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最弱の救世主  作者: 海星(原案:猿田彦)
5/8

バリア

 「スゲー!」

 マックとリュークとレアの闘いは俺には別次元だった。

 魔法を剣で切り落とす。

 剣圧を飛ばす。

 その剣圧を杖を薙いで受け止める。

 ・・・意味がわからん!

 俺がここにいる事が場違いにも程がある。

 でもレノンの話では『リュークがいても九割負ける』んだよなぁ。

 レノンはハッキリは言わないけど、マックとリュークが負けた場合、きっと俺だけは守るつもりなんだよなあ。

 王女様も砦も砦の人々もレノンの命さえも全て犠牲にして俺を逃がそうとしてるんだよな。

 それはどうなの?

 俺を信じて全てを捨てて砦に来た人らを犠牲にして俺が生き残ったとして、俺はもう二度と美味しい飯が食えない気がする。

 美味しい物だって美味しく感じなくなるだろうな。

 でも思った。

 『俺がここにいて何か出来る事あるのか?』と。

 考えろ「俺だけに出来る事」を。

 レノンとマックは「主の気配だけは読めない」と言っていた。

 強者の気配は読めないんじゃなくて「そこら辺に溢れて具体的にどこにいるかがわからない」らしい。

 でも「いる事だけは間違いなくわかる」

 俺は「存在している事すらわからない」そうだ。

 だからフラッとどこかに行ったら探すのが大変らしい。

 だからマックもレアも俺がここまで近づいて来ているのに気付いてない。

 こう見えても俺は盗賊(コソドロ)だ。

 『忍び足』ぐらいは使える。

 俺が『忍び足』で近づいたらレアはどこまで気付かないだろうか?

 あと3メートル。

 やっぱりマックもリュークもレアも気付かない。

 もう少しいけるかな?

 あと1メートル。

 やっぱりレアは気付かない。

 背後から近づいたのもあるだろう。

 しかしマックとは思い切り目が合ってしまった。

 (主!何やってるんだ!

 早くどっかいけ!)

 マックがジェスチャーで伝えてくる。

 リュークも俺に気付いたようで、俺がレアに気付かれないように必死で囮を演じてくれている。

 「俺が囮になっている間に逃げろ」と。

 しかしリュークの思惑は俺には伝わらない。

 よし!リュークが囮になってくれているからあと30センチ近寄れるぞ!

 俺はレアの真後ろまで来た。

 「違~う!

 そうじゃな~い!」さすがにリュークは大声で叫ぶ。

 この時分身は五体まで減っていて、四体はマックが引き受けていてリュークは一体の相手をしていた。

 マックは四体を引き連れて少し遠くまで行っている。

 分身達が俺に気付かないように配慮しているのだ。

 だから俺はリュークが相手している一体の真後ろに来ていた。

 それに勘が『本物はコイツだ』と俺に囁いていた。

 さすがにリュークが自分の真後ろに向かってツッコミを入れたらレアも振り向く。

 唇と唇がふれあいそうな距離に俺とレアが向かい合う。

 「あっ、どうも」

 俺が気持ち悪いニチャアッという愛想笑いでレアの方を向く。

 レアは人見知りで、話すのが苦手で、人間が苦手で人一倍パーソナルスペースが広い。

 昔、パーティを組んでいた時でも3メートル以内に人を近付けなかった。

 レアのパーソナルスペースに入れるのは弟子の兄妹だけだ。

 なのに今、唇と唇が触れ合いそうな位置に男がいる。

 ここまで人に接近を許した事がなかったレアは激しく混乱した。

 「何なんだ!?

 貴様は!?」

 レアは絶叫と共にバリアを8枚張る。

 レアの目の前にいた俺はバリアに弾き飛ばされる。

 「痛いな!

 何するんだ!」俺は抗議する。

 「貴様こそ私の後ろで何をしようとしていたのだ!?」

 レアに問われた俺はふと考える。

 『俺は一体何をしようとしていたのか?』と。

 「何してたんだろうね?」

 何で俺は「レアにギリギリまで近付こう」なんて思ったんだろう?

