侵入
~?????~
「王女が生きていたらしい」
「王位継承争いから脱落したと思いきや、だな」
「我々の推してる第二王子が国王になる線は低くなったな」
「第二王子は王位継承順位は第四位、王女の王位継承順位は第三位・・・王女が健在ならライズ王子が王位につく理由がない。
ライズ王子が特に優秀ならいざ知らず・・・」
「ライズ王子が優秀で傀儡にならないなら、彼を推していたかね?
フレッド第一王子と同じように魔薬漬けにしたんじゃないのかね?」
「口が過ぎるぞ。
それではまるで我々が第一王子に一服盛ったようじゃないか」
「その通りじゃないか」
「上手い事をやれば洗脳で終わるはずだったんだ。
フレッド王子は知能が高過ぎたのだ。
少量の魔薬では自我が消えなかった。
魔薬を体力接種させるうちに廃人に・・・。
ヤツには申し訳ない事をした」
「『申し訳ない』などと思っていないだろう。
第一、敬意があれば『ヤツ』などと言う訳がない」
「善人ぶるな。
王族に敬意があれば薬を盛ったり、暗殺を画策したりする訳がない」
「そんな事より王女の処遇はどうするのだ?」
「どうも出来ん。
王女がいる砦に何度も暗殺者を送っている。
しかし砦の中に潜入出来た暗殺者は皆、王都に送り返されて来た」
「何!?
何故王国から暗殺者が送り込まれたとバレておるのだ!?」
「入り口を守っている者に嘘や無言は通用しないそうだ。
『槍聖レノン』と『剣神マック』には」
「なんでそんな大物が!?」
「わからん。
どこまで我々が暗殺に関与している事がバレているかも不明だ」
「そんな事は暗殺者本人に聞けば良いではないか!」
「暗殺者は確かに王国に送り返されてきた。
しかし送り返された暗殺者に我々が関与出来ると思うか?
『我々が送り込んだ暗殺者です』と名乗り出るようなモノではないか!
私が出来るのは、暗殺者に新たに暗殺者を送り込む事だ」
「余計な事をしゃべらないように口封じ。
『死人』に口なし、か」
「何故入り口から砦に入ろうとする?
忍び込めば良いではないか」
「砦は『城塞都市』と言っても過言ではないほど堅牢だ。
まさに『水一滴漏らさない』造りだ。
潜入など不可能過ぎる。
その代わり砦の内部は『見学自由』なのだ」
「『見学自由』?
どういうことだ?」
「どこを見るのも自由。
スパイでさえ、丸腰で騒ぎを起こさない事を誓約したら『視察』のバッチをつけて砦の中を自由に見て回れるのだ」
「砦内部で見れない部分は当然あるのだろう?」
「それが上手い事考えられている。
『プライバシー保護のため、家の中や生活空間の見学は禁止とする』これが砦の出した禁止事項だ」
「それのどこが問題なのだ?」
「王女や砦の主要人物が生活している部分こそ砦の中央部分、『我々が知りたい部分』で砦が秘密にしたい部分なのだ」
「なるほど。
トップシークレットのない組織などは存在しない、と言う事だな。
・・・しかし王女には手が出せない、という事ではないか!」
「我々にはな。
手を出せる者もいる。
その者に依頼すれば・・・」
ーーーーーーーーーーーーーー
「しかし凄いねー、レノンとマックがいなけりゃ砦の中はスパイと暗殺者だらけだ。
どんな人の嘘でも見破るの?」
俺は新製品の見本の『あんまん』を食べながら言う。
「過去に嘘を言ってるのか本当の事を言っているかわからない人物が一人だけいた。
それが主だ」
見本の『あんまん』を一口かじってレノンは眉を潜めている。
どうやら酒飲みには甘過ぎたようだ。
旨いと思うんだがなあ。
「それに砦の公開時間は朝の十時~夕方五時までだ。
宿泊施設は砦の外側に隣接している。
丸一日、張り詰めている訳じゃない。
夕方以降は呑んだくれている。
休日もある、要らんと言ったのだが」
「これなら砦の中に刺客が入り込む可能性はないね!」
「いや、そんな事はない」
「どうやって刺客が入り込むの?」
「かつてワシが魔族と闘っていた時魔族の中に『転移魔法』を使う者が数名いたのだ」
「その魔族が刺客だったら・・・ということ?」
「いや知る限り、『転移魔法』を使える魔族は全員殺した。
まだ『転移魔法』を使える魔族が残っているかも知れないが、後数千年魔王は復活すまい。
魔族が攻めて来る事など有り得ぬ」
「だったら何が脅威なのさ?」
「脅威ではない。
『転移は可能だ』と言っておるのだ。
魔族の『転移魔法』をトレースした"魔法の天才"がワシらの仲間にいたのだ。
だが、ヤツはとにかく浮世離れしておってな?
