
「これ以上余計な事をやられないように貴族達を地下牢に連れて行って閉じ込めてきた。
同じ部屋にいたらさっきみたいに余計な事をやりそうだし、目を離したら逃げそうだし」とレア。
レアも遊んでいた訳ではないらしい。
レノンが闘ってる相手にノルンが『血液洗浄』の治療魔法をかける。
レアはレノンに補助魔法をかける。
全力で闘えば、フレッド王子よりレノンの方が強いんだろうが、レノンは本気が出せない。
『相手に殺すな』と俺が命令したから。
「何なのよコレ!?」とノルン。
「勘が悪いな」とレノン。
「悪いのは頭かも」とレア。
「何ですってー!?」
まるでトリオ芸人だ。
「『血液洗浄』完了!
これで、フレッド王子の身体の中から魔薬の成分は大方消えたわよ!
何でこんな事しなきゃいけないのよ!?」
「ノルンさん、お疲れ様!
じゃあレノン、レアさん、ノルンさん、俺が魔核を壊すから俺を守って援護しまくってね!
守ってくれなかったら俺、一瞬で死ぬからね!」
そこまで来てようやくノルンは俺がやろうとしていた事に気付く。
魔薬中毒の初期症状であれば、治療成功の可能性は高い。
重度の魔薬中毒で数ヶ月、治療が放棄された状態では治療は不可能だ。
弱っていて『血液洗浄』に身体が耐えきれないからだ。
無理に治療を開始したら、間違いなくショック死してしまう。
だが、魔核を植え付けられていて生命力が上がっている状態なら『血液洗浄』してもショック死しない。
魔核を植え付けられている状態で『血液洗浄』を終わらせて、その後で魔核を破壊すれば・・・。
どうなるかはわからないが試してみる価値はある!
俺がフレッド王子に向かって飛び出す。
「『加速!』」レアが俺の身体に補助魔法をかける。
おお!
身体が軽くなる!
これならいけるかも!
フレッド王子が俺に無数の剣戟を繰り出す。
無理!
多少速くなってもしょうがない。
だって見えないもん!
横から現れたレノンがフレッド王子の剣戟を受け止める。
・・・が、剣戟の全てを受け止めきれた訳じゃない。
レノンが確実に防いだのは致命傷だ。
俺の全身に斬り傷が出来る。
無茶苦茶痛い!
痛いけど止まる訳にはいかない。
止まっていたらジリ貧だ。
とにかく前へ前へと進むしかない。
斬り傷は痛いけど・・・あら、痛くない?
どうやら俺はノルンから『回復魔法』を受けたみたいだ。
「主、まっすぐ突っ込まないでくれ!
守りきれない!」レノンに怒られる。
ごめんよー。
でも怖い時間は早く終わらせたい、と思うのが人情じゃん?
時間かけたらそれだけ怖い時間が続く訳で・・・。
で、具体的にどうすりゃ良いの?
そう思っているとレアが「『石障壁(ストーンウォール』!」と叫んだ。
何だ!?何だ!?と思っているとフレッド王子の前に石の壁が瞬間的にせりあがる。
訳がわからない。
でも取り敢えず、壁の真ん前までは行こう。
壁を隔てた向こう側にはフレッド王子がい・・・とか考えているとフレッド王子が壁を飛び越えて来る。
ジャンプしているフレッド王子が剣を俺に向かって振り下ろしている。
何とか見えた!
でも見えただけだ、反応は出来ない。
あー、俺死んだわ。
「『遅延』!」レアが魔法を唱える。
飛びかかってくるフレッド王子がスローモーションになる。
俺は側転で躱したつもりだったが全然躱せてなかった。
しょーがねーだろ、弱いんだから。
フレッド王子の右腕の剣が俺の背中を斬りつける。
ザクッ!
痛いなんてもんじゃない!
もう少し深い斬り傷だったら死んでるぞ、コンチクショウ!
・・・そんな事を言ってる場合じゃない!
フレッド王子は二刀流、左腕の剣がもう振り下ろされる寸前だ。
あぁ、もう躱すのは間に合わない!
その刹那、レノンがフレッド王子の剣を槍で受け止める。
「主!フレッド王子はワシが抑える!
魔核を破壊してくれ!」とレノン。
そんな事言っても、いくらレノンとは言え魔核を植え付けられたバカ力のフレッド王子を抑えられるの!?
「『力向上』!」レアがレノンに補助魔法をかけている。
もう今しかチャンスはない・・・けど俺も背中に深い斬り傷を受けて動けない・・・なんて言ってられない!
俺のレノンが抑えているフレッド王子の首元の魔核目掛けて聖剣を振り下ろす。
痛みが徐々におさまって動けるようになったのはノルンが俺に『開始魔法』をかけてくれたんだろう。
聖剣は魔核を真っ二つにする。
フレッド王子に植え付けられていた魔核はコロリと外れる。
今まで暴れ狂って、俺に襲いかかって来たフレッド王子はピタリと動きを止めてパタリと倒れた。
終わった。
この後、どうなるかはわからない。
でも今の瞬間、俺は確かに生きている!