 『だるまさんが転んだ』でもあるまいし。

 「貴様・・・私を馬鹿にしているのか?」

 あ、まずい。

 レアが怒りで冷静になりつつある。

 そうなったら俺なんかハナクソ以下だ。

 そうだ!俺に気を取られている間にリュークに攻撃してもらおう!

 俺はリュークにウインクする。

 リュークが「あん?何だ?」って顔をする。

 やべー、全然伝わってねーよ。

 もう、やったらー!

 出たトコ勝負じゃー!

 やらなかったら死ぬしかない!

 俺は懐の聖剣を抜いてレアに襲いかかる!

 俺の攻撃が効くなんて思ってない。

 俺の攻撃を囮にして、リュークに本命の攻撃を通してもらうだ!・・・全然、俺の意図はリュークに伝わってねーけど。

 「うりゃー!!!!!」

 俺はバリアに向かって特攻する。

 もちろん弾き返される気満々だ。

 あくまでも俺の攻撃は囮。

 スパパパパパパパパ!

 何でか知らないけど俺の攻撃がレアのバリアを切り裂く!

 8枚バリアを完全に切り裂き無効化した俺は勢いで聖剣をレアに突き刺しそうになった。

 俺は慌てて聖剣を引っ込めると、レアに抱きついた。

 「何で刺すの止めちゃうんだよー!」とリュークが言う。

 しかしレアの首元には四体の分身達を仕止めたマックが大剣を突き付けていた。

 分身が消えたら、レアは新しい分身を出していた。

 消耗戦だった。

 マックとリュークは疲れ果てて倒れる寸前だった。

 またレアが新しい分身を出すのか・・・そう思われた時に俺が現れたらしい。

 マックもリュークも正直、俺が何をしようとしているのかわからなかったそうだ。

 そりゃわからないだろう。

 俺自身も完全なノープランなのだから。

 俺がレアに抱きつき、レアが意味不明な出来事にフリーズしている隙に、マックがレアの首元に大剣を押し付けて『勝負あり』という訳だ。


 「何が何だかよくわからないが私の負けだ」

 悔しげにレアが言う。

 何が何だかよくわからないけど、どうやら勝ったみたいだ。

 「しかしその短剣は何なんだ?

 どうして私の『完全物理攻撃無効』のバリアをスパスパ野菜みたいに切り裂けるんだ?」

 「もらいモノだしよくわかんない。

 『聖剣クリス』って名前だってさ。

 あんまり使った事はないんだよ。

 料理もしないしね」

 「『聖剣クリス』だと!?

 貴様はルイジアナ王国の王位継承順位を持っていらのか!?」

 「そんな訳ないじゃん。

 俺は王族どころか、両親が誰か?本当の自分の名前が何か?とか全然わからない私生児だよ。

 この聖剣はルイジアナ王国の王女、ルーシーさんからもらったんだよ」

 「にわかには信じられん。

 王族が聖剣を手放すとは・・・。

 だが、事実なのだろうな」

 「何でそんなにすんなり信じるのさ?」

 「聖剣は持ち主を選ぶという。

 王族であっても聖剣を鞘から抜けない者も多いらしい。

 貴様は聖剣から主と認められている。

 王族から奪ったとは考えられない」

 「へー、俺スゲー!」

 「まるで他人事だな」


 「しかしレアがどうして潜入なんてバカな真似をしたんだ?」とマック。

 「・・・・・」

 「言えないか。

 しかしお前、ルーシー王女を狙ったよな?

 お前が単独で王女を狙うとは思えない」

 「・・・・・」

 「何とか言えよ!」マックが怒鳴る。

 かつての仲間に剣を突き付けなくちゃいけない事にマックはストレスを感じているようだ。

 しかし俺はレアの絶望のこもった悲しそうな顔が気になった。

 「レアさん、何も言えない事はわかった。

 作戦が失敗したら、レアさんは転移魔法で逃げると思ってたよ。

 だってここまで来たのも転移魔法なんだよね?」

 「座標を決めて転移するのに時間がかかるんだよ。

 剣を突き付けられてる状態で魔法の詠唱をしたら首を切られちまうからね」

 「なるほど。

 でもレアさんが首を切られる事をそんなに恐れてるとは思えない。

 恐れているならマックとレノンがいる砦に一人で来るとは思えない。

 マックとレノンの噂、聞いてたんだろう?