隠遁してから数年、表舞台には出てきてはおらん。
ヤツは俗な事に全く興味を示さない。
暗殺なんて興味を示す訳がないのだ。
だがヤツなら『砦の中に転移出来る』と話したのだ」
「結局『転移はしない』って話じゃんか」
「『砦の中に入る方法はある』と言う話だ。
砦の壁を壊す事が出来る者が現れるかも知れない。
砦は先の大戦時、地下からの侵入を許さぬよう、岩盤の上に建っておる。
その岩盤を突き破り地下から敵が現れない、とも限らぬ。
『鉄壁の対空防御』とは思ってはおるが、空から超巨大な力の侵入がないとも限らぬ。
他にも我々が盲点にしている侵入方法があるかも知れぬ。
油断大敵、と言う事だ」
なるほど、心にとどめておこう。
しかしこの『あんまん』、お茶がないと口の中が甘くなり過ぎるな。
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「呼ばれてすぐに来るとは。
転移魔法というのは便利だな」
「前おきは良い。
拐った者達を返せ」
全身緑色のローブを纏った者は杖を円卓に座っている者達に突き付ける。
その声から女性である事はわかるが、声は明らかに怒りで震えている。
「返すさ。
我々の願いを『魔導士様』が聞いてくれたらすぐに、な」
「私は貴様等と取引する気はない。
痛い目にあいたくなかったら、大人しく拐った者達を返せ!」
「それは出来ない」
「なら少しだけ力を使おう」
女性が杖を構える・・・が、魔法は発動しない。
「『対魔結界』か・・・。
くだらん。
私がこの程度の結界を破壊出来ないと思ったか?」
「『魔導士様』が転移してきた後に起動させた結界だ。
我々が作れる精一杯の結界なのだがな。
『魔導士様』はこの結界を楽勝で壊せるようだ。
しかし良いのか?
この結界を壊すには"楔"をいくつも壊さねばならないぞ?
結界の楔はこの王城の主要部に打ち込まれている。
つまり結界を破壊するという事、すなわち『王城を破壊する』という事だ」
「それがどうした?
私が城を破壊する事を躊躇すると思ったか?」
「少しは躊躇してもらいたいね。
何せ城が崩れたら、我々だけでなく王族も巻き込まれて死ぬのだから」
「『だから結界を破壊するのはやめてくれ』と?」
「そう言ってるんじゃない。
城が崩れたら魔導士様の可愛い弟子達も巻き込まれて死ぬぞ?」
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最初は戦災孤児の兄妹に住んでいた小屋の軒先を貸しただけだった。
夜中降った雪は次の日、窓の高さまで降り積もっていた。
その状況で魔導士は兄妹を軒先から追い出せなかった。
魔導士は『雪かきをしたら礼を支払う』と兄妹に言う。
本当は雪など一瞬で消せるのに。
兄妹を小屋にとどめる口実が欲しかったのだ。
一日で雪かきは終わらない。
その間、部屋に住ませて食事を与えた。
雪かきが終わりそうになると、魔導士はさらに雪を降らせた。
魔導士は天候をある程度操れたのだ。
魔導士は口下手で兄妹に『ここにいて良い、ここにいてくれ』とは言えなかった。
しかし春が来る。
いくら何でも雪は不自然だ。
「お世話になりました」と出て行こうとする兄妹に魔導士は言う。
『で、で、で、弟子を実は探していたのさ。
良かったらお前ら、私の弟子にならないか?』
こうして人を苦手としていた変わり者の魔導士に二人の可愛い弟子が出来た。
二人は魔導士から見たら『才能なし』だった。
しかし世間一般から見たら『宮廷魔術士』クラスの化け物だった。
でも魔導士にそんな事はどうでも良かった。
二人が元気に育ってくれたら魔導士は幸せだったのだ。
そんな二人にも弱点があった。
二人は悪意にさらされていない。
魔導士に守られて育ってきたのだ。
二人は人を疑う事を知らない。
魔導士が降らせた雪を延々かき続ける素直さだ。
元々の性格が素直なのだ。
口下手な魔導士は『人の悪意に気をつけろ』と上手く二人に伝えられない。
たまに魔導士のところに来客が来るが、二人は全く警戒せずに来客をもてなした。
だから王都から来た客も二人は全力でもてなした。
「今、師匠は外出しています。
転移魔法で出掛けたから、戻って来るまでそんなに時間はかからないと思います」
妹が来客にお茶を出しながら言う。
魔導士が出掛けた事を客が知らない訳がない。
偽の用事で魔導士を山あいの村に呼び出したのは客なのだから。
「だったらここで待たせてもらってもいいかな?」
「構いません」
「ありがとうね。
あ、おじさん、都の珍しいお菓子を持ってるんだよ。
二人にあげようか」
「でも師匠から『人からもらった物は食べちゃダメ』って・・・」
「大丈夫、大丈夫。
おじさんは魔導士様と仲良しだから。
おじさんからもらった物は食べても大丈夫だよ?