「うぅ~ん・・・」気絶していたリンが目を醒ます。
「そうだ!フレッド様!フレッド様!」
リンが倒れているフレッド王子を抱きしめて揺する。
「フレッド様は大丈夫なの!?」
リンが俺に聞く。
「わからない。
でも思い付く限りの事はした。
これで助からなきゃしょうがない」
俺は答えた。
冷たいようだが本音だ。
リンに揺すられたフレッド王子が目を醒ます。
「リン・・・リンなのか?」
フレッド王子は抱きしめるリンに言う。
「フレッド様、リンです!
私がわかりますか!?」
「愛するリンを見間違えるもんか・・・
僕はもうダメみたいだ。
魔薬で心臓が弱っていたみたいだ。
でも死ぬ前にリンと抱き合えたのは本当に良かった・・・。
リン、僕の事は忘れて幸せになるんだよ・・・」
フレッド王子は力弱く笑うとそのまま目を閉じた。
「ノルンさん!
フレッド王子の全身を回復したんじゃなかったの!?」
「怪我は回復させたわよ。
でもそれ以外は『血液洗浄』しかしていないわ。
特に呼吸器、心臓なんて回復させる訳ないじゃないの。フレッド様はオケアノスとレノンをひっきりなしに攻撃していたのよ?
心肺機能も私が回復させていたら、二人は死んでたわよ。
つまり魔薬で弱った心臓はそのまま、魔核の生命力強化がなくなったら弱った心臓だけが残るのよ。
元々王子の身体は魔薬に犯されて限界だったのね」
「そんな・・・何とか出来ないのかよ?
折角リンさんと王子は再会出来たのに・・・」
リンさんが倒れているフレッド王子に抱きついて慟哭する。
「出来るわよ」
ノルンがケロッと言う。
予想外の答えに一同は固まる。
「私を誰だと思ってるのよ?
腐っても『聖女』よ!?
心臓が止まってない限り、誰一人私の前で死なせたりしないわ!
心臓が弱ってるから何だって言うのよ?
確かに止まった心臓は動かせない。
でも弱った心臓を動かすくらい訳ないわ!」
ノルンがフレッド王子の胸に手を当てる。
するとノルンは激しくフレッド王子の胸に拳を叩きつけた。
「戻って来い!
戻って来い!」
ノルンは何度もフレッド王子の胸を拳で叩きながら叫ぶ。
ノルンは鼻血を両方の鼻から流す。
「戻って来い!
戻って来い!
戻って来い!
戻って来い!」
ノルンは両目から血を流しながらもフレッド王子の胸を拳で叩きながら叫び続ける。
するとフレッド王子の全身が淡く光り始めた。
「も、もう大丈夫・・・」
ノルンはそう言うとバターンと倒れた。
ーーーーーーーーーーーーー
~ノルン視点~
しばらく倒れていたが私はモゾモゾと起き上がる。
起き上がった時に見たのは抱きしめ合うフレッド王子とリンだった。
「まぁ、気持ちはわかるけどほどほどにね。
まだフレッド王子は心臓の治療受けてないし、心臓弱いまんまなんだからね」
私の言葉に王子とリンは決まりの悪い顔をした。
しかしお腹がすいた。
力を使いすぎた。
しょうがない。
私は懐から干し肉を取り出すとペチョペチョとなめた。
干し肉は不味くはないけど、なめてふやかさないと硬いのよね。
「おい、こら生臭聖女」
声をかけられてビクッと声の方向を向く。
そこにはレノンがいた。
「教会は肉食を禁じているんじゃないのか?」
「禁じてはいないわよ。
推奨していないだけで。
因みに私は肉も魚も食べるわよ。
草ばっかりの食事なんて冗談じゃないわ」
「草と言うな。
野菜と言え」
「草は草よ。
『肉を食べると神秘の力が落ちる』とか嘘ばっかり。
肉ばっかり食べてる私より力が強い人なんていないんだから」
「そうか、肉食は教会の禁忌ではないのか。
だが『蘇生』は禁忌なのだろう?」
「・・・何の話かしら?」
「とぼけるな。
フレッド王子の心臓、止まっていたよな?
以前にノルンは言っておったな。
『蘇生魔法が禁忌なのは成功率が低すぎるのと、失敗すると術者が命を失うからだ。
もし民衆が蘇生魔法を求めたら、教会の者が何人いても足りなくなる』と。
何故危険を犯して、禁忌を犯して『蘇生魔法』を使ったのだ?」
「・・・私が『蘇生魔法』を使った事を秘密にしてくれるなら話すわ」
「約束しよう」
「オケアノスよ」
「主?
主がどうかしたのか?」
「オケアノスは誰より弱いのに魔核を植え付けられた者に向かって行ったのよ。
何度も斬りつけられて死にそうになりながら。
何か『聖女』である私が見捨てるのは『負け』な気がしたのよ」
「それだけ?」
「それだけよ。
他に深い理由なんてない」
「主は本当に不思議なお方だな。
主は人を熱くさせる」
「本当に・・・。
何者なのよ、アイツ」