 二人の強さ、同じパーティだったレアさんは知ってるんだろう?

 ここで抵抗も自害もしないのは『ここで死ねない!』って思っているからなんだろう?」

 「・・・アンタに話してもどうにもならないよ」

 「ダメ元で話してみないか?

 ここに来たのもダメ元なんだろう?」

 俺は説得した。

 説得出来る可能性は低い。

 単に昔信頼し合った二人が片や殺す側で、片や殺される側になるというのがイヤだっただけだ。

 立場を替えると未来に俺とリュークが殺し合うようなものだ。


 少し考えたレアは手のひらに赤い立方体を魔法で産み出した。

 「お前!何をするつもりだ!」

 リュークが剣を握りなおし警戒するが、マックが

「ちょっと待て。レアからは殺気を全く感じない」とリュークを止めた。

 レアはその立方体を俺の目の前の空中に置くと言った。

 「それを聖剣で切ってもらえないか?」

 俺はレアのリクエストに従い、立方体を両断した。

 立方体は力を必要とする事なく真っ二つになり、そして霧のように消えた。

 「それはバリアだけじゃなく、結界も消せるんだね!」レアが興奮気味に言う。

 「そうなのかな?

 もらいものだし、使用上の注意とかもよくわからんが・・・」

 「こんな事頼めた義理じゃないんだが、ルイジアナ王城の結界の中に私の弟子達・・・いや、私の家族達が捕らえられているんだ。

 一緒に王城に来て、結界を消してもらえないか!?」

 「待ってくれ。

 イマイチ状況が飲み込めない。

 アンタは今、どう言う状態なんだ?

 誰かに何かを強要されているんだよな?」

 「そうさ。

 私が言う事を聞かないと家族が殺されるかも知れないんだ!

 だから私は暗殺の真似事をしようとして、王女を消そうとした。

 マックに未然に防がれたがね。

 私でも結界は壊せる。

 マックがバリアを破壊したように、無理矢理破壊する事がね。

 でも、王城の要所に楔を打ち込まれている結界を破壊する事は王城を破壊する事、王城にいる全ての人が破壊された王城の瓦礫の下敷きになって死ぬ可能性が高い、という事なのさ」

 「その結界を俺が壊す・・・って事だよな。

 協力したいけど無理だ。

 だって俺、弱いんだもん。

 そこまで忍び込めないよ」

 自分を正しく理解出来てるって素晴らしい。

 「主は『魔導士レア』にノープランで接近したんだぞ!?

 今さら怖じけづくのか!?」とマック。

 アレはアレ。

 マックとリュークがピンチだと思ったら身体が勝手に動いてた。

 無理なものは無理なのだ。

 「そうか・・・」

 レアは残念そうな、悔しそうな顔をした。

 俺はこの顔に弱い。

~五年前~

 ゴーリキ「お前は『義賊オケアノス』になるのだ!」

 俺「うん、絶対無理」

 ゴーリキ「そうか・・・(残念そうな顔)」

 俺「ちょっとだけやってみても良いかな?」

 ゴーリキ(このガキはチョロい!)


 もう流されないぞ!

 無理なものは無理なのだ。

 レアには気の毒だが・・・。

 ふと見たレアの瞳に涙が光る。

 「俺に任せとけ!

 俺は『義賊オケアノス』

 王城に忍び込むなんて造作もない!

 レアさんの家族は俺が救出する!」

 俺のばか野郎!

 これじゃあいつものパターンじゃないか!

 実力もないクセに義賊を引き受けて、実力もないクセに救出を引き受けて、実力もないクセに地下牢から大勢の人を脱出させて、実力もないクセにリーダーなんて引き受けて、実力もないクセに超人同士の闘いに飛び込む・・・俺は決めたんだ!

 目標は長生きだ!

 『わざわざ死地には飛び込まない』

 決めたそばから何で!?

 「それでこそ主だぜ!」とマック。

 いやいやそこは「主、危険だ!行くべきじゃない!」とか引き止めるところじゃないの!?