ホラ、舐めてると色が変わる飴玉だよ?
美味しいよ?」
二人は唾を飲み込んだ。
森の中で魔導士は兄妹に不自由がないように生活はさせていたが、森の中の生活は糖分がほとんどなく、菓子は皆無だった。
森の中で暮らす小さな子供にとって『色の変わる飴玉』は魅力的過ぎた。
兄妹は魔導士との約束を破り、飴玉を口の中に
入れた。
眠り薬がまぶしてある飴玉を舐めた子供は、突然バタンと音を立てて机に突っ伏した。
二人の子供を担ぎ上げて男は机の上に置き手紙をする。
『兄妹は預かった。
返して欲しくば、王城の『クリスタルの間』に一人で来い』
その置き手紙を魔導士が読んだのは兄妹が王城の牢屋に入れられた後だった。
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俺は『あんまん』の開発に勤しんでいた。
打倒『肉饅頭』だ。
そこにレノンが駆け込んで来た。
「主、侵入者だ!」
「侵入しようというヤツは毎日何人いるんだよ?
わざわざ報告しなきゃいけないような事なの?」
「言い方を変えよう。
『侵入を許した』」
「え!?
どこから!?」
「わからん。
ただ砦の内部から間違いなく『敵意』を感じる。
ワシだけなら勘違いという事もあるかも知れないが、マックも同じように砦の内部から明確な『敵意』を感じておったのだ!
我等の警戒網をくぐり抜けて砦に侵入した手練れだ。
最低でも我々でないと相手にはならないだろう」
「ちょっと待って?
今、ルーシーさんてどこにいる?」
「マックとリュークが捜索中だ。
王女には隠密のマリーナがボディーガードとして張りついてはいるが、如何せんボディーガードとして実力不足だ」
場所は変わり、岩盤浴出口。
岩盤浴を終えたルーシーとマリーナとリンが街を歩いている。
「やっぱり私は岩盤浴よりも温泉の方が良いわね」とルーシー。
「そうですか?
わたしは岩盤浴、好きですけど」とリン。
「マリーナはどう?
・・・ってマリーナ急に黙りこんじゃってどうしたの?」ルーシーがパタパタと扇子で自分をあおぎながら言う。
「・・・おかしいと思いませんか?
先ほどまでの人混みが嘘のように消えています」
「そう言えば・・・」
「これは偶然じゃありません。
『術』か『魔法』で明らかに『人払い』が行われています!」
マリーナが構えると何者かが声をかけてくる。
「ほう、主人と遊んでいるだけかと思ったがなかなかどうしてボディーガードとして機能していたようだな」
「姫様!危ない!」
マリーナがルーシーを突き飛ばす。
ルーシーを突き飛ばしたマリーナの背中には袈裟斬りに風の刃の魔術の傷跡が残った。
「主人を守るか。
見上げた心がけだが、次も守れるかな?」
影が言う。
(無理です。
実力が違い過ぎます!
誰か!
誰でも構いません!
姫様をどうか守って下さい!)
「助けが来る事を望んでいるのか?
無駄な事を。
ここには人払いの魔術が展開してある」
影が言う。
万事休すか。
マリーナは師匠の言葉を思い出す。
「マリーナよ、人が多くて隠密任務に支障が出た時にはどうすれば良い?」
「はい、諦めます!」
「たわけ!諦めが良すぎだわ!
ノータイムで諦めおって!」
師匠はマリーナの頭をコツンと叩く。
「いててて、降参です。
どうすれば良いんでしょうか?」
「少しは考えろ、と言っとるだろうが。
まあ今回は教えてやろう。
『人払いの術』を使うのだ」
「そんな便利な術が!」
「驚くな!