 転移魔法でどこかへ消えたレアが誰かを連れて転移して戻ってきた。

 レアが連れてきた女性は前掛けをして左手にはフォーク、右手にはナイフを持ち、まるで食事中の格好だ。

 「レア!?いきなり転移して来たと思ったら食事中の私を連れて、どこに転移したのよ!?」

 やっぱり女性は食事中だったらしい。

 「私、口下手だから連れて来た後に誰かに説明してもらおうかな?って」レアが周りに無茶振りする。

 「・・・だったら貴方説明してよ」

 女性は俺を指名する。

 知るかよ、どんな考えがあってレアさんは女性を連れて来たんだよ?

 しょうがないからテキトーに説明する。

 「『肉饅頭早食い』会場へようこそ!

 ここには世界各地から選りすぐりのフードファイター達が集っています!

 貴女は選ばれた早食い戦士なのです!」

 「え!?私が!?」女性が驚いた顔をする。

 「息を吐くように自然に嘘をつくな!

 しかも俺らパーティは大概の人間の嘘なら見抜けるんだよ。

 嘘をついてるヤツからは嘘をついている気配がするからな。

 しかし主からは全く気配が読み取れない。

 それはレアも同じだと思う。

 読み取れないから真後ろに主がいる事に気が付かなかったんだろう」とマックが俺にツッコミを入れる。

 「嘘なの?

 私、もう『肉饅頭』の口なんですけど・・・」

 女性はかなり図太いようだ。

 しょうがない。

 俺は小銭入れを開ける。

 小銭入れは空っぽだ。

 そうだった。

 昨日なけなしの銅貨三枚で小さい肉饅頭買っちゃったんだ。

 「リューカ、頼む!

 銅貨四枚貸してくれ!

 毎月銅貨一枚ずつ返して行くから!」

 「どれだけみみっちいのよ!

 それくらい一括で返しなさいよ!

 ・・・肉饅頭買うんでしょ?

 良いわよ、特別に奢ってあげるから。

 絶対絶命のリュークを助けてくれたみたいだし、今回だけは特別よ!」

 リューカの買ってきた肉饅頭を女性は頬張る。

 お腹がすいていたみたいだ。

 当たり前か、食事しようとしていたところを連れて来たんだから。

 リューカは俺の分の肉饅頭も買ってきてくれた。

 「残念だけど、俺は無一文だ。

 肉饅頭を買う金などない・・・」

 「何でアンタ、そんなに貧乏なのよ!?

 それくらい私の奢りよ!」

 それくらいとか言うな。

 金がなくて小さい肉饅頭を半分ずつした俺がまるでセコいみたいじゃねーか。


 女性は一心不乱に肉饅頭を食べている。

 かなり肝がすわっているようだ。

 普通、訳のわからない所へ拉致されて来たら不安で食欲なんて消えるよな。

 マックはこの女性を「元々のパーティメンバーだ」みたいに言ってた。

 レノンも全く警戒してない。

 危険はないんだろう。

 肉饅頭を食べ終えた女性に俺は自己紹介を求める。

 「普通無理矢理拉致してきた女に『お前は誰だ?』なんて聞く?」

 ごもっとも。

 「まぁ良いわ。

 私はノルン。

 『聖女ノルン』とも呼ばれているわね。

 『槍聖レノン』『剣神マック』『魔導士レア』とパーティを組んでいた事もあったわ」

 「聖女様とは知らずに・・・。

 すいません、さっきの饅頭の中に肉が入ってます」

 頭を下げる俺にレノンが言う。

 「こやつは肉も魚もガツガツ食うぞ。

 それどころか酒もガブガブ飲むぞ?」

 「良いのよ!

 植物にだって命はあるのよ?

 命を犠牲にせずに人間は生きていけないのよ!

 『犠牲になった命に感謝』すれば良いのよ。

 『肉や魚は食べない』とか偽善だわ!」

 「そうやってすぐ教会の偉いさんを敵に回すんだから・・・」とレアが呆れた声を出す。


 「・・・でノルンを砦に呼んだのはこの娘の治療を頼みたいからよ」とレア。

 レアが指さした方向には負傷して横になっているマリーナが。

 「ノルンさんって回復得意なの?」

 俺はマックに聞く。

 「ノルンなら心臓さえ動いてりゃ、頭が弾け飛んでても元通りに治療出来るぜ。

 まぁ大怪我だったら、その分魔力は必要になるけどな」

 「どんな症状でも回復出来るんじゃない。

 『生きてれば』大概の症状は回復出来る。

 出来ない症状もあるけど・・・」

 ノルンは一瞬凄い寂しそうな表情をした。


 ノルンはマリーナを治療した。

 「傷は塞がってるけれど、流れた血は回復してないからしばらくは安静」との事だ。

 「血を回復させる手段もあるにはあるが、副作用があるから出来ることならオススメはしない。

 日にちが一番の薬だ」と。


 ノルンはしばらくレノンに同行するらしい。

 俺が理由を聞いてもはぐらかされる。

 俺がレアについて王城へ行くからボディーガードのレノンもついてくる。

 レノンが来る、という事は同行のノルンも自動的についてくる。

 あと王城の地理に明るいリンが行く事になった。

 ルーシー王女もついてきたがったが、命を狙われているだけでなく、壊滅的な方向音痴だったので「ミジンコより役に立たない」と却下された。

 マックは今回はお留守番だ。

 ルーシーや砦の警護にリュークと二人であたって欲しい。


 人がいなくなった後にレノンがノルンに聞く。

 「何故、ノルンが砦に残るのだ?

 聖女としての役割もあるだろうに」

 「たまには私だって羽を伸ばしたいのよ。

 『あれをするな、これをするな』って本当にやかましいんだから」

 「それだけではあるまい?

 外に出たいならノルンほどの人気があればいくらでも外遊の受け入れ先はあるはずだ。

 正直に話せ。

 ノルンは砦の何に引っ掛かりを感じたのだ?」

 「・・・レノンだって違和感に気付いてるクセに。

 かつてルイジアナ王国を守護したという『聖獣』の血を鋼鉄に練り込んで出来上がったと言われる『聖剣クリス』はルイジアナ王族と神にか使えないと言われているのよ?」

 「・・・・・」

 「私達のパーティは魔族領の深くまで入り込んだ。

 とにかく気配察知には敏感になった。

 敵を察知出来ない、という事は『死』を意味するから。

 人間だけじゃない。

 魔族、魔物、アンデッド・・・あらゆる微妙な気配を察知出来るようになって私達は生き残った。

 なのに私もレノンもマックもレアも全くあの男の気配を察知出来ない。

 結論を言うわよ。

 『あの者は人間では有り得ない』」

 「・・・・・」

 「あの者の慈悲深さは異常よ?

 何でレアの弟子を助けに行くのよ?

 あの者にはほとんどメリットはないのに」

 「・・・・・」

 それはレノンも不自然に考えていた事だ。

 普通、王女の侍女を助けに行くために命をかけて、今まで築き上げてきたモノを全て捨てるか?

 自分が逃げきれた訳でもないのに、他に捕らわれている者全員を連れて行くか?

 マックとリュークを助けるために全く武力がないにも関わらずレアとの闘いに赴く。


 「あの者は・・・、いや『あの柱は』と言うべきかしら?」

 「主は主だ!

 他の何者でもない!」

 ついにレノンは声を荒げる。

 しかしそれはノルンの言う事がレノンの図星をついていたに他ならない。


 そんなやり取りが行われていた事を俺は知る由もなく・・・。

 「ねえ考え直してよ」

 「くどいわね!

 お父様へのお土産はこの木刀で決まりなのよ!」

 こうなるとルーシーは考えてを曲げない。

 「何で決まっちゃうかなあ?」

 俺はしみじみと木刀を見る。

 何故木刀が土産物なのか、考えれば考えるほどわからない。

 「木刀は格好良いでしょ?」

 「娘から木刀渡された父親の気持ちを考えるだけで不憫だ・・・」

 「だったら骨のアクセサリーにするわよ」

 「何でその二択なんだよ!?」

 「骨、格好良いじゃない!