初歩の初歩じゃ!
隠密の術だけではなく、呪術にも『人払いの術』、魔術にも『人払いの魔術』があるぞ」
「へー!
便利なんですねー人払い!」
「便利で多くの者が使うから、対処方法も確立しておる」
「どんな対処方法ですか?」
「人払いの方法は術によって様々じゃがどの術でも『この先立ち入り禁止』が『人払い』の基本なんじゃ。
マリーナは『立ち入り禁止』の看板に気付かずに『立ち入り禁止』エリアに入ってしまった事はないか?」
「ありません」
「『あります』と言っておけ!
話が終わってしまうではないか!
・・・まあよい。
『立ち入り禁止』の術から気を反らさせる目立つ"何か"をおこなうのだ」
「"何か"って何ですか?」
「少しは自分で考えろ!
・・・そうじゃな、狼煙とかが一般的じゃな」
マリーナは流血で朦朧とする中で煙玉を投げる。
「少しは出来ると思ったが、苦し紛れで煙幕を投げまくるだけか?
とんだ期待外れだ!」
影が緑色のローブを纏った女性の姿になる。
右手には柄に大きな宝石がはめられている杖を持っている。
「姿を現したのはせめてもの情けだ。
『何に殺されたかわからない』では未練も残ろう。
すぐにお前の主人もお前の後を追う」
ローブの女性はマリーナの脳天に杖を振り上げた。
しかしマリーナの脳天には杖は振り降ろされない。
杖はマックの剣で受け止められていた。
「マリーナ、お前の張った煙幕、遠くから見えたぜ?」
マックはマリーナを抱きかかえると草むらに降ろし、ポーションを飲ませた。
「どうしてここがわかった?
『人払いの魔術』がかかっていたのだが」
「簡単な話だ。
遠くから煙玉の煙が見えた。
『何事か』と近寄ってみたら、煙が消えていた。
こんな不自然な事があるか。
『人払い』以外に考えられないだろうが」
「この少女はヤケクソで煙玉を投げまくっていた訳ではないのだな」
「こう見えて王女のボディーガードだぜ?」
「みくびっていた事を詫びねばなるまいな」
「それは本人の意識がある時に言って欲しかったな。
しかし久しぶりだな『魔導士レア』」
「貴方もね『剣神マック』」
「しかし少し見ない間に暗殺の真似事か?
そういう俗っぽい事が一番嫌いじゃなかったのか?
「貴方こそ、誰かに仕える人を『犬』とか言って軽蔑してなかったかしら?
ここで仕えているの?
どんな心変わりなのかしら?」
「募る話もあるし、お互い拳を納めよう・・・って事にはならなさそうだな」
「そうね。
こちらが良くても先に手を出されたそちらは納まらないんじゃない?」
「知らねーよ。
お前が俺の主を傷つけたんなら穏やかじゃないが。
それでも『許す』『許さない』は主が決める事さ。
主は『復讐』とか『恨み』ってモノを否定してる。
王女さんの死んだ従者達への復讐も『俺は手伝わない』って言ってたんだ。
復讐は連鎖する。
復讐に終わりはない。
それが主の考え方だ。
しかし・・・」
「貴方はそんなに大人じゃないでしょう?
私と腕試しがしたくてウズウズしてる・・・違う?」
「そりゃそうだろ?
俺が悟った坊主みたいな男だったら『剣を究めよう』なんて思っている訳がねえ!」
マックが剣を構える。
そして小声でルーシーとリンに「ここは任せな?で、王女さんとマリーナお嬢ちゃんを主のところに連れて行って。そこにはレノンのオッサンがいるはず。ヤツに守ってもらいな」と呟いた。
マックは戦闘狂に見えて、実は周りを庇っていたらしい。
リンは固まるルーシーに「さぁ急ぎましょう!」とせかして砦の中に走って行った。
レアがルーシーに視線を送る。
マックがその視線を遮るように前に立ち塞がる。
「さあ、始めようぜ?」
そう言うとマックは忽然と姿を消す。
次にマックが現れたのはレアの目の前だ。
マックは消えたんじゃない。
速すぎて動きが見えないだけだ。
レアに向かってマックが大剣を振り上げる。
レアは全く反応しない。
速すぎて反応出来ないのか?
振り降ろされた大剣が桃色のバリアとぶつかり火花があがる。
バリアがガラスが割れるように砕け散る!