 暗闇で光るのよ!」

 「不気味なだけだって!」

 「何よ!

 私を王城行きから外したクセに!

 お父様へのお土産ぐらい選ばせてよ!」

 「危険だからだってば!

 ルーシーさんは暗殺者に狙われてるんだよ?

 それに行っても全然内部構造に詳しくないし、とびっきりの方向音痴でしょ?」

 「だからお土産を選ぶと言ってるのよ!

 決めたわ、お父様にはガイコツのアクセサリーを・・・」

 娘に夜中光るガイコツをもらった父親など、想像出来ない。


 出発の時間となった。

 俺とリンとレノンとノルンとレアの五人だ。

 土産も持った。

 ルーシーは父親想いの娘だ。

 お土産に木刀とガイコツ、二つを送るようだ。

 土産を託されたリンの身になって欲しい。

 俺も王様にお土産に温泉卵を送る事にした。

 いくつか送ろうと思ったが予算外だったので、お土産は温泉卵一個、という事になった。

 きっと喜んでくれるに違いない。

 何せ砦の名物だからな。

 木刀とガイコツと温泉卵を持たされたリンは何故か微妙な顔をしている。

 まずは王都の城下町へ転移する。

 王城に直接行ければ何も苦労はないんだが、王城には結界が張られている。

 それに城下町には王族がお忍びで城下町に出られるための王城と城下町を繋ぐ地下通路があるらしい。

 今回王女が外に出たのもその通路を通ってらしい。

 その通路は反乱分子の貴族達も知らないはず、との事だ。

 でもその地下通路の場所はレアは知らない。

 当然だ、場所は王族とその従者しか知らないんだから。

 レアが転移で俺達を連れて来た場所は地下通路からかなり離れた場所のようだ。

 「そこまでは歩いて行こう。

 リンさん、案内宜しく」

 他の人は誰も責めてはいないが、地下通路から遠くに転移したレア本人が自分を責めていた。

 「早くしないとあの子達が・・・!」

 レアが追い詰められた声で爪を噛みながら言う。

 「大丈夫よ、少し落ち着いて」

 ノルンが優しくレアの肩を撫でながら言う。

 レアが焦る理由もわからなくはない。

 もしレアが王女の暗殺に成功していたらそろそろレアは王城に戻って来るはずだ。

 戻って来ない、となったらレアの裏切りが発覚する頃合いでもある。

 そうなったら見せしめで最初に殺されるのは弟子達かも知れない。

 しかしその話を聞いた時のノルンの言った話が忘れられない。

 「もし貴族達が本当にレアの力をわかってるなら素直に弟子達を返すかしら?

 だって弟子達がいるからレアは貴族達に逆らえないのよ?

 返してしまったらレアはその貴族達を殺すでしょうね。

 逆にレアの裏切りがバレて見せしめに弟子達を殺したとして、その後に貴族達は怒り狂ったレアを止める方法があるのかしら?

 私には相手方にレアを止める切り札がある気がするんだけど」

 確かにその通りだ。

 このまま弟子達を助けてハッピーエンドとは考えにくい。

 でも今、先の事をグダグダ考えてもしょうがない。

 それに考えているとレアのイライラが爆発して「早くしろ!」と癇癪を起こしそうだ。


 街には何者かの『監視の目』が沢山あるらしい。

 とにかくレノンもノルンもレアもそういった違和感には敏感だ。

 おそらく『結界がある以上はレアは直接王城に転移はしてこれない。城下町から帰って来るはずだ』とレアを見張っているのだろう。

 何のために?

 あくまでも勘だ。

 悪い予感だ。

 『どうしてだか理由を言え』と言われてもキッチリとは説明出来ない。

 予定では反乱分子、王女を暗殺しようとしていた貴族達を最初に断罪しようと思っていた。

 それからゆっくりレアの弟子達を助けよう、と。

 そういう作戦だったし、まずは王城へ乗り込もう、と。

 「悪い、予定変更だ。

 王城には後で行こう。

 まず最初に行くのは地下牢だ!」

 俺の突然の予定変更にレアが疑問を言う。

 「どうしてこの段階になって、予定変更?