しかし砕けたバリアの下には更にバリアがあり大剣と激突する。
もう一枚のバリアが砕け散る。
更にもう一枚のバリアが砕け散る。
バリアが砕け散る度に桃色のバリアの色が薄くなる。
濃い桃色はバリアを重ねて展開した時の色だったのだ。
「相変わらずとんでもないわね。
『完全物理防御バリア』を三枚も壊すなんて!
人間じゃないわね、大した化け物ぶりよ!」
「ほざけ!
俺の全力大振りを構えもせずに受け止めるなんてレノンのオッサンでも出来っこないぜ!
化け物はどっちだよ?」
「『全力』ってよく言うわね、全く本気出してないクセに」
「お互いにな!」
そう言ってマックは力を入れると緑色のオーラが身体から立ちのぼった。
レアもそれをただ黙って見ていた訳じゃない。
マックの周りに無数のレアが円になって取り囲んだ。
「スゲーな。
『分身の術』か?」とマック。
「隠密のでもあるまいに。
安心しなさい。
どれも本物、実体はある」とレア。
「どこが安心なんだよ、本当にとんでもねーな!」
「アンタの動きには私はついていけないんだよ。
これぐらいいないとアンタの動きは止められないだろう?
全く、とんでもないのはどちらかしら?」
「もうおしゃべりは充分だろ?
こちらから行くぜ!」
ーーーーーーーーーーーーーー
リンとルーシーが傷ついたマーリンを二人で抱えて、砦の本拠地へ息も絶え絶えに駆け込んで来た。
「どうしたの!?」俺が深手を負ったマーリンを見て叫ぶ。
「・・・レアだな」レノンが呟く。
「この懐かしい気配、まさかとは思ってはおったが・・・こういう時『強者の気配』は探りにくい。
あまりに気配が強すぎて場所を探ろうにも周囲に充満してしまってどこにいるかわからなくなる」
どこにスパイや暗殺者がいるか、すぐにわかるレノンが『レア』という侵入者を探れない理由はそれか。
・・・って事はマックの気配の場所も探れないのか。
「『レア』とは一体?」と俺は聞く。
「『魔導士レア』だ。
世界中の『魔術士』の頂点にいる存在だ。
魔族と争いになった時、ワシやマックとパーティを組んでいた。
しかし人嫌いで口下手でなあ。
世事には疎いはず。
国とは関わらず深い森の中で隠遁していたはず。
暗殺で来たとは考えにくい。
・・・でレアは今、どこにいる?」
「マックさんが現れて私達を逃がしてくれました。
『魔導士レア』はルーシー様を抹殺するつもりのようです。
ルーシー様を守ろうと奮闘したマリーナは深手を負ってしまいました」とリン。
「レア、狂ったか!?」レノンが激しく舌打ちをする。
「大丈夫ですよ!
マックさんですよ?
『剣神』ですよ?」とリンが言う。
「ワシも1対1でマックが負ける事などない、と思っている!
だが相性が悪すぎるのだ!
マックには全く魔力がない!
マックが魔族との闘いで苦戦するのは決まって『対魔法』だった!
『対魔法』の場合、マックを活かすには『補助魔法』は必須だった!
『補助魔法』を使うのはレアとノルン・・・。
しかしノルンは今おらず、レアは今まさに殺し合いの相手だ!
それだけではない!
マックは『攻城戦のエキスパート』なのだ。
逆に『防衛戦』は大の苦手なのだ!
一人で相手に特攻する、それがマックのやり方だ。
しかし守るモノがある時、マックは半分も力を発揮出来ない!」
「今回は1対1、守るモノはないはず・・・」
「この砦を守ろうとしておるだろうが!
どうやらリン殿はマックの本気を勘違いしているようだ。
以前、マックとほぼ互角に闘える魔族との闘いでマックと相手は4つの山々を更地にしたのだ!
マックが砦を守りながらレアを倒す事が出来るとは思えない・・・」
遠くから激しい振動が伝わってくる。
おそらくマックとレアが闘っているのだろう。
「レノンさんが加勢すれば!」
「ワシが加勢して良いのか?
マックはお嬢さんらに『レノンのところに逃げろ。そこで守ってもらえ』と言ったのではないか?