 万が一地下牢にあの子達が捕まっていなかったらどうしよう?って話だったじゃない!?

 もし空振りでその間にあの子達が殺されてしまったら?

 それに打ち込まれた結界の楔の位置を予想したら、楔を破壊して回る場合に地下牢から行くのは効率が悪いって話だったわよね?」

 「上手くは言えない。

 俺達の立てた戦法って『相手方がバカの集まりだ』って前提で出来てるんだよ。

 『レアさんが子供達を助けた後の敵の出方』

 『子供達が殺された後の敵の出方』というのがスッパリ抜け落ちてる。

 敵がある程度脳ミソがあるなら、レアさんを陥れる罠は子供達に仕掛けるんだよ!

 何でこんな事に気付かなかったんだろう?

 敵がレアさんを動かそうとした時は常に子供達を使っていた。

 全てが終わった後、レアさんを陥れようとするなら・・・」

 「必ず、あの子達に何かを仕掛ける。

 ・・・つまりこうしてる間にもあの子達が危ない!?」

 「リンさん、ここから地下牢への最短ルートは?」

 「道ではないけど地下通路の途中に地下牢と壁一枚で隣合わせている箇所があるわ。

 確か、昔の政治犯が壁に穴を開けて、地下通路から逃げようとしたのよ。

 結局、地下通路で迷って脱獄は失敗したらしいんだけどね。

 その話をルーシー様から笑い話で聞かされて、今は塞がれている壁の穴があった色が変わっている壁の話をついこの間、地下通路を通っている時に聞いたわ。

 そこの壁を破って地下牢に行くのが断然早いと思う。

 他は一度、王城の中に入らないといけないし」

 「決まりだ!

 取り敢えず地下通路入り口を目指そう!」


 地下通路入り口に行くまでに気付いた。

 『相手は地下通路の存在を知っている』と。

 地下通路に近付くにつれて何者かの監視の目が厳しくなる。

 偶然か?とも思ったが、明らかに『この道を通るだろう』という明確な監視がされている。

 『人払い』『幻惑』などの魔法を使って何とか地下通路へ滑り込む。

 「魔法を使って敵の目を欺けるのは一瞬よ。

 すぐに敵は"矛盾"に気付くわ。

 ホラ私が『人払い』の魔法を使ってもマックがすぐに見破ったでしょ?

 だから先を急ぎましょう?」


 「ここです。

 この色の違う壁の向こうが地下牢のはずです」とリン。

 「ワシが壁を崩そう」レノンが壁を軽く小突いた・・・ように見えたが壁はボロボロと崩れた。

 壁の穴をくぐった先は確かに地下牢だった。

 でもこの牢屋は空っぽだ。

 しかし四角く薄く光っている『何か』がある。

 牢屋の片隅にはあった。

 何だ、これ?

 「これが結界の(くさび)だ。

 計画通り聖剣で切ってくれ」とレア。

 「いやいや、ここに『結界の楔』は無いって話じゃなかった?」と俺。

 「予測は予測。

 外れることもある。

 むしろ当たるなんて思ってなかった」

 レアはシレっと言う。

 そうならそうと言ってくれ!

 一生懸命、結界の楔の位置を覚えようとしてた俺がアホみたいじゃねーか!

 「悪い事ばっかりじゃない。

 このあたりの結界がこの楔を壊した事で無効になった。

 ここに何かしらの罠があったとしても、魔法が使えるなら取れる対策は増える。

 それより早く楔を壊さないか!」

 俺は結界の楔を短剣で撫でるように切る。

 まるでバターナイフでバターを切るようだ。

 だが楔は呆気なく霧散した。

 これで地下牢近辺で魔法が使える。

 ・・・俺は元々魔法は使えないけど。

 でもここ、牢屋の中だよね。

 ここはコソドロである俺の出番だな!

 こんな牢屋の鍵など30分もあれば開けられる!

 ガチャン

 「魔法が使えれば当然『解錠魔法』も使えるわよね」とノルンが魔法で鍵を開けた。

 おい、聖女!

 コソドロみたいな魔法使ってるんじゃねえぞ! 

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