ワシが加勢した途端にレアは戦闘を離脱するだろうな。
何故レアが王女を殺そうとしているのかはわからない。
だがルーシー王女の気配を探って、王女のいる所へ転移して王女を殺すのは間違いないだろう。
かつてのパーティで人の気配を探れないメンバーはいなかった。
ましてやレアは王女と一度顔を合わせている。
レアが王女の気配をロストする訳がない」
「かつてのパーティメンバーは誰の気配でもさぐれたの?」と俺。
「いや、強者の気配は探れない。
気配が強すぎて周囲に充満してしまうのだ。
あとは魔族の優れた術者、隠密に気配を完全に消せる者がいた。
あとは主の気配は全く読み取れん。
気配自体が全くないのだ。
幽霊やアンデッドモンスターですら気配はあるのに。
主は一体、何者なのだ?」
「俺もわかんないよ。
つーか、今はそれどころじゃないし・・・」
「何か・・・何か対策はないのですか?」
ルーシーがすがるように言う。
「レノン、俺からも頼む!」
俺も頭を下げる。
正直、レノンの最優先事項は『オケアノスの無事』なのだろう。
だが、今、主が自分に頭を垂れている。
「わかりました。
リューク、マックへの加勢に向かってくれ」
「・・・勝算は?」とリューク。
「多めに見て一割ぐらいだろう。
しかしこの場でマックの足を引っ張らず加勢出来る者はお前しかいない」とレノン。
「リューク、無茶な事を言っているかも知れない。
でも、マックを助けてくれ!
頼む!」俺は頭を下げる。
「師匠と大恩があるリーダーに頼まれたらイヤとは言えないな。
『岩盤浴場』の近くの裏通りだよな?
戻ってきたら太いエビ食わせろよ?
川のエビじゃないぞ?
海のエビだぞ?」とリューク
「川のエビだろうが、川のカニだろうが・・・ちゃんと用意して待ってるわよ!
・・・生きて戻って来なさい!」とリューカ。
「チェッ、沢ガニかよ!」笑いながらリュークが走って外に行く。
しばらくすると振動の音に少し軽めの振動が加わる。
どうやらリュークが戦闘に加わったらしい。
誰もがマックとリュークの無事を祈っている。
「ちょっとウンコ行ってくる」
俺が言っても誰も気にしていない。
俺は本拠地からこそっと出て行った。
「リューク、どうも分身は能力が低いみたいだぞ!」
「何でそう思うんですか、師匠B?」
師匠Bとはマックの事だ。
因みに『師匠A』はレノンの事だ。
「『師匠』とよばれても自分が呼ばれているのか、マックが呼ばれているのかわからない」というレノンのクレームでオケアノスが考案した。
レノンは嫌がったが、事の発端を作ったのは自分の発言だし主の決定なので無下には出来なかった。
「理由はリュークが相手を出来てるからだ。
レアは魔法の専門家とは言え、本来直接攻撃もリュークよりは遥かに強い」
「マジかよ!」
「じゃないと魔族領を生き抜ける訳ねーだろ?
魔物には『魔法無効』なんてモンスターもうじゃうじゃいるんだぞ?」
「俺、ここに来たの場違いだったかな?」リュークが自信喪失して呟く。
「いや、正直助かってる。
俺の最も苦手な事は『手加減』だ。
それがわかってるからレアも分身しやがった。
分身を潰す事は簡単だ。
でもそれは砦もまとめて潰す事になる。
リュークが分身相手に善戦してくれて良かった!」
「それって誉められてるのかな?
しかし分身一体、一体が『物理防御』のバリアかかってるのは厄介だな」とリューク。
「そうか?
バリアなんて割れば良いじゃねーか」
マックはケロリと言う。
「それが出来るのは師匠Bだけなんだよ!」
「しかしジリ貧だな」
マックの言う通りだった。
何体かのレアは倒した。
しかし一体、一体が魔法を使ってくる。
分身しただけ一体、一体の能力は下がる。
つまり一体の魔法攻撃は大した事はない。
ファイアーボールを食らっても「熱っ」、ストーンバレットを食らっても「痛っ」ぐらいのモノだ。
推測は確信に変わった。
分身を倒せば倒すほど、分身が減れば減るほど、残りのレアは強くなる。
最初のうちリュークにとって楽勝だった(と言ってもバリアの正面からはダメージが与えられない)レア達が徐々に強くなる。
これは手強い!
コイツらの魔法食らったら当たりどころが悪かったら死ぬかも知れない!
無闇やたらに分身を減らしたらダメだ!
・・・そうリュークが思っているのに、マックはバリアごと五人のレアをいっぺんに両断する。
倒さなきゃ勝ちはない。
マックのやってる事は間違いじゃない。
でも・・・。
(住んでる世界が違う!)
リュークは内心絶望した。